司法書士試験<過去問題肢別チェック ■憲法「人権」

問題1 「生活保護法の定める保護基準が不当に低い場合には、生存権を侵害する。」という場合、「生存権」は、国家に対し一定の作為を要求できるという国務請求権ないし社会権としての性格を有するものとして用いられている。○か×か?

正しい。生活保護法の定める保護基準が不当に低いのは生存権を侵害するという場合の「生存権」は、生活保護基準を上げることを国に対して請求する場面で問題となっている。つまり、本肢では国家権力に対する給付請求が問題となっているので、ここでいう「生存権」は社会権・国務請求権としての性格を有するものとして用いられている。【平18-3-ア】

問題2 何人も、個人の意思に反してみだりにプライバシーに属する情報の開示を公権力により強制されることはないという利益を有しているから、外国人に対し、外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度を定めることは、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。○か×か?

誤り。外国人に対して外国人登録原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制度は、登録原票の登録事項の正確性を維持、確保するという必要から設けられたものゆえ、その立法目的に十分な合理性・必要性がある。また、確認を求められる事項は、人の人格、思想、信条、良心等の内心にかかわる情報ではないため、申請者に過度の負担を強いるものでもなく、一般的に許容される限度を超えない相当なものといえる。よって、本制度は、憲法13条に違反しない(最判平9.11.17)。【平17-1-ウ】

問題3 何人も、公共の福祉に反しない限り、自己の意思に反してプライバシーに属する情報を公権力により明らかにされることはないという利益を有しているから、郵便物中の信書以外の物について行われる税関検査は、わいせつ表現物の流入阻止の目的であっても、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。○か×か?

誤り。税関検査が憲法13条に違反するかという判例はない。しかし、わが国内の健全な性的風俗が害されることを実効的に阻止するために、わいせつ表現物の流入を一般的に水際で阻止し、その規制に反した者に対して一律に刑罰をもって臨んでも、憲法13条に違反しないというのが裁判所の立場である(最判平7.4.13)ことから考えると、わいせつ物流入阻止のための税関検査が憲法13条に違反するとの立場に裁判所が立っているとはいえない。わいせつ物流入防止のために刑罰を科すことが憲法13条に違反しないのなら、刑罰よりは国民の権利制限が弱い税関検査レベルの規制が憲法13条違反になるとは考えにくいからである。【平17-1-エ】

問題4 何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼうを撮影されない自由を有しているから、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼうを撮影することは、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。○か×か?

正しい。何人も、その承諾なしにみだりにその容貌を撮影されない自由を憲法13条で保障されているので、警察官が正当な理由なしに、個人の容貌を撮影することは憲法13条に違反するというのが裁判所の立場である(最判昭44.12.24)。なお、例え犯罪捜査のためという写真撮影について正当な目的があったとしても、その撮影の方法が一般的な許容範囲を超える不相当な方法でなされたのなら、やはり、憲法13条違反になるという点に注意して欲しい。つまり、個人への写真撮影が憲法13条違反にならないのは、①犯罪捜査のためという正当目的があり、かつ、②その撮影が相当な方法であったという二つの要件を備えなければならないのである。【平17-1-オ】

問題5 外国人について、その在留期間中に政治活動をしたことを考慮して、在留期間の更新を拒絶したとしても、憲法に違反しない。○か×か?

正しい。外国人が日本で在留する権利と在留期間の更新を求める権利はどちらも憲法で保障されている権利ではない。そして、外国人に政治活動の自由が憲法上保障されているとしてもそれはあくまで、在留制度の枠内で保障されているにすぎない。よって、法務大臣が在留期間中に外国人が政治活動をしたことを考慮して、その外国人の在留期間の更新請求を拒絶したとしても、法務大臣の裁量を逸脱した違憲、違法なものとはいえない(マクリーン事件 最判昭53.10.4)。【平15-1-1】

問題6 裁判所が、他人の名誉を毀損した者に対し、事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度の謝罪広告を新聞紙に掲載することを命じたとしても、憲法に違反しない。○か×か?

