Read Article

司法書士一発合格者の開業までの道のり(5)

 

 

司法書士の試験と実務のつながり

─── また話は少し変わって、司法書士の試験と実務のつながりにつきまして伺います。司法書士試験はいわゆる実務家の登用試験と言われていて、実際、受験勉強で学習することが実務に役立ち、特に登記関係などは受験時代の知識が役に立つと言われていますが、実際に仕事を始めるに当たって、受験勉強と実務の関係について、どのように感じますか。

中辻 私は不動産登記の依頼しか受けたことがないので、それ以外の業務に関しては、試験と実務のギャップというところはまだ分かりません。不動産登記業務については、依頼が来たら、まずは実体関係がどうなっているのかというのを聞き出して、どういった権利変動が起きているのかという実体判断をしたうえで、例えば所有権が移転しているのであれば所有権がどういった理由で移転したのかを把握しますし、所有権を移転させたいという依頼であれば、どういった理由で移転させるのが一番いいのかを考えます。後者は少し大変です。登記費用以外の費用、例えば登録免許税以外にも課される税金の額等も考慮しなければなりませんから、所有権を移転させる理由=登記原因の選択は慎重になります。登記原因が定まれば、申請書を作成します。ここまでは試験勉強と一緒というか、基本的なことだったら試験勉強で培ってきたもので充分対応できます。記述試験を解くのと同じプロセスで業務を進めます。

申請書はある程度作成することができます。添付書類も何が必要かということはわかります。ですが、ここからは少し苦労します。例えば登録免許税の課税価額は何を基に算出するのかとか。これは固定資産税の評価額なのですけれども、これについての評価証明書が登録免許税算出の根拠として実務では添付書類になるというのも知りませんでした。

今度は、その登録免許税をどうやって納めるのか。印紙で納めるということがわかっていても、その印紙をどういうふうにどこに添付したらいいのかとか、あとは、添付書類の綴り順とか。これについては法律では決まっていないのでしょうけれども、法務局から「このような綴り順でお願いします」という通達がありますから、それに従って綴っていきます。それから、申請代理人として押印する自分の印鑑は申請書のどこに押せばいいのかとか、どこに割り印が必要なのかとか、原本還付の原本はどのように法務局に提出したらいいのかとか。申請に至るまでの細かなことで実務ではどうしているのかというところは全然分からなかったです。勤務経験がある方は、こんなところに苦労しないのですが。
受験勉強の知識でできることといえば、簡単な実体判断と登記申請書の作成と添付書類に何が必要かというのを把握するということぐらいですかね。でも、これが不動産登記業務の中で一番重要なので、司法書士試験が実務家登用試験と言われているのでしょうね。

先ほどに挙げたような部分というのは、聞いたり調べたりすることですぐに解決できることばかりですし、受験時代に知る必要もないと思います。

─── 受験勉強でできることはもちろんあるけれども、実際に世の中で仕事をしていく中では、世の中の慣習というわけではありませんが、そういったようなことをやはり勉強しないといけないということもあるわけですね。

中辻 はい。そうです。

 

司法書士としての今後のビジョン

─── わかりました。質問のほうも終盤に入ってきました。実際に開業をなされて間もないですが、今、司法書士はすごく職域が広がってきていて、従来の登記関係業務だけでなく、例えば成年後見も非常に増えてきています。あとは、従来は相続では相続登記が中心だったのが、相続全般のところを実際に依頼されるケースが多いなどという新聞記事も出て来ていて、司法書士の活躍する場がどんどん広がっていっていると思います。中辻さんは開業された中で、まだまだ試行錯誤されている部分もあるかと思うのですが、今後の将来的なビジョン、あるいは、今後、司法書士としてこんなことをやっていきたいという展望みたいなものがありましたら、お聞かせいただけますか。

中辻 正直、現段階では相談とか具体的な依頼とか、来たものはとりあえず全部受けて、全力でやろうという感じだけなので、自分の事務所がどういう事務所になっていくのかというのはまだ全然わからないのですが、現状、自分の中では高齢者に関わる案件をトータルでサポートしていけたら良いなと思っています。

不動産登記の件数は毎年減っているのですが、その中でも相続とか贈与を原因とする不動産登記件数は増えています。そういう相続・贈与を原因とする不動産登記業務ももちろんそうなのですが、成年後見業務や、相続に関する争いを未然に防ぐための遺言書作成業務等、高齢者をトータルでサポートできるような事務所にしたいという思いはあります。

