第32条【失踪の宣告の取消し】
① 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
② 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
【解釈・判例】
1.1項後段の善意とは、失踪宣告が事実と異なることを知らないことを意味し、無過失であることを要しない。善意が必要な者は、当事者双方である。
2.2項は悪意者には適用されない。悪意者には704条が適用され、利益に利息等を付加して返還しなければならない。
【暗記】
1 失踪宣告取消しの要件・効果
要件 | ① 失踪宣告を受けた者が生存していること、又は失踪宣告による死亡時と実際の死亡時と異なったときに死亡したことが証明されたこと。
② 本人又は利害関係人から取消しの請求があったこと。 |
効果 | 家庭裁判所は失踪宣告を取り消さなければならない。
→ 失踪宣告により発生した身分上・財産上の法律効果はすべて消滅する。 ① 失踪宣告後、取消前に善意でなした法律行為の効果は遡及的に消滅しない(32条1項ただし書)。 ② 失踪宣告を原因として財産を取得した者は、現存利益の限度で返還義務を負う(32条2項)。ただし、悪意者には適用されない。 |
2 関連判例
(1) 失踪宣告後、取消前に善意でした行為は、失踪宣告の取消しによって影響を受けない。その行為が契約のように双方当事者がある場合には、双方とも善意でなければならない(大判昭13.2.7)。
(2) Aが失踪宣告により受け取った生命保険金を費消した際に失踪者の生存について善意であり、かつ、生活費として生命保険金を費消したときは、その分生活費が減少しなかったことになり、現存利益があると解されるので、失踪宣告の取消しにより、Aは費消した生命保険金の相当額の返還義務を負う(大判昭7.10.26)。
【問題】
不在者Aが家庭裁判所から失踪宣告を受け、その相続人BがAから相続した不動産をCに売却して引き渡したが、その後、生存していたAの請求により当該失踪宣告が取り消された場合には、当該売買の当時Aの生存につきBが善意であってもCが悪意であったのであれば、Aは、Cに対し、当該不動産の返還を請求することができる
【平22-4-ア:○】
【問題】
不在者Aが家庭裁判所から失踪宣告を受け、その相続人BがAから相続した銀行預金の大部分を引き出して費消した後、生存していたAの請求により当該失踪宣告が取り消された場合には、それまでAの生存につき善意であったBは、現に利益を受けている限度において返還すれば足りる
【平22-4-オ:○】