第922条【限定承認】
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
目次
【解釈・判例】
1.限定承認者は、相続によって得た財産の限度において、被相続人の債務及び遺贈を弁済する責任を負う(大判明39.12.25)。
2.限定承認者は相続債務の全額を承継するが、その責任の範囲が相続財産に限定される(債務と責任が分離される)。しかし、相続債務額が減少するわけではないので、債権者は相続人に相続債務全額の支払いを請求でき、相続人が任意に弁済した場合であっても非債弁済(705条)とはならない。
3.裁判所が限定承認をした相続人に対して相続債務の支払いを命ずる判決をする場合、相続債務全額について給付を命ずることができるが、相続財産の存する限度において支払うべき旨を留保しなければならない(大判昭7.6.2)。
4.相続人が限定承認をしたとしても、それ以前に相続債務につき重畳的債務引受をした者の責任の範囲は縮減されない(大判大13.5.19)。
5.不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がなされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記より先になされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対し不動産の所有権取得を対抗することができない(最判平10.2.13)。