第847条の3【最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴え】
① 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式会社の最終完全親会社等(当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないものをいう。以下この節において同じ。)の総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の発行済株式(自己株式を除く。)の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、当該株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、特定責任に係る責任追及等の訴え(以下この節において「特定責任追及の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
一 特定責任追及の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社若しくは当該最終完全親会社等に損害を加えることを目的とする場合
二 当該特定責任の原因となった事実によって当該最終完全親会社等に損害が生じていない場合
② 前項に規定する「完全親会社等」とは、次に掲げる株式会社をいう。
一 完全親会社
二 株式会社の発行済株式の全部を他の株式会社及びその完全子会社等(株式会社がその株式又は持分の全部を有する法人をいう。以下この条及び第849条第3項において同じ。)又は他の株式会社の完全子会社等が有する場合における当該他の株式会社(完全親会社を除く。)
③ 前項第2号の場合において、同号の他の株式会社及びその完全子会社等又は同号の他の株式会社の完全子会社等が他の法人の株式又は持分の全部を有する場合における当該他の法人は、当該他の株式会社の完全子会社等とみなす。
④ 第1項に規定する「特定責任」とは、当該株式会社の発起人等の責任の原因となった事実が生じた日において最終完全親会社等及びその完全子会社等(前項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。次項及び第849条第3項において同じ。)における当該株式会社の株式の帳簿価額が当該最終完全親会社等の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超える場合における当該発起人等の責任をいう(第10項及び同条第7項において同じ。)。
⑤ 最終完全親会社等が、発起人等の責任の原因となった事実が生じた日において最終完全親会社等であった株式会社をその完全子会社等としたものである場合には、前項の規定の適用については、当該最終完全親会社等であった株式会社を同項の最終完全親会社等とみなす。
⑥ 公開会社でない最終完全親会社等における第1項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式会社」とあるのは、「株式会社」とする。
⑦ 株式会社が第1項の規定による請求の日から六十日以内に特定責任追及の訴えを提起しないときは、当該請求をした最終完全親会社等の株主は、株式会社のために、特定責任追及の訴えを提起することができる。
⑧ 株式会社は、第1項の規定による請求の日から六十日以内に特定責任追及の訴えを提起しない場合において、当該請求をした最終完全親会社等の株主又は当該請求に係る特定責任追及の訴えの被告となることとなる発起人等から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、特定責任追及の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。
⑨ 第1項及び第7項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第1項に規定する株主は、株式会社のために、直ちに特定責任追及の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。
⑩ 株式会社に最終完全親会社等がある場合において、特定責任を免除するときにおける第55条、第103条第3項、第120条第5項、第424条(第486条第4項において準用する場合を含む。)、第462条第3項ただし書、第464条第2項及び第465条第2項の規定の適用については、これらの規定中「総株主」とあるのは、「総株主及び株式会社の第847条の3第1項に規定する最終完全親会社等の総株主」とする。
超訳
① 6か月前から引き続き、株式会社の最終完全親会社等(当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないものをいう。)の総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主又は当該最終完全親会社等の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主は、当該株式会社に対し、特定責任に係る責任追及等の訴え(特定責任追及の訴え)の提起を請求することができる。
④ 追及の対象となるのは、子会社の役員等の責任の原因となった事実が生じた日において、親会社が有する子会社の株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1を超えている場合における責任(特定責任)に限定されている。
⑩ 完全子会社の発起人等の特定責任は、完全子会社の総株主と最終完全親会社等の総株主の同意がなければ、免除できない。
解釈
① いわゆる「多重代表訴訟」。現代の会社の経営は、単体の企業ではなく、企業集団を使って行われている。この企業集団における親会社株主の保護のため、親会社株主が子会社の取締役等の責任を追及する訴えを提起することを認める制度である。通常の株主代表訴訟と異なり、株式保有要件がある(少数株主権)。原告になれる者は最上位にある最終完全親会社等の株主である。また、完全親会社等及び訴えの対象となる子会社は株式会社であることを要する。
④ 訴えの対象を親会社の取締役に相当する重要な子会社の取締役等に限定するための要件である。
暗記
特定責任追及の訴えの手続
1 特定責任追及の訴えを提起しようとする株主は、対象となる完全子会社に対し、特定責任追及の訴えを提起するよう請求する(847条の3第1項)。
2 請求の日から60日以内に特定責任追及の訴えが提起されない場合、当該株主は、子会社のために、特定責任追及の訴えを提起できる(847条の3第7項)。
3 60日の経過により、回復できない損害が生じるおそれがある場合は、直ちに特定責任追及の訴えを提起できる。
問題
株式会社Aを最終完全親会社等とする株式会社Bが、株式会社Cと取引をした結果、B社の代表取締役Dの責任により、B社が10億円の損害を被り、C社が10億円の利益を得た。この場合、A社の株主Eが、代表取締役Dに対する特定責任追及の訴えの提起の請求をするときは、A社を介してB社に提訴の請求をする必要がある。
【平28-34-ア改:×】