正しい。裁判所という国家機関が国民に対してその意に反して新聞紙に謝罪広告を掲載すべきことを命じるのは、国民の沈黙の自由(憲19条)に抵触するおそれがある。しかし、裁判所が、他人の名誉を侵害した者に対して、事の顛末を記述し、かつ、その結果、他人の名誉を侵害したことに対して陳謝の意を示すことを掲載すべきことを命じる程度のことは、その人の思想、良心に反する行為を強制するものとはいえない。よって、本肢のような裁判所の行為は、憲法19条に反しない(謝罪広告事件 最判昭31.7.4)。【平15-1-2】

問題7 裁判所が、表現内容が真実でないことが明白な出版物について、その公刊により名誉侵害の被害者が重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合に、仮処分による出版物の事前差止めを行ったとしても、憲法に違反しない。○か×か?

正しい。裁判所という国家機関が出版物の事前差止めを行うのは、事前抑制禁止の法理(憲21条1項)に抵触する可能性がある。この点、裁判所による事前差止めであっても、その差止めの対象となる出版物が真実でないことが明白で、その公開により名誉侵害の被害者が重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがある場合で、その差止めを受ける者の意見を聞く機会を原則与えるような手段を踏むのなら、憲法21条1項に違反しないというのが判例の立場である(北方ジャーナル事件 最判昭61.6.11)。【平15-1-3】

問題8 「交通秩序を維持すること」という遵守事項に違反する集団行進について刑罰を科す条例を定めたとしても、憲法に違反しない。○か×か?

正しい。「交通秩序を維持すること」という一見処罰範囲が不明確な規定で刑罰を科すのは憲法31条に抵触する可能性がある。この点、「交通秩序を維持すること」という文言を通常の判断能力を有する一般人が見れば、平穏に行われる集団行進に不可避的に伴う程度の交通秩序阻害行為を禁止しているのではなく、その程度を超えるような交通秩序の阻害をもたらす種類の行為のみを規制していると読み取ることが可能なので、同条項は憲法31条に違反しないというのが判例の立場である(徳島市公安条例事件 最判昭50.9.10)。【平15-1-4】

問題9 薬局の新たな開設について、主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という目的のために、地域的な適正配置基準を満たすことを許可条件としたとしても、憲法に違反しない。○か×か?

誤り。薬局の新たな開設に対する許可条件として地域的な適正配置基準を満たすことを条件とした薬事法が憲法22条に反するかが問題となった事件で、裁判所は、薬事法の立法目的(国民の生命、健康に対する危険の防止)を達成する手段として適正配置基準を設けることは、立法目的達成のために必要性と合理性を認めることができないといえるので、憲法22条1項違反であると判断している(薬事法距離制限事件、最判昭50.4.30)。【平15-1-5】

問題10 会社は、公共の福祉に反しない限り、政治的行為の自由を有するが、会社による政治資金の寄附は、それによって政治の動向に影響を与えることがあり、国民の参政権を侵害しかねず、公共の福祉に反する結果を招来することとなるから、自然人である国民による政治資金の寄附と別異に扱うべきである。○か×か?

誤り。「会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進し又は反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。」とするのが判例(最判昭45.6.24)である。「自然人である国民による政治資金の寄附と別異に扱うべきである」とする本肢は、誤り。【平25-1-ア】

問題11 憲法は、何人も、居住、移転の自由を有する旨を定めており、その保障は、外国人にも及ぶところ、この居住、移転には、出国だけでなく、入国も含まれることから、外国人には、日本から出国する自由に加え、日本に入国する自由も保障される。○か×か?

誤り。「憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてはなんら規定していない」(最判昭32.6.19)。また、「憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものでない」(最判昭53.10.4)とするのが判例である。【平25-1-イ】

問題12 「知る権利が具体的請求権となるためには、これを具体化する情報公開法等の法律の制定が必要である。」という場合、「知る権利」は、その行使を妨げる国家の行為の排除を要求できるという自由権としての性格を有するものとして用いられている。○か×か?

