民法 第376条【抵当権の処分】

第376条【抵当権の処分】

① 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。

② 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。

目次

【解釈・判例】

1.転抵当

意 義抵当権者が自己の抵当権をもって他の債権の担保とすること。
転抵当権の設定転抵当権設定者(=原抵当権者)と、転抵当権者の設定契約によって成立する。原抵当権の設定者(=抵当不動産の所有者)は設定の当事者ではない(承諾不要)。
① 転抵当権の被担保債権が、原抵当権の被担保債権額より超過していても差し支えない。この場合、転抵当権者は原抵当権の被担保債権の範囲で優先弁済を受けることができる。

② 転抵当権の被担保債権の弁済期は、原抵当権の被担保債権の弁済期より、前でも後でも差し支えない。

③ 原抵当権者は、自己の債務のみならず、他人の債務のために転抵当権を設定できる。

効 果① 転抵当権者による転抵当権の実行

→ 転抵当権の被担保債権と原抵当権の被担保債権の双方の弁済期が到来している場合、実行可能

→ 転抵当権者は、原抵当権の被担保債権額の範囲で、自己の被担保債権について優先弁済を受け、残余があれば原抵当権者が弁済を受ける。

② 原抵当権者による抵当権の実行

自己の被担保債権額が転抵当権の被担保債権額より大きいときに限って抵当権を実行することができる(大決昭7.8.29)。

2.抵当権の譲渡・放棄

意 義抵当権者が、同一の債務者に対して無担保債権を有する者に、優先弁済を受ける地位を譲渡すること。
方法・要件

① 抵当権者と無担保債権者の合意による。

→ 債務者、抵当権設定者の同意不要。

② 条文上、抵当権の被担保債権と無担保債権の債務者は同一であることが要求されている。

→甲の乙に対する債権を担保するため、丙所有の不動産に抵当権が設定されている場合において、甲は、丙に債権を有する丁に、抵当権の譲渡をすることができる(昭30.7.11-1427号)。

効果① 譲渡:譲受人は、譲渡人の抵当権の優先弁済権を、譲渡人の被担保債権の限度で取得する。

② 放棄:譲渡人が配当を受けることができる額について、譲渡人と譲受人が同順位で(債権額により按分して)弁済を受ける。

3.抵当権の順位の譲渡・放棄

意 義先順位抵当権者から後順位抵当権者に対する、優先弁済を受ける地位を譲渡・放棄すること。
方法・要件① 先順位抵当権者と後順位抵当権者との合意による。

→ 債務者、抵当権設定者の同意不要。

→ 同順位の抵当権者間においても順位の譲渡はすることができるが、順位の放棄は無意味であるためすることができない(昭28.11.6-1940号)。

② 376条1項は、順位譲渡及び放棄の抵当権の被担保債権の債務者について同一であることを規定しているが、同一不動産上の抵当権であればよく、必ずしも同一の債務者であることを要しない

効 果① 順位の譲渡:譲受人は、自己と譲渡人の配当額について、譲渡人に優先して弁済を受ける。譲渡人は、残額があれば弁済を受ける。

② 順位の放棄:譲受人と譲渡人は、自己と譲渡人の配当額について、同順位で(債権額により按分して)弁済を受ける。

【問題】

債務者の所有する甲土地について、Aは被担保債権1,000万円の一番抵当権を、Bは被担保債権1,200万円の二番抵当権を、Cは被担保債権1,500万円の三番抵当権を、Dは被担保債権1,500万円の四番抵当権を有していた。その後、AがDに対し、抵当権の順位の放棄をした。この場合において、甲土地が競売された結果、配当金総額が3,000万円であったときは、Aの配当額は400万円である

【平22-13-エ改:○】

【問題】

債務者Aに対する債権者として、A所有の甲土地の第1順位の抵当権者B(被担保債権額600万円)、第2順位の抵当権者C(被担保債権額2100万円)及び第3順位の抵当権者D(被担保債権額2400万円)がおり、また、無担保の一般債権者E(債権額400万円)がいる場合に、BからDに対する抵当権の順位の譲渡又は放棄は、BとDの合意によってすることができ、A、C及びEの承諾は不要である

【平29-12-エ改:○】

講座パンフレットや特別セミナーDVDなどを無料でお届けします。
講座についてのご相談を受け付けております。お気軽にお問合せください。
講座のお申し込み案内ページです。講座をお申し込みの方もこちらからどうぞ。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次