第416条【損害賠償の範囲】
① 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
② 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
【超訳】
損害賠償の範囲について、①通常発生する範囲内の損害は、当然に賠償の対象となり、②特別の事情により範囲が拡大した損害は、債権者が「特別の事情」の予見可能性を立証した場合に、賠償の対象となる。
【解釈・判例】
1.賠償すべき損害の範囲は、事実的因果関係が認められる損害のうち、通常生ずべき損害である。予見可能性の有無を問わず、賠償義務が発生する(通常損害、本条1項)。
2.特別な事情によって生じた損害といえども、当事者がその事情を予見すべきであったときは、その事情から通常生じうる損害については賠償の範囲に入る。予見可能性がある場合に限り、賠償義務が発生する(特別損害、本条2項)。
3.本条2項について
(1) 予見の対象は、特別の事情であり、損害ではない。
(2) 「当事者」とは、債務者のことである(大判大7.8.27)。
(3) 予見の時期は、債務不履行時である(大判大7.8.27)。
4.不法行為による損害賠償についても本条の規定が類推適用される。特別事情損害については、加害者が当該事情を予見すべきであったときに限り、賠償責任を負う(最判昭48.6.7)。
5.土地の売買契約の買主は、当該土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起、追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない(最判令3.1.22)