はじめに
前回は、短期合格には解答ミスの原因分析が必要不可欠であること、そして自分の間違いを認める素直なマインドを持つことの大切さについてご紹介しました。今回は、具体的な事例をもとに、解答ミスの原因分析方法をご紹介したいと思います。
「なぜ」を繰り返す
解答ミスの原因分析をするには、「なぜその問題を間違えてしまったのか」という問いを何度も繰り返すことが大切です。これは一見当たり前のことのようにも思えますが、ポイントは「何度も繰り返す」というところにあります。一度解いた問題の答え合わせをするときに、間違えた理由を少なくとも1回は考えると思いますが、普段から数回にわたって何度も考えるようにしている方は少ないのではないでしょうか。
一例ですが、日本を代表する自動車メーカーであるトヨタは、お客様から注文を受けたクルマをより早く届けるために最も短い時間で効率的に造るための”トヨタ生産方式”を採用しています。 そして、その”トヨタ生産方式”は今や世界中で知られており、改善を積み重ねて確立したトヨタ独自の効率的なモノづくりの思想だと言われています。そんな”トヨタ生産方式”では、問題解決方法の一環として「なぜなぜ分析」という考え方が用いられています。「なぜなぜ分析」には、”問題を発見したらなぜを5回繰り返す”という特徴があり、これにより問題再発を防止するための根本原因分析を行っているそうです。私は「なぜなぜ分析」は解答ミスの原因分析を行ううえで非常に役に立つ考え方だと考えています。
短答式試験の直前期に本試験想定の答練に取り組み、財務会計論においてストック・オプションの計算問題を間違えてしまった場合を考えてみましょう。計算問題の答え合わせをした結果、解答ミスに気づき「なぜなぜ分析」をしたとすれば、たとえば次のような分析結果(ケース1、ケース2)が得られるでしょう(以下はあくまで分析の一例です)。
(ケース1)そもそも解答に必要な計算方法が理解できていなかった場合
Q1. なぜ計算問題をミスしてしまったのか?
→計算問題を回答できる能力を持ち合わせていなかったため。
Q2. なぜ計算問題を回答できる能力を持ち合わせていなかったのか?
→問題の解答に必要な計算方法が理解できていなかったため。
Q3. なぜ問題の解答に必要な計算方法を理解できていなかったのか?
→計算方法を一度学習したことはあるものの、計算方法を忘れてしまっていたため。
Q4. なぜ計算方法を忘れてしまっていたのか?
→ストック・オプションの問題練習の時間を確保できていなかったため。
Q5. なぜストック・オプションの問題練習の時間を確保できていなかったのか?
→財務会計論の他分野の学習に注力しており、全ての学習分野をバランスよく学習できていなかったため(真の原因)。
(ケース2)試験時間内に計算に必要な時間を確保できていなかった場合
Q1. なぜ計算問題をミスしてしまったのか?
→計算問題を回答できる能力を持ち合わせていなかったため。
Q2. なぜ計算問題を回答できる能力を持ち合わせていなかったのか?
→答練の試験時間中に、ストック・オプションの計算問題を回答するのに十分な時間を確保できていなかったため。
Q3. なぜ問題の解答に必要な計算時間を確保できなかったのか?
→答練の試験時間中に、試験問題別の解答ペース配分を考えることができていなかったため。
Q4. なぜ試験問題別の解答ペース配分を考えることができていなかったのか?
→試験開始時に答練の全問題を確認し、各問題の分量に応じたペース配分を考えることができていなかったため(真の原因)。
上記のケース1とケース2では、解答ミスに至った真の原因を探るべく、それぞれ”なぜ”を4~5回程度繰り返し、「なぜなぜ分析」に取り組んでいます。どちらのケースもQ1「なぜ計算問題をミスしてしまったのか?」という問いだけでは、「計算問題を回答できる能力を持ち合わせていなかったため。」という同じ分析結果となっています。一方で、その後何度も”なぜ”を何度も繰り返すことで、解答ミスに至った真の原因にたどり着くことができています。
ケース1での解答ミスの真の原因は「財務会計論の他分野の学習に注力しており、全ての学習分野をバランスよく学習できていなかったため。」であり、これはすなわち財務会計論の日々の学習の進め方自体に改善点があったということを意味しています。
ケース2での解答ミスの真の原因は「試験開始時に答練の全問題を確認し、各問題の分量に応じたペース配分を考えることができていなかったため。」であり、これはすなわち答練の解き方自体に改善点があったということを意味しています。
上記をご覧いただければ、たった1度の”なぜ”だけでは解答ミスの真の原因にたどり着くことができていないということがお分かりいただけるのではないかと思います。そして、何度も”なぜ”を繰り返す「なぜなぜ分析」の大切さを実感いただけたのではないでしょうか。
おわりに
今回は、”トヨタ生産方式”で採用されている「なぜなぜ分析」をご紹介したうえで、具体的な事例をもとに解答ミスの原因分析方法をご説明しました。次回は、「なぜなぜ分析」を実践するうえでのポイントをいくつかご紹介いたします。