─── 司法書士さんは、基本的には依頼を受けた案件を「受けていきます」というのは司法書士の職責でもありますから。

中辻 そうですね。依頼に応ずる義務がありますからね。

─── 高齢者の方からすると、中辻さんだとお孫さんの世代になるかもしれませんね。

中辻 そういう方もいらっしゃいますね。

─── そういった方の立場に立って地道にサポートしていくのは、これからますます必要ではないかと思います。特に高齢者の方の場合は、お孫さんをすごくかわいがる年代ですから、そういう面では、お孫さんくらいの年代の方が高齢者の方の支えになっていく成年後見などの分野も広がっていますから、そういう分野で司法書士の方がご活躍できたらいいのではないかと思います。

話は変わりますが、実際に、中辻さんは司法書士として独立されて、受験を始める前、受験勉強をされている間と、実際に実務をやられている中でのギャップみたいなものは感じたことがありますか。

中辻 受験前は、「不動産登記って何?」というようなレベルから勉強を始めたので、学習を開始してからしばらくは、司法書士がどんな業務をしているのかもほとんどわかっていない状態でした。学習を進めていくなかで、不動産登記業務は登記関係書類を不備なく揃えて、法務局に対してお客様を代理して登記申請をする業務だということがわかったのです。

実際に登記申請の代理をすると、間違っていないかの確認、確認また確認で、一文字ずつの確認を何回もするという、思っていたよりも意外に地味な仕事です。

─── 試験だと、例えばその年の問題にもよるのですが、いわゆる記述式の答案は7割か8割ぐらい取れたらほぼ合格点です。しかし実際、実務で7割か8割しか申請書ができていなかったら大変なことになりますよね。

中辻 そうですね。間違いがあれば補正したり、場合によっては登記申請を取下げないといけませんからね。

─── そういう面では、やはり実務では100%できないとだめなわけです。

中辻 そうですね。

─── そういう面でのプレッシャーは、すごくありますか。

中辻 初めての登記申請は、午前中にしたのですが、完了予定日が翌日の午後になっていて、登記官に「翌々日に来ていただければ確実に上がっていると思います」と言っていただいていたので、申請日と次の日に法務局から電話が鳴らないことを祈っていました。事務所の電話が鳴ったらビクってなりました (笑)。

やはり100%でないとだめですし、間違いがあってはいけないので。どんな仕事でもそうなのでしょうけれども、確認が多い業務だとは思いました。

─── 司法書士の場合、人、物、意思の確認は絶対にやらなければいけないですから。

中辻 そうですね。

─── それを怠ると、最悪、懲戒対象になりますので。

中辻 そうですね。

─── 法律の専門家として求められている水準というのは非常に高いものがありますよね。

中辻 はい。ただ、依頼者から信頼されるようになるために当然のことだとも思います。

 

受験生へのメッセージ

─── では、最後の質問になります。中辻さんは司法書士試験に一発合格されて、今回、無事に開業をなさった段階ですが、これから司法書士を目指そうと思っている方、あるいは、既に試験合格に向けて勉強をされている方に対して、法律家としてスタートした中辻さんからのメッセージやアドバイスみたいなものが何かあればお聞かせください。

中辻 偉そうなことは言えないですし、大学などで法律の学習を既にされている方にはためにならないかもしれないのですが、私は法律の学習未経験でクレアールの講座を取ったので、受講開始直後から半年ぐらい経過するまではわからないことだらけで、先に進むのが気持ち悪くなるくらいに学習しても、学習しても、やったところが理解できていないような気になって、なかなか先に進めない状態に陥っていました。しかし、わからなくてもまずは先に進めることを一番大事にしてほしいと思います。

あとは、勉強は毎日やってください。5分でも10分でもいいので、少しでもいいから今日もやったと。365日ずっと続けたほうが絶対にいいと思います。

─── はい、わかりました。今日は貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。合格された方が実際に開業するにあたってどんなことをやってこられたのか、開業までの道のりを本日は伺わせていただきました。
また何年か経過すると、実務経験もその分積まれていかれることと思います。また中堅と言われるぐらいの司法書士さんになった頃に、詳しい司法書士の実務の世界のお話をお聞かせいただきたいと思います。

─── 本日は開業というテーマでいろいろなお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。これから事務所の繁栄、そして法律の専門家としての中辻さんのご活躍を心から期待しております。

中辻 こちらこそありがとうございました。

 

中辻哲郎先生

 

Return Top