人気の国家資格である、「行政書士」と「宅建士(宅地建物取引士)」。一度は、試験の名前を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。実はこの2つの試験は相性がよく、宅建を持っていると行政書士の資格取得に有利に働きます。本記事では、行政書士と宅建について試験の内容やダブルライセンスのメリットについて詳しく解説します。
行政書士とは
行政書士とは、行政書士法に基づく国家資格で、別名「街の法律家」とも呼ばれます。主な業務内容は、個人や企業からの依頼による、官公庁などに提出をする書類の作成とその代理、相談業務です。具体的には、旅館業営業許可申請書・飲食店営業許可申請書などの許認可申請に関する書類や、遺言書・車庫証明など権利義務または事実証明に関する書類の作成を行っています。
一方で、弁護士のように代理人として相手方との交渉や訴訟を行うことはできません。

宅建士とは
宅建士とは、不動産取引に関する専門家で、重要事項の説明や契約書等への記名などを行います。宅建士と略されることが多いですが、正式名称は「宅地建物取引士」です。
宅建士として業務を行うには、宅地建物取引業法に基づく国家資格を取得・登録する必要があります。これは不動産の取引業務を行うためにも必要な資格です。資格登録後に発行される宅建士証は5年間の有効期限があり、原則、定期的に更新しなくてはなりません。
不動産会社においては、宅地建物取引業を行う事業所に5人に1人の割合で専任の宅建士を在籍させることも法律で定められています。
行政書士と宅建士の「仕事」の違い
行政書士 | 宅建士 | |
---|---|---|
仕事内容 | 官公庁に提出する書類に関連する業務 権利義務に関する書類に関連する業務 事実証明に関する書類に関連する業務 など | 不動産の購入及び賃貸の取引における重要事項の説明 不動産の購入及び賃貸の取引における契約書等への記名など |
人数 | 約5万人 | 約112万人 |
平均年収 | 約580万円 | 500~600万円前後 |
行政書士の業務は主に、官公庁に提出する書類の作成や手続きです。実際に作成する書類は、許認可申請書や契約書、遺言書、遺産分割協議、株主総会議事録など多岐にわたります。一方、宅建士の業務は「不動産取引に関する」重要事項の説明や契約書類等への記名です。この点において、両者には大きな違いがあります。
また登録者数は宅建士の方が圧倒的に多く、平均的な年収に関しては若干ですが、宅建士のほうが高い傾向があります。

行政書士と宅建士の「試験」の違い
ここからは行政書士・宅建士の試験の違いについて解説します。どちらも同じ国家資格ですが合格率や試験の内容は異なるため、勉強を始める前にしっかり把握をしておきましょう。
合格率の違い
【行政書士の合格率】
年度 | 受験者数(人) | 合格者数(人) | 合格率(人) |
---|---|---|---|
令和2年度 | 41,681 | 4,470 | 10.72% |
令和3年度 | 47,870 | 5,353 | 11.18% |
令和4年度 | 47,850 | 5,802 | 12.13% |
令和5年度 | 46,991 | 6,571 | 13.98% |
【宅建士の合格率】
年度 | 受験者数(人) | 合格者数(人) | 合格率(人) |
---|---|---|---|
令和2年度 | 168,989 | 29,728 | 17.6% |
令和3年度 | 209,749 | 37,579 | 17.9% |
令和4年度 | 226,048 | 38,525 | 17.0% |
令和5年度 | 233,276 | 40,025 | 17.2% |
上記は令和2年〜令和5年度における、行政書士・宅建士それぞれの試験の受験者数・合格率を表した表です。行政書士試験は毎年4万人前後が受験し、合格率は11~12%前後で推移しています。一方の宅建士は、毎年20万人前後が受験し、合格率は17%程度です。
合格率だけをみると、宅建士のほうが行政書士試験に比べて難易度の低い試験と言うことができるでしょう。
受験資格の違い
行政書士 | 年齢、学歴、国籍等に関係なく、誰でも受験可能 |
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宅建士 | 年齢、学歴、国籍等に関係なく、誰でも受験可能 |
受験資格に関しては、両者に大きな違いはなく基本的に誰でも受験可能です。
ただし宅建士の場合は、試験合格後、宅建士として働くためには、2年以上の実務経験などの一定の要件を満たす必要があります。また、両資格ともに、未成年者や禁固以上の刑を受けてから一定の期間が経過していない人などは、試験に合格しても、資格登録することができません。
試験方法・科目の違い
【行政書士の試験方法・科目】
試験方法 | 択一式及び記述式による筆記試験 全60問 |
