第612条【賃借権の譲渡及び転貸の制限】
① 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
② 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
【解釈・判例】
1.賃借権の譲渡
(1) 賃借権の譲渡とは、直接に賃借権そのものの移転を目的とする契約である。
→ 譲渡人は賃借人たる地位を失い、譲受人がその地位を承継して賃借人としての権利義務を取得する。
(2) 借地上の建物所有権の譲渡は、それにより従たる権利である借地権も譲渡されるため、借地権の譲渡となる。これに対し、借地上の建物を賃貸しても借地権には何の影響もないから、借地権の転貸とはならない(大判昭8.12.11)。
(3) 借地上の建物の譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用収益することは、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、賃借権の譲渡又は転貸に当たる(最判平9.7.17)。
2.賃借物の転貸
賃借物の転貸とは、賃借人が第三者(転借人)に賃借物の使用・収益をさせることを約する契約である。転貸をしても賃貸人と賃借人との賃貸借関係はそのまま存続し、新たに賃借人と転借人との賃貸借関係が生じる。
3.賃貸人の承諾
(1) 賃借権の譲渡又は賃借物の転貸は、賃貸人の承諾を得なければならない(本条1項)。
(2) 承諾は、原賃借人、譲受人、転借人のいずれに対してしてもよい(最判昭31.10.5)。
(3) 承諾の時期は問わないが、一度承諾がなされると撤回できない(最判昭30.5.13)。
4.賃貸人の承諾を得ないで行った譲渡・転貸の効果
(1) 無断譲渡・転貸は、賃借人と譲受人・転借人との間においては有効な契約として成立するが、それを賃貸人に対抗できない(最判昭26.5.31)。賃借人は、遅滞なく賃貸人の承諾を取り付ける義務を譲受人・転借人に対して負う(最判昭34.9.17)。
(2) 無断譲渡・転貸があっても、賃貸人と賃借人との賃貸借関係は直接には影響を受けないが、無断譲渡・転貸によって譲受人又は転借人に目的物を使用収益させた場合、賃貸人には原則として賃貸借契約の解除権が発生する(本条2項)。
(3) 無断譲渡・転貸があっても、第三者に現実に使用収益をさせなければ解除権は発生しない(大判昭13.4.16)。
(4) 無断譲渡・転貸があっても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない(信頼関係を破壊しないような)特段の事情がある場合には、賃貸人の解除権は発生しない(最判昭28.9.25)。背信行為に該当しないことの立証責任は賃借人にある(最判昭41.1.27)。
→ 解除権が発生しない場合、転借権者は賃貸人に転借権を対抗することができる。
(5) 無断譲渡・転貸を承諾しない賃貸人は、賃貸借契約を解除することなく、譲受人・転借人に対して直接自己への目的物の明渡しを請求することができる(最判昭26.5.31)。
【問題】
譲渡担保権の目的不動産が、譲渡担保権設定者が賃借する土地に建てられた建物であり、譲渡担保権者が当該建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときであっても、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能な状態にある間は、敷地について賃借権の譲渡又は転貸は生じていないから、土地賃貸人は、賃借権の無断譲渡又は無断転貸を理由として土地賃貸借契約の解除をすることはできない
【平28-15-エ:×】