中小企業診断士の資格を取得するための最初の関門である1次試験。合格を勝ち取るためには、試験の概要や目安となる勉強時間について、正しく理解しなくてはいけません。この記事では、中小企業診断士の1次試験に関する基本情報や勉強方法などについて、詳しく解説します。
中小企業診断士の1次試験では何が問われる?
中小企業診断士の試験では、中小企業の経営や財務、法律にまつわる幅広い知識が問われます。試験は1次試験と2次試験で構成され、1次試験では下記の合計7科目が出題されます。
【中小企業診断士1次試験の科目】
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理(オペレーション・マネジメント)
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・中小企業政策
上記7科目は多肢選択式の筆記試験で知識が問われ、各科目の合格率は10%~35%程度であり、年度によって科目間の難易度の格差が見られます。そのため足切りで足元をすくわれないよう全科目しっかりと対策を講じる必要があります。

中小企業診断士の1次試験の概要

中小企業診断士の受験の前に、試験の概要について理解する必要があります。ここでは、中小企業診断士の一次試験の受験資格や試験日程、合格基準について解説します。
受験資格
中小企業診断士試験には年齢・学歴の制限がなく、誰でも受験できます。そのため、社会人だけでなく学生でも中小企業診断士の資格取得が可能です。
ただし、実際に中小企業診断士として登録を行う際に以下の要件に当てはまる場合は、登録を拒否される可能性があります。特に未成年者の登録の際は注意が必要です。
- 未成年者
- 精神の機能の障害により中小企業診断士の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
- 破産者であって復権を得ないもの
- 禁錮以上の刑に処せられた者であって、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から 3年を経過しないもの
- 国会職員法、国家公務員法または地方公務員法の規定により懲戒免職の処分を受けた者であって、その処分を受けた日から3年を経過しないもの
- 弁理士法、公認会計士法、弁護士法、税理士法または技術士法の規定により登録の抹消、取り消し若しくは消除の処分(本人に登録を存続させる意思がないと認められることまたは本人が当該業務を廃止したことを理由とするものを除く。)を受け、または業務を禁止された者であって、その処分を受けた日から3年を経過しないもの
- 正当な理由がなく、中小企業診断士の業務上取り扱ったことに関して知り得た秘密を漏らし、または盗用した者であって、その行為をしたと認められる日から3年を経過しないもの
- 1~7までに掲げるもののほか、中小企業診断士の信用を傷つけるような行為をした者であって、その行為をしたと認められる日から3年を経過しないもの
- 「規則」第6条第1項の規定により登録の取り消しの処分を受けた者であって、その処分を受けた日から3 年を経過しないもの
(参照:「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則」第5条)
試験日程
項目 | 日程目安 |
---|---|
試験日程などの発表 | 3月中旬頃 (令和7年度:2025年3月12日) |
出願期間 | 4月末〜5月末 (令和7年度:2025年4月24日(木)5月28日(水)) |
筆記試験 | 8月の第1週前後 (令和7年度:2025年8月2日(土)・3日(日)) |
合格発表 | 9月上旬 (令和7年度:2025年9月2日(火)) |
試験の日程は例年3月中旬頃に、試験を運営している中小企業診断協会の公式ホームページで公開されます。令和7年の試験については、出願期間や試験日は2025年3月12日に公表されました。
ただし、これらの詳細な日程は毎年変わるため、最新情報は中小企業診断協会の公式ホームページで確認しましょう。
試験場所
札幌・仙台・東京・名古屋・金沢・大阪・広島・四国・福岡・那覇の10地区
中小企業診断士の1次試験は、日本全国10箇所の地区で行われます。金沢と四国は2023年度から試験的に運営が開始される予定です。四国については、2023年度は松山会場で実施、翌年以降は高松会場と交互に開催が予定されています。
中小企業診断士1次試験の具体的な試験会場の名前や住所は、受験票もしくは試験1カ月前に公式サイトから確認可能です。
試験科目
日程 | 科目 |