誤り。知る権利には自由権としての意味と社会権・国務請求権としての意味とがあると解釈されている。自由権としての知る権利とは、国家権力によって国民が情報の受領を妨げられることはないという意味で使われる。憲法21条1項で保障されているものである。一方、社会権・国務請求権としての知る権利とは、国民が国に対して国家が保有している情報の開示を請求していくという意味で使われる。本肢では国家権力に対する情報公開請求が問題となっているので、ここでいう「知る権利」は社会権・国務請求権としての性格を有するものとして用いられている。【平18-3-イ】

問題13 公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、公務員に対して政治的意見の表明を制約することとなるが、それが合理的で、必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許すところである。○か×か?

正しい。「公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、公務員に対して政治的意見の表明を制約することとなるが、それが合理的で、必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法21条に反しない」とするのが判例(最判昭49.11.6)である。【平25-1-ウ】

問題14 我が国に在留する外国人に対し、法律をもって、地方公共団体の長やその議会の議員の選挙権を付与する措置を講じなくても、違憲の問題は生じない。○か×か?

正しい。「憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味し、在留外国人に対して地方公共団体における選挙権を保障したものということはできない」とするのが判例(最判平7.2.28)である。したがって、我が国に在留する外国人に対し、法律をもって、地方公共団体の長やその議会の議員の選挙権を付与する措置を講じなくても、違憲の問題は生じない。【平25-1-エ】

問題15 喫煙の自由は、憲法の保障する基本的人権には含まれず、未決拘禁者に対して刑事施設内での喫煙を禁止することは、拘禁の目的、制限の必要性や態様などについて考察するまでもなく、憲法に違反しない。○か×か?

誤り。「喫煙の自由が本条の保障する基本的人権に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。監獄内においては、拘禁の目的に照らし、必要な限度で、被拘禁者の自由に対して合理的制限を加えられるが、その制限が必要かつ合理的かどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、具体的制限の態様の衡量によって決せられる。」(最判昭45.9.16)とするのが判例である。「未決拘禁者に対して刑事施設内での喫煙を禁止することは、拘禁の目的、制限の必要性や態様などについて考察するまでもなく、憲法に違反しない」としている本肢は誤り。【平25-1-オ】

問題16 選挙権は、国民主権に直結する極めて重要な憲法上の権利であるから、例えば、当選を得る目的で選挙人に対し金銭などを供与するなど一定の選挙犯罪を犯した者について法律の規定により選挙権や被選挙権を制限することは違憲である。○か×か?

誤り。選挙の公正は非常に重要な利益であるから、一定の選挙犯罪を犯した者に一定期間参政権を制限することは相当であるというのが裁判所の立場である(最判昭30.2.9)。【平21-2-ア】

問題17 国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民である在外国民についても、憲法によって選挙権が保障されており、国は、選挙の公正の確保に留意しつつ、その選挙権の行使を現実的に可能にするために、所要の措置を執るべき責務を負うが、選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能又は著しく困難であると認められる場合には、在外国民が選挙権を行使することができないこととなっても違憲とはいえない。○か×か?

正しい。在外日本国民の参政権について制限をしてきた立法が憲法15条に違反する等が問題となった事件で裁判所は、選挙権行使を制限するには「やむを得ないと認められる事由」が必要であるところ、本件では右事情はなかったとして、本件参政権制限規定は憲法15条1項違反になるとしている(最判平17.9.14)。ということは、在外日本国民の選挙権を制限したことについて「やむを得ないと認められる事由」があれば、違憲とはならないことになる。選択肢記述中、『選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能又は著しく困難であると認められる場合には、・・・違憲とはいえない』との部分は要するに在外日本国民に参政権を制限したことについてやむを得ない事由があった場合には違憲とはならないとしているのである。【平21-2-イ】

問題18 参議院地方選出議員についての選挙の仕組みには、事実上都道府県代表的な意義又は機能を有する要素が加味されており、このような選挙制度の仕組みの下では、選挙区間における選挙人の投票の価値の平等は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較してより強く保障されなければならない。○か×か?

