開業にあたってのご相談について
─── では、今度は実際に開業しようと決めた後で、開業までの道のりについてお伺いしていきます。まず、開業するにあたって、どなたかにご相談はされましたか。
中辻 一番仲が良く、研修を終えてすぐに独立されている同期合格者で、研修当時からずっと良くしてもらった方に一番相談していたと思います。あとは身内です。身内では叔母が一番です。やはり、せっかく取った資格だからやってほしいと。私が司法書士とは関係のない仕事も選択肢として持っているという話をしたときに、「せっかくあなたは30歳にもなって資格を取ったのだから、司法書士をやってほしい」ということを言われて、それで1回やってみようと思いました。
この同期の方と身内以外には相談はほとんどしていないです。
─── その同期の方も、「独立を早くしたほうがいいよ」とお勧めになったのですか。
中辻 いえ、そうでもないです。「何をやったらいいのか分からない」というのなら、1年ぐらい勤務司法書士をするのも手ではないかと言ってもらいました。それと、「中辻君なら、講師の道に進むことを考えてもいいかも?」というようなことも言ってもらいました。
開業の話だけでなく、そういう話もしました。ただ、やはり司法書士業とは全然関係のない仕事をするということについては、「正直、何年かたったら戻れないと思う。絶対できない。全然関係ない仕事を5年やって、お金貯めて、それで自分の金でいきなり独立するとか、それは無謀だと思う。それだったら、借りてでも今やったほうがいいと思う」というふうには言ってもらいました。
開業資金
─── なるほど。よくわかりました。では、今度は開業するにあたっての費用について伺います、司法書士は、例えば普通の会社設立などに比べますとそれほど費用はかからないと言われていますが、どう思われますか。
中辻 そうですね。まず、個人事務所であれば設立登記が不要ですしね。本当に初期費用を抑えようとするのであれば、パソコンとプリンターとFAXを揃えて、自宅で開業できますからね。
─── とは言え、それなりに開業資金はやはり必要になってくると思うのですが、開業資金については、実際にどのように準備なされたのかをお聞かせください。
中辻 正直、金融機関からの融資については、提供できる担保がなかったため無理かなと思っていました。青年会の集まりに参加したときに、同じ京都会の司法書士の先生に、「国金で借りたらどうだ?
計画表みたいなものを出したら審査してくれるし、国金を使って開業したら?」と言っていただいていたので、国金に当たってみようかと思っていたところに、身内からまとまった額が借りられそうだったので、身内から借りられるのだったら、そちらのほうが楽かと思って借りました。
ただ、もしかしたら甘えが出るかもしれないと思ったので、きっちり消費貸借契約書を一部ずつ作って、2,000円の印紙もちゃんと貼って、私の印鑑証明書も渡して、贈与とみなされないようにしました。そして月々いくらずつ返済していくということを契約で取り決めて、契約書に盛り込み、実際にそれを毎月振込みで返済していっている状態です。親族間のお金の貸し借りは贈与とみなされやすいので、返済したという証拠を残しておくという理由で、振込返済にしています。一応、甘えが出ないようにということで、そういう工夫はしました。
─── 法律家ですから、そういう契約書面はしっかりと作られていると思います。実際に開業するにあたっても、最初は自宅で開業をする方、あるいは、物件を借りて開業する方とかによっても費用などは違いますが、中辻さんの場合、物件を借りて開業をしました。最初は開業資金がどれぐらい必要になってくるのでしょうか。
中辻 あまり言いたくはないのですが(笑)、私の場合、開業地である京都の亀岡は田舎なので車が必要だった分も含めて、もちろん借りた額は言えませんけれど(笑)、車、物件契約、初回家賃、ネット電話設備、事務用の家具や備品等、書籍、あとは司法書士の登録費用が結構高いので、全部で200万円位は準備だけで使っていると思います。
─── 今伺った費用は、全部が必要経費ですよね。言いにくいお話をありがとうございます。
中辻 いいえ、大丈夫ですよ。私は、必要かなと思ったものは、とりあえず揃えておきたいタイプの人間なので、他の人よりもお金をかけてしまっている方だと思います。購入したけど、いまだに使っていないものも沢山あります。だから、必要になったときに購入する方がいいと思います。
物件選び
─── では、今度は物件についてお伺います。物件とひと口に言いましても、お客様の兼ね合いなどを考えるとやはりある程度は便の良い所を選びたいと思います。では、どこに開業するのが良いか考えるときになると、いろいろな考え方があると思われます。中辻さんの場合はご自身の育った場所での開業ですが、物件を探すときに、どんなことに注意して最終的に事務所の場所を決められたのかという物件の決め方についてお聞かせいただけますか。

中辻 正直、初めは自宅開業もありではないかと思ったのですが、さすがに母がそれはやめてくれと。では、どこかを借りるかということで、一番は家賃がどれだけ安いか、また、見た目がそこそこ綺麗な所という2点です。家賃と見た目を一番重視しました。3~4軒ぐらい不動産屋にピックアップしてもらい、ここがいいと決めた所がたまたま法務局の近くだったのです。
