第921条【法定単純承認】
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
【解釈・判例】
1.相続人がいったん有効に限定承認又は相続放棄をした後に相続財産を処分した場合、その処分は本条1号の「処分」には当たらない(大判昭5.4.26)。
2.本条1号の「処分」には、法律行為のみならず事実行為も含む。
(1) 相続人が、相続財産である建物の賃借人に対して賃料の支払いを求めることは、債権の取立てに当たるので、単純承認したものとみなされる(最判昭37.6.21)。
(2) 故意に相続財産に放火した場合、単純承認したものとみなされる。ただし、毀損等について被相続人の財産を処分しようとする意思がない場合(失火)には、単純承認とはならない。
3.財産の処分によって単純承認となるには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、又は、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえて処分したことを要する(最判昭42.4.27)。
4.相続人が未成年者である場合、その法定代理人である親権者が遺産を処分したときは、本条1号の「処分」に当たるので、相続人において単純承認をしたものとみなされる(大判大9.12.17)。
5.「私(ひそか)にこれを消費し」とは、相続債権者の不利益になることを認識しながら相続財産を消費することである。