誤り。参議院地方選出議員についての選挙区間における選挙人の投票価値の平等が、人口比例主義を基本とする選挙制度(衆議院議員の選挙制度)の場合と比較して強く保障されなければならないという内容は、判例の趣旨に反する(最判昭58.4.27、最判平24.10.17、最判平29.9.27)。【平21-2-ウ】

問題19 戸別訪問は国民の日常的な政治活動として最も簡便で有効なもので、表現の自由の保障が強く及ぶ表現形態であり、買収等がされる弊害が考えられるとしてもそれは間接的なものであって戸別訪問自体が悪性を有するものではなく、それらの弊害を防止する手段が他にも認められるから、選挙に関し、いわゆる戸別訪問を一律に禁止することは違憲である。○か×か?

誤り。選挙運動の1つである戸別訪問を一律禁止している公職選挙法の規定は憲法21条に違反するかが問題となった事件で、裁判所は、「戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害を防止し、もって選挙の自由と公正を確保することを目的としている」点を根拠の1つとして、戸別訪問一律禁止を憲法に違反しないとの判断を下した(最判昭56.6.15)。【平21-2-エ】

問題20 公務員を選定、罷免することを国民の権利として保障する憲法第15条第1項は、被選挙権については明記していないが、選挙権の自由な行使と表裏の関係にある立候補の自由についても、同条同項によって基本的人権としての保障が及ぶ。○か×か?

正しい。判例は、「被選挙権、特に立候補の自由は選挙権の自由な行使と表裏の関係にある」として立候補の自由は憲法15条1項で保障される点を判示している(最判昭43.12.4)。【平21-2-オ】

問題21 個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するから、警察官が正当な理由なく個人の容貌・姿態を撮影することは許されない。○か×か?

正しい。個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、承諾なしに、みだりに容貌・姿態を撮影されない自由を有し、これを肖像権と称するかどうかは別として、警察官が、正当な理由なく個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない(最判昭44.12.24)。なお、現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がないと認められる場合で、証拠保全の必要性・緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われるときには、警察官による撮影が許容される。【平27-1-ア】

問題22 裁判所が、他人の名誉を毀損した加害者に対して、被害者の名誉を回復するのに適当な処分として謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずることは、その加害者の人格を無視し、意思決定の自由を不当に制限することとなるので、その内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものであったとしても、当該加害者の思想及び良心の自由を侵害し、許されない。○か×か?

誤り。民法723条にいう名誉の回復に適当な処分として謝罪広告を新聞紙等に掲載すべきことを加害者に命ずることは、それが単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものであれば、代替執行の手続によって強制執行しても、加害者の倫理的な意思、良心の自由を侵害するものではない(最判昭31.7.4)。【平27-1-イ】

問題23 「全国一斉学力テストの実施は、教師の教育の自由を侵害するものではない。」という場合、「教育の自由」は、国家に対し一定の作為を要求できるという国務請求権ないし社会権としての性格を有するものとして用いられている。○か×か?

誤り。全国一斉学力テストの実施が教師の教育の自由を侵害するかという場合の「教育の自由」は、国家権力による国民の自由に対する侵害という場面で問題となっている。つまり、本肢では国家権力による教師の教育の自由に対する妨害が問題となっているので、ここでいう「教育の自由」は自由権としての性格を有するものとして用いられている。【平18-3-ウ】

問題24 剣道実技の科目が必修とされている公立の高等専門学校において、特定の宗教を信仰していることにより剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置として、他の体育実技の履修やレポートの提出を求めた上で、その成果に応じた評価をすることは、その目的において宗教的意義はないものの、その宗教を援助、助長し促進する効果を有し、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるから、政教分離の原則に違反する。○か×か?

誤り。高等専門学校において、信仰上の理由によって剣道の必修実技の履修を拒否した学生に対し、代替措置として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、およそ代替措置を採ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法20条3項の政教分離の原則に違反するということができないことは明らかである(最判平8.3.8)。【平27-1-ウ】

問題25 報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものであるから、報道の自由及び報道のための取材の自由はいずれも憲法上保障されており、裁判所が、刑事裁判の証拠に使う目的で、報道機関に対し、その取材フィルムの提出を命ずることは許されない。○か×か?

