第96条【詐欺又は強迫】
① 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
② 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
③ 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
【超訳】
② 詐欺が第三者によってなされた場合、例えば、AがBに対して意思表示をする際に、第三者であるCがAに対して詐欺を行った場合には、Bがそのような事実を知っていたか、知ることができた場合に限って、Aはその意思表示を取り消すことができる。
③ 詐欺による意思表示の取消しは、取消しの前に詐欺による意思表示によって形成された法律関係に利害関係を生じた善意・無過失の第三者に対抗することができない。強迫による意思表示の取消しは、取消し前に利害関係を生じた善意の第三者にも対抗できる。
【解釈・判例】
1.詐欺・強迫の場合、意思と表示は一致しているが、内心的効果意思を決定する過程に瑕疵があるから、取り消し得べきものとした。
2.強迫の程度が強く、表意者が完全に自由意思を喪失している場合、その意思表示は当然に無効となる(最判昭33.7.1)。
【暗記】
第三者の意義 |
詐欺の当事者及びその包括的承継人以外で、詐欺による意思表示によって生じた法律関係に基づき新たに独立した利害関係を有するに至った者。 → 第三者は、表意者の取消前に利害関係に入ることが必要である。表意者と取消後の第三者とは対抗関係となる(大判昭17.9.30)。 |
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第三者の事例 | 該 当 |
① 売主を騙して不動産を譲り受けた買主から抵当権の設定を受けた者 ② 売主を騙して不動産を譲り受けた買主から不動産を取得した転得者 ③ 売主を騙して不動産を譲り受けた買主の債権者で目的不動産を差し押さえた者 |
非該当 |
① 1番抵当権が詐欺により放棄された場合の2番抵当権者(大判明33.5.7) ② 連帯債務者の1人が詐欺によって代物弁済をした場合の他の連帯債務者 |
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無過失要件 | 必要(3項) | |
対抗要件 | 不要(最判昭49.9.26) |
【比較】
詐欺と強迫
詐 欺 | 強 迫 | |
意義 | 故意に人を欺罔して錯誤に陥れ、かつ錯誤により意思を決定させて表示させる行為。 | 故意をもって人に不法に害悪を告知し畏怖を与え、かつ、その畏怖によって意思を決定させ、表示させる行為。 |
2項 | 第三者の詐欺の場合、相手方が詐欺の事実を知っているか、知ることができた場合であれば取り消せる。 | 第三者の強迫の場合、相手方の知・不知を問わず取り消せる。 |
3項 | 善意・無過失の第三者に対抗できない。 | 善意・無過失の第三者にも対抗できる。 |
【問題】
Aは、Bに欺罔されてA所有の土地をBに売却した後、この売買契約を詐欺を理由として取り消したが、その後に悪意のCがBからこの土地を買い受けた場合、Aは、登記無くしてその取消しをCに対抗することができる
【平18-6-イ:×】