第298条【留置権者による留置物の保管等】
① 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
② 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
③ 留置権者が前2項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
【超訳】
① 留置権者は、留置物に対して善管注意義務を負う。
② 留置権者は、物の保存に必要な行為として使用が認められる場合を除き、留置物を使用・賃貸・担保に提供するためには、債務者の承諾を必要とする。
③ 留置権者が、善管注意義務に違反したり、所有者の承諾なく使用・賃貸等をしたりした場合は、債務者は、留置権の消滅を請求できる。請求があるとそのときに留置権は消滅する。
【解釈・判例】
1.保存に必要な範囲の使用
(1) 家屋の賃貸借が終了した後も、賃借人が家屋について留置権を有するときは、引き続き家屋に居住することができる(大判昭10.5.13)。
(2) 借地上の建物を第三者に賃貸することは、借地の保存に必要な使用の範囲を超えて許されない(大判昭10.12.24)。
(3) 留置している船舶を遠方に航行させて貨物の運送業務のために使用することは、航行の危険性からみて保存に必要な使用の限度を逸脱する(最判昭30.3.4)。
2.留置物の所有権が第三者に譲渡された場合、第三者が対抗要件を取得する前に、298条2項の留置物の使用又は賃貸等の承諾を留置権者が得ていれば、留置権者は承諾の効果を新所有者に対抗することができる(最判平9.7.3)。
3.本条の義務違反により、直ちに留置権が消滅するわけではない。損害の有無を問わず、債務者(所有者)は留置権の消滅を請求することができる(最判昭38.5.31)。当該請求権は形成権であるので、一方的意思表示によってすれば足り、留置権者の承諾は要しない。
【問題】
A所有の甲建物について留置権を有するBがAの承諾を得て甲建物を使用している場合、その後にAから甲建物を買い受けて所有権の移転の登記を受けたCは、Bが甲建物を使用していることを理由として留置権の消滅請求をすることはできない
【平27-12-オ:○】
【問題】
留置権者が留置物の所有者である債務者の承諾を得ないで留置物に質権を設定した場合には、債務者は、留置権者に対し、留置権の消滅を請求することができる
【平30-13-イ:〇】