誤り。報道機関の報道は、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであるから、事実の報道の自由も憲法21条の保障の下にあり、取材の自由も憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する。しかし、取材の自由も公正な裁判の実現のために制約を受け、諸般の事情を比較衡量した結果、取材活動によって得られたものを証拠として提出させることによって将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益を受忍しなければならない場合がある(最判昭44.11.26)。したがって、裁判所が、刑事裁判の証拠に使う目的で、報道機関に対し、その取材フィルムの提出を命ずることが許される場合がある。【平27-1-エ】

問題26 大学において学生の集会が行われた場合であっても、その集会が、真に学問的な研究又はその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動であり、かつ、公開の集会又はこれに準じるものであるときは、その集会への警察官の立入りは、大学の学問の自由と自治を侵害するものではない。○か×か?

正しい。学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含み、憲法23条は、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、特に大学におけるそれらの自由及び大学における教授の自由を保障することを趣旨としたものである。学生の集会は、大学の許可したものであっても真に学問的な研究又はその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない(最判昭38.5.22)。したがって、実社会の政治的社会的活動であり、かつ、公開の集会又はこれに準じるものである集会への警察官の立入りは、大学の学問の自由と自治を侵害するものではない。【平27-1-オ】

問題27 憲法が政教分離の原則を規定しているのは、基本的人権の一つである信教の自由を強化ないし拡大して直接保障することを明らかにしたものである。○か×か?

誤り。判例は、政教分離の規定について、いわゆる制度的保障の規定であって、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものであるとしている(最判昭52.7.13)。【平22-2-ア】

問題28 政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離には、一定の限界があり、国が宗教団体に対して補助金を支出することが憲法上許されることがある。○か×か?

正しい。津地鎮祭事件において判例は、現実の国家制度として、国家と宗教との完全な分離を実現することは、実際上不可能に近いものといわなければならず、政教分離原則を完全に貫こうとすれば、文化財である神社、寺院の建築物や仏像等の維持保存のため国が宗教団体に補助金を支出したりすることも疑問とされるに至り、それが許されないということになれば、そこには、宗教との関係があることによる不利益な取扱い、すなわち宗教による差別が生ずることになりかねないとして、政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れないとしている(最判昭52.7.13)。したがって、国が宗教団体に対して補助金を支出することが憲法上許されることがある。【平22-2-イ】

問題29 憲法第20条において国及びその機関がすることを禁じられている「宗教的活動」とは、宗教の布教、強化、宣伝等を目的とする積極的行為に限られず、単なる宗教上の行為、祝典、儀式又は行事を含む一切の宗教的行為を指す。○か×か?

誤り。憲法20条3項の「宗教的活動」の意義については、①特定宗教の布教・強化・宣伝等を目的とする積極的行為に限られるとする見解②目的効果基準などを適用する見解③宗教上の行為、祝典、儀式又は行事を含むおよそ宗教的信仰の表現である一切の行為を包括するものとする見解がある。津地鎮祭事件において最高裁は、憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきであると判示し、上記②の見解に立っている(最判昭52.7.13)。【平22-2-ウ】

問題30 憲法第89条において公の財産の支出や利用提供が禁止されている「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを目的とする組織や団体には限られず、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っているすべての組織や団体を指す。○か×か?

誤り。箕面忠魂碑事件において判例は、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当であるとしている(最判平5.2.16)。【平22-2-エ】

問題31 ある特定の宗教法人に対して国が解散命令を発することは、国が当該宗教法人と密接にかかわることになるから、政教分離の原則に違反し、許されない。○か×か?

誤り。判例は、宗教法人に対する解散命令の制度は、専ら世俗的目的によるものであって、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容かいする意図によるものではなく、その制度の目的も合理的であり、政教分離の原則に反しないとしている(最決平8.1.30)。【平22-2-オ】

問題32 検閲とは、表現行為に先立ち公権力が何らかの方法でこれを抑制すること及び実質的にこれと同視することができる影響を表現行為に及ぼす規制方法をいう。○か×か?

