はじめに
目的なき就職は、自らを苦しめる
近年の監査法人採用状況は極めて良好です。学生はもちろん、社会人でも30代前半くらいであれば、論文試験さえ合格すればほとんど顔パスで内定を得ることができます。でも、目的意識なく監査法人に入所してしまうと、かなり高い確率で2,3年後に大きな不満を抱えます。いくら専門家キャリアとはいえ、長時間労働やルーチンワークの連続などは当たり前のように存在するからです。
入所直後から不満を抱え、3年目で退職した同期
合格3年目を迎える今年、同じ部署の同期が激務を理由に退職しました。会計士キャリア最初の2年間は末端の監査手続の連続で苦労はありますが、その後の監査計画の立案、重要勘定科目監査の基礎となる大切な期間です。他業種に転職する場合でも、工場や支店などのビジネスの最前線に出向いて会計数値を検証していく経験は、「財務諸表が表すストーリーを読み解く」という監査人独自のスキルの基礎を築くことにもつながります。
その意味で、今のタイミングで、しかも消極的な理由で辞めてしまった同期は非常に惜しいと思いました。印象的だったのは、彼は入所まもない時、まだそこまで仕事が忙しくない時から「仕事がつまらない」と愚痴をこぼしていたことです。入所する前にしっかりと監査の仕事について話を聞き、その範囲でやりたいことを明確にしていたなら、こうしたミスマッチも防げたのではないかと強く思います。
そこで今回は、会計士キャリアの方向性を定めるうえで極めて大切な就活に焦点を当て、会計士就活の位置付けとともに具体的な攻略法をお伝えします。憧れの会計士キャリアを現実にするためのあと一歩を、一緒に考えていきましょう。
1. 会計士資格が選択肢を与え、「自分」がやりがいを見つける
会計士資格が与える、たくさんの専門領域への入り口
会計士資格は、多大な可能性を与えてくれます。会計監査の中だけでも、金商法監査(有価証券報告書+内部統制報告書)、会社法(計算書類)、IPO監査(上場準備会社の上場前2年間の財務諸表)があり、各監査業務にはそれぞれクライアント企業の業種別に専門性(IT・テクノロジー系、小売・卸売・販売業、製造業、銀行・証券業、保険など)が広がっていきます。これらに非監査業務と言われる会計・内部統制アドバイザリー業務、M&A支援業務などを加えると、極めて多くの選択肢があることがわかるでしょう。
自分が見つける、たった一つのやりがい
でも、いくら選択肢があってもただその環境に身を置くだけでは満足や充実は得られません。専門家として気概を持ち、経験と実績を着実に積み、専門性を求めるクライアントに役に立てた時、そこにはじめて「やりがい」が生まれるからです。資格が与えてくれた選択肢を自分のものにできるかどうかは、選んだ後の自分に懸かっているのです。
2. 9月のリクルートイベントが、就活のカギ
会計士就活は、スタートが勝負
では、どうすれば膨大な選択肢から自分が頑張りたいと思える一つを選べるか。それは、とにかくたくさんの「生の情報」に触れることです。インターネットにある「会計士の仕事」情報は、ほとんどが概略に過ぎないものか、昔その業界で働いていた人(監査法人を辞めた人など)の過去情報です。いま、最前線で活躍する会計士の情報は、ネット上にほとんど存在しません。それらが唯一集結する場が、「監査法人のリクルートイベント」です。
リクルートイベントには、部門のエースが集結する
国内大手4大法人は、例年9月上旬に大型リクルートイベントを開催します。特徴的なのは、各業種別監査、各種アドバイザリー、税務など、監査法人グループ各社が集まる点です。しかもそこにいるのは、法人の顔となるべく人事部に選抜されたエース職員たちです。彼らが話す業務内容は、現在のトレンド(たとえば監査報告書の改定、AI監査など)を踏まえた最先端かつ具体的な話です。何より、彼らが各専門業務において何を重視し、何を成し遂げたのかを一つ一つ紐解いていくことで、「その道でやりがいを見つけた人たち」の正解例を知ることができます。この正解同士で好きな方を選ぶことこそ、私が最もオススメする就活攻略法なのです。
3. 就活の充実は、会計士キャリアの充実に直結する
正解同士から好きな方を選ぶと、原動力になる
就職先も、希望職種も、メリット・デメリットで悩んでいる限り、どこかで必ず後悔します。それは、その考え方が「こっちの選択肢を選んだ方が、自分に満足を与えてくれる」というお客様気分だからです。そうではなく、現場の最前線で輝く複数の業界のエース職員からたくさんの「正解例」を見聞きし、自分の目指す「光」を見つけて欲しいのです。たとえ論理的に説明できなかったとしても、なんとなくだったとしても、心の底から「カッコいい」「面白そう」と思えたら、本物です。自分の心の琴線に触れる「光」を見つけましょう。そこに向かって精一杯走る姿こそ、会計士キャリアの充実なのです。
合格発表までの3ヶ月が、会計士キャリア開始3年間の土台になる
就活のスタートとして、まずは9月の大型イベントに参加しましょう。そしてイベントで出会った人を中心に、今度は個人単位で多くの現役会計士に接触しましょう。無数にいる現役会計士から自分の心に響くたった一つの正解例を見つけることができれば、あとは好きなだけその道の情報を集め、ワクワクしながら入社を待つだけです。会計士キャリアで大切な最初の3年間を輝かせるために、論文式試験の直後3ヶ月を本気で過ごしてみませんか。