1日目 | A経済学・経済政策(60分) B財務・会計(60分) C企業経営理論(90分) D運営管理(オペレーション・マネジメント)(90分) (多肢選択式・各科目100点満点) |
2日目 | E経営法務(60分) F経営情報システム(60分) G中小企業経営・中小企業政策(90分) (多肢選択式・各科目100点満点) |
中小企業診断士の1次試験は2日間の日程で行われ、1日目は4科目、2日目は3科目実施されます。試験はすべてマークシートを使った多肢選択式での出題です。
両日ともに午前から午後にかけて試験が実施されます。長時間の試験なので、集中力を要する試験といえるでしょう。
合格基準
全体 | 第1次試験の合格基準は、総点数の60%以上であって、かつ1科目でも満点の40%未満のないことを基準とし、試験委員会が相当と認めた得点比率 |
科目ごと | 科目合格基準は、満点の60%を基準として、試験委員会が相当と認めた得点比率 |
中小企業診断士の1次試験には、1次試験自体と科目ごとの免除制度があります。具体的には、過去2年間に受けた1次試験で合格点に達していた科目については、受験が免除されるという仕組みです。
また、税理士や公認会計士など一部の他資格を有する人も、科目ごとの免除が受けられます。免除の詳細については、公式サイトの試験案内をご確認ください。
受験手数料
14,500円(税込)
中小企業診断士1次試験の受験料は14,500円(税込)です。試験運営にかかる費用の上昇により受験料の改定が行われたため、2023年度から値上げされました。受験料は、科目免除を利用して受験をする場合であっても割引されません。
合格発表の方法
中小企業診断士の第1次試験合格者には、合格証書と第2次試験申込書類が簡易書留郵便にて送付されます。科目合格者(本年度に受験した科目の科目合格者)の場合は、科目合格通知書が簡易書留郵便にて届きます。
また、2023年度からは掲示による合格発表が行われなくなりました。不合格者には通知は送付されないので、注意が必要です。
1次試験全体の難易度
2024年度受験者数(人) | 2024年度合格者数(人) | 2024年度合格率(%) | 2023年度受験者数(人) | 2023年度合格者数(人) | 2023年度合格率(%) | 2022年度受験者数(人) | 2022年度合格者数(人) | 2022年度合格率(%) |
18,209 | 5,007 | 27.5 | 18,621 | 5,521 | 29.6 | 17,345 | 5,019 | 28.9 |
中小企業診断士の1次試験の合格率は例年30%程度で推移しています。受験者数に波はあるものの、1次試験の合格者数は年々増加しています。しかし、年度によっては合格率が30%を切ることもあり、1次試験とはいえ決して易しい試験ではありません。
中小企業診断士1次試験の科目の特徴

中小企業診断士1次試験に合格するためには、それぞれの科目の特徴について知っておく必要があります。ここでは、各科目の特徴を解説します。
経済学・経済政策
経済学・経済政策は、経営上の意思決定を行うのに欠かせない、マクロ経済指標に関する知識を問う科目です。具体的には国際収支と為替相場に関する理解、雇用統計など、各種経済指標の読み方などが設問として出題されます。市場メカニズムなど概念的な話も多いため、基礎からしっかりと知識を身に着けていくことが重要です。
財務・会計
財務・会計は企業活動では必須の、お金の流れに関する知識を問う分野です。簿記の基礎や原価計算、損益分岐点の理解など、計算をして答えを求める内容が出題されます。また、資金調達の方法や投資判断、キャッシュフロー、株価による会社の評価判断の考え方など、会社運営に関わる簿記や会計とは異なる視点のお金に関する問題も出題されます。
企業経営理論
企業経営理論は、資金面以外での会社経営を行う上で重要な理論や知識について問われる科目です。主に企業戦略の策定方法や経営資源の管理方法、グローバル戦略の考え方などについて出題されます。M&Aやシナジー創出といったカタカナ用語も多数出てくるため、それぞれの意味をしっかり理解しながら学習を進めていきましょう。
運営管理(オペレーション・マネジメント)
工場や店舗などを円滑に運用することは、中小企業の中において重要な業務の一つです。運営管理(オペレーション・マネジメント)では円滑な運用に欠かせない、法律知識やハンドリング方法などについての知識が出題されます。また、商品予算や在庫管理、POSシステムの知識など、実際の業務と直結する内容が出題されるのもこの科目の特徴の一つです。工場や販売店など、実際の業務イメージを持つことができればより理解が深まります。
経営法務