誤り。判例は、「検閲とは、行政権が主体となって行うもの」と解している(最判昭59.12.12)。公権力、例えば裁判所が、表現行為に先立ち何らかの方法でこれを抑制すること及び実質的にこれと同視することができる影響を表現行為に及ぼす規制方法を行っても、これを検閲とは解さない。【平26-1-ア】

問題33 検閲の禁止は、絶対的禁止を意味するものではなく、検閲に当たる場合であっても、厳格かつ明確な要件の下で検閲が許容される場合はあり得る。○か×か?

誤り。判例は、「検閲の禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない絶対的禁止の趣旨である」としている(最判昭59.12.12)。【平26-1-イ】

問題34 「わいせつ物頒布罪を定める刑法第175条は、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持するという公共の福祉のための制限であり、表現の自由の保障に反しない。」という場合、「表現の自由」は、その行使を妨げる国家の行為の排除を要求できるという自由権としての性格を有するものとして用いられている。○か×か?

正しい。わいせつ物の頒布を犯罪として規制している刑法の規定が表現の自由を侵害するかという場合の「表現の自由」は、国家権力による国民の自由に対する侵害という場面で問題となっている。つまり、本肢では国家権力による表現活動への妨害が問題となっているので、ここでいう「表現の自由」は自由権としての性格を有するものとして用いられている。【平18-3-エ】

問題35 裁判所の仮処分による出版物の事前差止めは、訴訟手続を経て行われるものではなく、争いのある権利関係を暫定的に規律するものであって、非訟的な要素を有するものであるから、検閲に当たる。○か×か?

誤り。判例は、「仮処分による表現物の事前差止めは、検閲に当たらない」としている(最判昭61.6.11)。【平26-1-ウ】

問題36 教科用図書の検定は、不合格となった図書をそのまま一般図書として発行することを何ら妨げるものではないから、検閲には当たらない。○か×か?

正しい。判例は、「教科用図書の検定は、不合格となった図書をそのまま一般図書として発行することを何ら妨げるものではないから、検閲には当たらない」としている(最判平5.3.16)。【平26-1-エ】

問題37 書籍や図画の輸入手続における税関検査は、事前に表現物の発表そのものを禁止するものではなく、関税徴収手続に付随して行われるものであって、思想内容それ自体を網羅的に審査し、規制することを目的とするものではない上、検査の主体となる税関も思想内容の規制をその独自の使命とする機関ではなく、当該表現物に関する税関長の通知につき司法審査の機会が与えられているから、検閲には当たらない。○か×か?

正しい。判例は、「税関検査は、事前に表現物の発表そのものを禁止するものではなく、関税徴収手続に付随して行われるものであって、思想内容それ自体を網羅的に審査し、規制することを目的とするものではない上、検査の主体となる税関も思想内容の規制をその独自の使命とする機関ではなく、当該表現物に関する税関長の通知につき司法審査の機会が与えられているから、検閲に当たるとはいえない」としている(最判昭59.12.12)。【平26-1-オ】

問題38 海外渡航の自由といえども、無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服する。○か×か?

正しい。判例は、外国旅行の自由といえども無制限のままに許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきであるとしている(最判昭33.9.10)。【平23-1-エ】

問題39 憲法第29条第1項は、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎を成す国民の個々の財産権につき、これを基本的人権として保障した規定である。○か×か?

正しい。憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない」と定める。この規定は、個人が現に有する具体的財産権を基本的人権として保障するとともに、私有財産制度を制度的に保障したものである(最判昭62.4.22)。【平24-1-ア】

問題40 財産権を制限する法律は、職業選択の自由に対する社会経済政策上の積極的な目的の規制と同様に、立法府がその裁量権を逸脱し、その規制が著しく不合理であることが明白である場合に限り、違憲無効となる。○か×か?

