民法 第369条【抵当権の内容】

第369条【抵当権の内容】

① 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

② 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

目次

【超訳】

① 抵当権とは、抵当権者が債務者又は物上保証人が占有したまま担保の目的とした不動産について、担保不動産競売や担保不動産収益執行(民執180条)をして、他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受けることができる権利である。

② 抵当権の目的となるのは、不動産の所有権のほか、地上権と永小作権である。

【解釈・判例】

1.抵当権の目的物

(1) 抵当権は、登記による公示方法を備えることができるものについてのみ設定できる。民法上は不動産の所有権(債務者所有のほか、第三者所有でもよい)、地上権及び永小作権に設定できる(369条)。

(2) 一筆の土地の一部を区分して、抵当権を設定する契約も有効である。ただし、その部分について分筆登記をしなければ、抵当権設定の登記はできない。

(3) 不動産の共有持分に対し、持分権者は単独で抵当権を設定できる。

(4) 所有権や共有持分の一部を目的として抵当権を設定することも実体上有効である。

2.抵当権の被担保債権

(1) 通常は金銭債権だが、金銭債権以外の債権(例:特定物の引渡請求権)でも差し支えない

(2) 被担保債権は、現に成立している債権のほか、期限付債権や条件付債権など、将来発生する債権でもよい(付従性の緩和)。保証委託契約に基づいて将来発生する可能性のある求償債権を被担保債権として抵当権を設定することができる。

(3) 1個の債権の一部を担保するために抵当権を設定することができる。

(4) 債権者を同じくする数個の債権を一括して担保する1個の抵当権を設定できる。

【問題】

保証人が主たる債務者に対して将来取得することがある求償債権は、抵当権の被担保債権とすることができない

【平18-16-ア:×】

3.抵当権の侵害

(1) 意義

① 抵当権は目的物の交換価値を支配する担保権であり、設定者の占有には干渉できないのが原則である。債務者又は第三者が目的物の交換価値を減少させ、被担保債権を担保するのに不足が生じた場合、抵当権は侵害されたことになる。

② 関連判例

ア 債務者や第三者が抵当目的物に対して滅失や毀損等、事実上の行為によって侵害を加えたときは、被担保債権の弁済期の前後や抵当権の実行着手の前後を問わず、抵当権の侵害となり、抵当権者はその排除を請求し得る(大判昭6.10.21)。

イ 抵当不動産の通常の用法による使用当該第三者の使用は、第三者が使用する場合であっても、また、当該第三者の使用がが適法でなくとも、抵当権の侵害とはならない(大判昭9.6.15)。

ウ 山林上の抵当権について、通常の用法を超えて伐採がなされた場合には、抵当不動産の交換価値を減少させる抵当権の侵害行為に当たり、抵当権の物権的請求権に基づいて、立木の搬出を禁止することができる(大判昭7.4.20)。

(2) 抵当権に基づく物権的請求権

① 抵当権者は、抵当権の侵害に対して、抵当権に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権を行使することができる(大判昭6.10.21)。

② 第三者の不法占有によって競売手続の進行が害され、適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる(最判平11.11.24)。

③ 抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受け、抵当不動産を占有する者がある場合、次の要件を満たせば、抵当権者は当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として当該状態の排除を請求できる(最判平17.3.10)。

ア 当該占有権原の設定に抵当権実行としての競売手続を妨害する目的が認められること。

イ 当該占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること。

④ 上記③の抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において、抵当権への侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持・管理することが期待できない場合、抵当権者は占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを請求できる。しかし、抵当権者には抵当不動産の使用収益権がないので、抵当権者は抵当不動産の占有者に対し賃料額相当の損害賠償金の支払いを請求することはできない(最判平17.3.10)。

(3) 抵当権に基づく損害賠償請求権

① 抵当権の目的物が毀損されても、抵当権の目的物の残存価格が被担保債権の担保として十分であれば、損害はないので、不法行為による損害賠償の請求をすることはできない(大判昭3.8.1)。

→ 抵当権の目的物の交換価値が被担保債権を弁済するのに十分であっても、妨害排除を請求することはできる

② 抵当権侵害による損害額算定の基準時は、不法行為の当時を標準とするのではなく、抵当権実行の時又は弁済期到来後・抵当権実行前における賠償請求権行使の時を標準とする(大判昭7.5.27)。

→ 被担保債権の弁済期が到来していれば、抵当権実行前であっても抵当権侵害による損害賠償請求をすることができる

【問題】

抵当権者が抵当不動産の占有者に対し抵当不動産の明渡請求をしたにもかかわらず、その占有者が理由なくこれに応じないで違法に占有を継続する場合であっても、抵当権者は、抵当不動産を自ら使用することはできないため、抵当権者は抵当不動産の占有者に対し賃料額相当の損害賠償金の支払を請求することができない

【平20-14-エ改:○】

【問題】

AのBに対する金銭債権を担保するために、Cの所有する甲建物を目的とする抵当権が設定された。この場合、Cの行為により甲建物の価格が減少しても、甲建物の残存価値がAのBに対する金銭債権の弁済のために十分であるときは、Aは、Cに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができない

【平28-12-ア改:○】

【問題】

AのBに対する金銭債権を担保するために、Cの所有する甲建物を目的とする抵当権が設定されたところ、Dが甲建物を不法占有している場合には、Aは、Cに対して有する甲建物を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するためであっても、CのDに対する妨害排除請求権を代位行使することができない

【平28-12-イ改:×】

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