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試験科目 | 1. 行政書士の業務に関し必要な法令等(択一式及び記述式、46問) ●憲法、行政法、民法、商法及び基礎法学 ※法令については試験実施日の属する年度の4月1日現在施行されている法令に関して出題 2.行政書士の業務に関し必要な基礎知識(択一式、14問) ●一般知識(従来の「政治・経済・社会」含む) ●行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令(行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法など) ●情報通信 ●個人情報保護 ●文章理解 |
【宅建士の試験方法・科目】
試験方法 | 四肢択一式による筆記試験 全50問 ※登録講習修了者は45問 |
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試験科目 | 1. 土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること 2. 土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること 3. 土地及び建物についての法令上の制限に関すること 4. 宅地及び建物についての税に関する法令に関すること 5. 宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること 6. 宅地及び建物の価格の評定に関すること 7. 宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること ※出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているもの |
試験内容に関しては、実際の業務同様、両者で大きな違いがあります。行政書士試験では憲法や行政法など幅広い法律の知識が求められるのに対して、宅建士試験は主に土地や建物に関する法令や知識に関する内容です。
試験方法は、どちらも択一式問題が主ですが、行政書士試験では一部、筆記問題も出題されます。
勉強時間の違い
行政書士 | 約500~800時間 |
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宅建士 | 約200~600時間 |
試験の合格に必要とされる学習時間は、予備知識の量によっても異なりますが、一般的に行政書士が500~800時間程度、宅建士が200~600時間程度といわれています。毎日4時間勉強すると考えた場合、行政書士試験は約7ヶ月、宅建士試験は約5ヶ月必要です。
学生や社会人など学習の時間が限られている場合は、要点を押さえて学習できる予備校や通信講座の利用もおすすめ。学習時間を短縮しつつ、試験に合格するために必要な知識や解答のコツを修得することができるでしょう。
行政書士・宅建士、どちらを取得すべき?
業務・試験の違いを理解したところで、どのような人が行政書士・宅建士に向いているのかを解説します。自分がどんな業務をしたいのか、どんな仕事で資格を活かしたいのか、照らし合わせながら各ポイントをご確認ください。
行政書士がおすすめの人
法律に関する仕事がしたい人
行政書士は法律を使ったさまざまな仕事をしていきたい人におすすめの資格です。法律に関わることであれば、特定の分野に収まることなく、行政書士のできる書類作成や相談に幅広く対応します。一方で分野が固定されないため、広く深い知識の習得が必要不可欠。法改正などの最新情報にもアンテナを張り、常に学習を続けられる人に向いているでしょう。
独立開業したい人
行政書士は企業に雇用されるだけでなく、独立開業をすることも可能です。独立開業は行政書士としての知識だけでなく、経営やマーケティングなどのさまざまな知識や経験が必要とされます。一方で、うまくいけば年収を大きく上げられるでしょう。中には、年収1,000万円を超える行政書士も存在します。
より高度な法律系の資格を取得予定の人
行政書士資格の上には、より高度な法律系知識が求められる弁護士資格があります。弁護士を目指すのであれば、行政書士として実務経験を積んだうえで、司法書士試験や司法試験に挑むのも効果的な勉強方法の一つです。
ただし、司法書士試験や司法試験では行政書士の資格があるからといって、科目免除等の処置があるわけではないので注意しましょう。

宅建士がおすすめの人
不動産に関する仕事がしたい人
不動産の契約や売買に関わる仕事をするのであれば、宅建士は必須資格の一つです。専門的な知識を把握することで、顧客からの質問にも的確な回答ができ、信頼獲得につながります。
年収アップを目指す人
宅建士の資格を取得することで、インセンティブの支給を行う不動産会社は多くあります。また、資格取得によって物件契約時の重要事項の説明なども行えるようになり、業務幅が広がるので、昇給につながる可能性もあるでしょう。不動産業界の中で、年収アップや管理職などのポジションを目指すのであれば、宅建士資格の取得をおすすめします。
不動産業界への就職・転職を目指す人
不動産を取り扱う事業所には一定数の宅建士を配置しなければならないルールがあるので、宅建士資格の獲得は採用面でも有利に働くでしょう。合格率17%程度と難易度も高く、着実に勉強しなければ合格は難しいので、選考において、不動産に関する知識があることを示すためにも有効です。
行政書士・宅建のダブルライセンスもおすすめ!