誤り。判例は、財産権を制限する法律の違憲審査基準について、「財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、当該立法の規制目的が社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が当該目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのために立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法は憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができる」と述べている(最判昭62.4.22)。【平24-1-イ】

問題41 憲法第29条第3項の「正当な補償」とは、完全な補償を意味するものであって、その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額は、「正当な補償」ということはできない。○か×か?

誤り。判例は、戦後の農地改革に際して、農地買収の対価が実際の経済価格と比べて著しく低かった問題について、「正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常に市場価格と完全に一致するものでない」としている(最判昭28.12.23)。【平24-1-ウ】

問題42 憲法第29条第3項の「補償」を要する場合とは、特定の人に対し、特別に財産上の犠牲を強いる場合をいい、公共の福祉のためにする一般的な制限である場合には、原則的には、「補償」を要しない。○か×か?

正しい。憲法29条3項の補償を要するのは、財産権の制限が公共の福祉のための一般的な制限を超えて、特定の人に特別に財産上の犠牲を強いたような場合である(最判昭43.11.27)。【平24-1-エ】

問題43 憲法上補償が必要とされる場合であるにもかかわらず、財産権の制限を規定した法律が補償に関する規定を欠いているときは、当該法律は、当然に違憲無効となる。○か×か?

誤り。憲法上補償が必要とされる財産権の制限であるにもかかわらず、その財産権を制限する法律に補償規定がない場合、判例は、「直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求する余地が全くないわけではない」と述べている(最判昭43.11.27)。【平24-1-オ】

問題44 「労働組合法が不当労働行為について規定し、労働委員会による救済を定めていることは、労働基本権の保障に沿うものである。」という場合、「労働基本権」は、国家に対し一定の作為を要求できるという国務請求権ないし社会権としての性格を有するものとして用いられている。○か×か?

正しい。労働組合法が不当労働行為に対して規定をし、労働委員会による救済を定めているのは労働基本権の保障に沿うものであるという場合の「労働基本権」は、国家権力に対して国民が救済を求めるという場面で問題となっているものである。つまり、本肢では、国家権力に対する国民の労働基本権に基づく救済の求めが問題となっているので、ここでいう「労働基本権」は社会権・国務請求権としての性格を有するものとして用いられている。【平18-3-オ】

問題45 外国人に入国の自由が認められるかどうかについて、判例は、憲法第22条第1項は、外国人が我が国に入国することについては何ら規定をしておらず、国際慣習法上も、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではないという立場をとっている。○か×か?

正しい。判例は、外国人に国際慣習上の理由などによって入国の自由は認めていない(最判昭32.6.19)。【平21-1-④】

問題46 憲法上、我が国に在留する外国人に地方公共団体の参政権が保障されているかについて、判例は、憲法は、国民主権の原理を採用している以上、憲法第93条第2項が我が国に在留する外国人に対して地方公共団体の参政権を保障したものとはいえないという立場をとっている。○か×か?

正しい。判例は、外国人の地方参政権については国民主権の観点から憲法上の権利ではないとの判断を下している(最判平7.2.28)。【平21-1-⑤】

問題47 何人も、自己消費の目的のために酒類を製造する自由を有しているから、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上で、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することは、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。○か×か?

誤り。製造目的を問わず、酒類の製造を一律に免許の対象として、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰してしまうと、自己消費目的の酒類製造の自由が制約されることになる。しかし、右規制は立法府の裁量を逸脱し、著しく不合理なものであることが明白であるとはいえないので、右規制は憲法13条に違反しないというのが裁判所の立場である(最判平元.12.14)。【平17-1-ア】

問題48 何人も、公共の福祉に反しない限り、喫煙の自由を有しているから、未決勾留により拘禁された者に対し、喫煙を禁止することは、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。○か×か?

誤り。喫煙の自由が憲法13条で保障される権利だとしても、いついかなる場所でも保障されるものではないので、逃走防止、罪証隠滅防止といった在監目的を達成するために拘禁されている者の喫煙を禁止することは憲法13条に違反しないというのが裁判所の立場である(最判昭45.9.16)。【平17-1-イ】

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