あとは、同期合格の方に、アパートの1室で開業しようと思うと相談をしたところ、お客様に階段の上り下りをしてもらうことを考えると1階が良いのではないかとことだったので、はじめに不動産屋に何軒かピックアップしてもらうときに、「1階でお願いします」というのは言いました。また、オートロックだとお客様が入りにくいということがあるので、オートロックなしの所でお願いしました。また、探してもらうときに、アパートだとお風呂が付いているので、トイレとお風呂はセパレートであることもお願いしました。
これはたまたまなのですが、選んだ所の近くに郵便局もありました。郵便局は近いほうが絶対にいいと思います。司法書士業務は郵送でのやり取りをすることが結構多く、また、印紙、切手、レターパックを買うことが多くなるでしょうし、法務局の近くであることも大事かもしれないのですが、郵便局も近くにあったほうが、便が良くていいと思います。
─── なるほど。法務局の近くに開業した方や駅の近くに開業したという話はよく聞くのですが、郵便局が近くにあったほうがいいということを聞くと、改めてそのとおりだと思いました。この話は、私も聞いたことがなかったので、すごく参考になりました。
中辻 自分の感覚なのですが、レターパックも買いだめをすればいいのでしょうけれども、赤い方のレターパックは10枚買うと5,100円かかります。やはり初めのうちは1枚ずつ買いたいのです。買いに行くのにガソリン代をかけるのは少しもったいないので、私の場合は歩いて買いに行っていますが、郵便局が近くにあるというのはすごくラッキーだと思います。
─── そうですね。抑えられる経費はもちろん抑えたほうがいいし、必要な経費は必要な経費として当然かかっていくでしょうから、そういう面では確かに郵便局が近くというのは、物件を探す上での1つの要素としては非常に有意義な話ですね。
中辻 たまたま近くにあったのですけれども。私の場合は結果オーライ的な感じですね。
開業するにあたって用意した物
─── 続いての質問です。実際に物件が決まったと言っても、今度は実際に業務を行なうに当たって、当然、デスク、パソコン・プリンター、あるいはお客さんがいらっしゃるとなるとお客さんをお迎えするテーブルやソファーのような物が必要になってくると思います。事務所を開業するにあたってどんな物を用意されたのかお聞かせ頂けますか。
中辻 私は司法書士登録と同時に開業をしたので、まず、登録申請の準備を進めていました。登録申請時に事務所の所在地を書く欄があったので、まずそれを決めなければいけないということで、物件をここにすると決めて、引き渡し日の翌日にインターネット工事を入れました。早いほうがいいと思いましたので。そのときに、光電話の番号を取って一緒に工事をしてもらい、物件引き渡し日の翌日には電話とファックスとインターネットがつながるようにしました。まだその時は仕事用のパソコンを買っていなかったのですが…。
その後に登録申請はできたので、あとは登録の審査会や手続きを待っている間に、机・本棚・応接セットを準備しました。パソコンは知り合いの会社に、ウィルスソフトやオフィスソフトなど、全部一式でこれだけでやってくれと丸投げをして、やってもらいました。また、名刺と挨拶文もその会社に作ってもらいました。
あとは書籍の購入。これに20万円弱。大人買いしてしまいました(笑)。それと、司法書士向けの備品を販売する会社で、司法書士がよく使う印鑑セットや名入れ封筒、登記完了後にお客様にお渡しする書類を綴るファイル等の備品を買いました。
また、物件を決める時期に職印を作りました。登録申請時に職印の届出が必要なので、登録申請前に職印を作りました。
車は、中古の軽自動車を購入しました。物件の契約をした時期に納車されました。
登録が完了した後、文房具類等を購入しました。
─── 改めて伺うと、こまごまと結構いろいろな物が必要ですね。やはり1つの事務所を開いて、その代表でやるということになると、いろいろな物が必要になるのだということを改めて感じます。
中辻 正直、書籍については、受験時代のテキストを使って調べたりすることもできますし、書籍を持っている先生の事務所に見に行かせてもらうこともできます。私は思い切って揃えましたが、初めは案件を受けてから、それに対応する書籍を購入するという感じでもいいのではないかと思います。私は、ある程度の書籍を事務所に置いてスタートさせたいと思っていたので買いました。本音を言うと、お客様が相談に来られたときに本棚がスカスカだったら恥ずかしいですからね(笑)。
─── 私もいろいろなクレアールOBやOGの司法書士事務所に伺っていますが、やはり法律の専門家としての見た目というのは大切だと思います。初めて会う司法書士さんがどんな人なのか不安に思っているお客さんはいらっしゃると思いますので、そういう面では法律の専門書が用意してあるということは、やはり信頼を得られ、安心感を与えられる要素の一つであると思います。どこの事務所に行っても、きちんと法律の専門書、例えば六法1冊ではなく、いろいろな専門書を置かれているので、そういう面では必要なのでしょうね。私はクレアールOBやOGの司法書士事務所に伺うと、いつも書籍類は揃っているなと思います。実務を始められると日常が忙しく、そういったところまで手が回らなくなってしまうので、最初に用意したほうがいいのではないかと思います。