試験内容の異なる行政書士と宅建士ですが、2つのライセンスを取得することで、より幅広い業務へ対応できるようになります。ここではダブルライセンスのメリットについて解説します。
2つの専門性を活かせる
行政書士・宅建士ともに法律に関する業務に関わるので、行政書士の仕事で宅建の専門性を、宅建の仕事で行政書士の専門性を活かすことが可能です。具体例としては、宅建士として不動産に関する相続手続きを、行政書士として遺言状や遺産分割協議書の作成などをまとめて行うことができます。ワンストップで対応できるので顧客との関係性も作りやすく、信頼の獲得にもつながりやすいでしょう。
働き方の幅が広がる
行政書士・宅建士ともに需要度の高い国家資格の一つで、それぞれに独占業務があるので、ダブルライセンスによってさらに就職先、対応業務などの働き方が広がるでしょう。特に行政書士が宅建士資格を取得することで、不動産関係の書類作成や相談対応も行えるようになり、他の行政書士との差別化につながります。行政書士としての独立開業のリスクヘッジという意味でも有益でしょう。
効率的に学習しやすい
行政書士試験と宅建士試験では、民法など出題範囲において重複する部分があります。
両資格ともに難易度の高い試験なので、ダブルライセンスの取得は容易ではないですが、一方の試験勉強や実務の中で習得した知識を活かすことで、効率的な学習につながるでしょう。
行政書士と宅建、どちらを先に取得する?
行政書士と宅建のダブルライセンスを取得する場合、試験の難易度や勉強時間などを総合的に判断すると、宅建士資格の取得後に行政書士資格を取得するのが最適です。理由は以下の通りです。
【宅建士を先に取得するべき理由】
- 行政書士に比べて難易度が低いため
- 行政書士に比べて勉強時間が少なめなため
- 学習した内容を行政書士の試験に活かせるため
合格率で見ても分かる通り、宅建士は行政書士に比べると比較的、難易度が容易な試験です。社会人になると、継続した学習時間を取ることはどうしても難しくなります。宅建士の試験に合格するために身につけた学習習慣や勉強法は、より難易度の高い行政書士試験において大きく役立つでしょう。
また行政書士試験では、宅建士試験の出題範囲である民法などの分野が重複して出題されます。宅建士試験で身につけた基礎知識が、そのまま活用できるのも学習時間の削減に有益でしょう。
行政書士と宅建士に関するよくある質問
行政書士と宅建士のダブルライセンスで業務の幅を広げよう
行政書士と宅建士はどちらも国家資格ですが、業務内容や試験で問われる知識は大きく異なります。法律関連の幅広い書類作成を行う行政書士と、不動産取引における重要事項の説明や契約書類等への記名などを行う宅建士は、それぞれに特徴があるので、自身の目指すキャリアに沿った資格を取得しましょう。
また、ダブルライセンスを取得することで、幅広い業務に対応できるようになり、活躍の場をより一層広げることができます。両試験ともに難易度の高いものではあるので、取得の順番や勉強法など効率を考えて進めていきましょう。
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監修:行政書士・社労士 田中 伴典さん
2016年に社会保険労務士試験に合格後、社会保険労務士法人のスタッフとしてお客様を外部からサポート。その後、民間企業の人事として内部からサポートしつつ、2021年に行政書士試験に一発合格を果たす。現在は、現役行政書士・社会保険労務士として自身の事務所を運営している。
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