第916条【同前】
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
目次
【解釈・判例】
1.甲を被相続人とする相続(甲の相続人は乙)について、相続人乙が承認又は放棄をしないで死亡した(乙の相続人は丙)場合、丙は【乙→丙】の相続だけでなく、【甲→乙】の相続についても承認又は放棄をすることになる。熟慮期間の起算点は、【乙→丙】の相続についてだけでなく、【甲→乙】の相続についても、被相続人を乙とする相続が自己のために開始したことを丙が知った時となる。
2.上記1の事例において、丙が【乙→丙】の相続について放棄した場合、丙は【甲→乙】の相続について承認・放棄をすることができなくなる。
3.上記1の事例において、丙が【甲→乙】の相続について承認又は放棄した場合であっても、【乙→丙】の相続についての承認・放棄の可否には影響がない。
4.甲の相続につき、その法定相続人である乙が承認または放棄をしないで死亡した場合において、乙の法定相続人である丙が、乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができる。また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づき甲の相続についてした放棄の効力がさかのぼって無効となることはない(最判昭63.6.21)。
5.本条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時をいう(最判令元.8.9)