第986条【遺贈の放棄】
① 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
② 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
目次
【解釈・判例】
1.本条は特定遺贈についてのみ適用される。包括遺贈の場合、その承認・放棄については相続の承認・放棄に関する規定(915条から940条まで)が適用される。
2.特定遺贈の承認・放棄は、遺言者の死亡後であれば、いつでもすることができる。
3.特定遺贈の放棄の意思表示は、遺贈義務者に対してしなければならない(大判大7.2.2)。
4.遺贈の目的たる財産は、遺言者の死亡と同時に、その遺贈が包括遺贈たると特定遺贈たるとを問わず、直接に受遺者に移転する(大判大5.11.8)。
5.遺贈による権利移転の対抗力
(1) 不動産の遺贈を受けた者はその旨の所有権移転登記を経由しないと第三者に対抗できない(最判昭39.3.6)。
(2) 被相続人が、生前、所有の不動産を推定相続人の1人に贈与したが、その登記未了の間に、他の推定相続人に当該不動産を特定遺贈し、その後相続の開始があった場合、当該贈与及び遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件たる登記の具備の有無をもって決すると解するのが相当である(最判昭46.11.16)。
(3) 債権が特定遺贈された場合、遺贈義務者の債務者に対する通知又は債務者の承諾がなければ、受遺者は遺贈による債権の取得を債務者に対抗することができない(最判昭49.4.26)。