経営法務は、創業者や企業の社長に法務的な助言を行う際に必要とされる知識を問う科目です。具体的には創業・廃業時に必要な法的手続き、産業財産権やライセンスなど事業に関わる法律、民法・会社法など企業活動に必要な知識などが当たります。必要な手続きを怠ると事業停止など大きな損害に係る場合もあるため、確実で正確な知識を身に着ける必要がある重要な科目の一つです。
経営情報システム
IT技術の発達により、中小企業の経営においても情報システムの活用が非常に重要です。経営情報システムでは、情報処理の基礎技術や通信技術などに関する問題が出題されます。また具体的なシステム理解に付随して、経営戦略との結びつけ方や情報システム運用の意思決定に関する事項など、技術を実際にどのように活かすかといったひとつ上の知識も求められます。
中小企業経営・中小企業政策
中小企業診断士はコンサルタント的な役割を期待されています。そのため、大企業とは異なる中小企業の目線に合わせた経営戦略の立案や助言のスキルが必要です。顧客からの要望に答えられるよう、中小企業に関する法律や国の政策などを理解しているかを問うのが中小企業経営・中小企業政策です。中小企業の業種は製造業・卸売・小売業など多岐にわたるため、それぞれの特徴を理解することが大事でしょう。
中小企業診断士の第1次試験の科目ごとの合格率
科目 | 2024年度 | 2023年度 | 2022年度 |
---|---|---|---|
経済学・経済政策 | 14.3% | 13.1% | 10.5% |
財務・会計 | 15.1% | 14.2% | 13.3% |
企業経営理論 | 39.9% | 19.8% | 17.3% |
運営管理 (オペレーション・マネジメント) | 26.7% | 8.7% | 16.1% |
経営法務 | 13.2% | 26.9% | 26.9% |
経営情報システム | 15.5% | 25.5% | 18.5% |
中小企業経営・中小企業政策 | 5.5% | 20.6% | 10.9% |
中小企業診断士1次試験には合格率が10%を切る科目があり、試験の難しさが表れています。各科目・年度により難易度が異なるため、どの科目が特に難しいという傾向はありません。試験対策の際は得意科目を作るのではなく、まんべんなく学習をすることが重要です。
中小企業診断士の1次試験合格・科目合格は役に立つ?
中小企業診断士の1次試験合格には、試験合格と科目合格の2種類があります。科目合格者は翌年の試験を受験する際に、既に合格した試験をパスできる科目免除と呼ばれる制度を利用可能です。
これまで1次試験合格者(2次試験未合格)は正式な資格保有者ではないため、就活の際などにアピールができませんでした。しかし、科目合格に関しても当該科目については知識を習得しているとして評価されるべきという中小企業庁の意図により、2014年から科目合格者に名称が与えられ、履歴書などに記載ができるようになりました。記載方法は以下のとおりです。
記載例
第一次試験一部科目合格者:▲▲年度中小企業支援科目合格者(科目名)
第一次試験全科目合格者 :■■年度中小企業診断修得者
(引用:中小企業庁 公式HP)
中小企業診断士の1次試験の効果的な勉強法

中小企業診断士試験に合格するためには、最低1,000時間の勉強が必要と言われています。その中で1次試験の7科目に対しては各科目で100時間以上、最低700時間の勉強が必要です。特に財務・会計には最も時間をかける必要があり、150時間ほどがベストといわれています。
学習範囲が多岐にわたるため、効果的な勉強のためには独学は向きません。カリキュラムが整った通信講座を利用するのがおすすめです。
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中小企業診断士の1次試験に関するよくある質問
ここでは、中小企業診断士の1次試験に関するよくある質問をQ&Aの形式で紹介します。
試験の制度を正しく理解して中小企業診断士の合格を目指そう
中小企業診断士1次試験は、出題範囲が広いため科目免除制度なども活用し効率的に受験計画を立てる必要があります。また、合格率も決して高くないため、学習の際はいかに効果的な勉強ができるかが重要なポイントです。
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監修:古森 創
ソニー(株)にてマーケティング、営業、経営監査、新規事業開発の仕事に従事した後、中小企業診断士として独立開業。株式会社古森コンサルタンツ代表取締役。ソニーでの経験をベースとした「売上改善プログラム」、「新規事業開発推進支援」を中心にコンサルティング・セミナー・研修など実務の第一線で活躍しながら、受験のプロとしてもこれまで多くの合格者を輩出し、「スゴ腕講師」として高い評価を受ける。