司法書士試験<過去問題肢別チェック ■刑法「刑法各論 個人的法益に対する罪」

問題1 Aは、交通事故を装って保険金をだまし取るために傷害を負わせてほしいとのBからの依頼に応じ、自ら運転する自動車をBに衝突させて傷害を負わせた。この場合、あらかじめ被害者であるBの承諾があっても、Aには、傷害罪が成立する。○か×か?

正しい。被害者が身体への傷害を承諾した場合の傷害罪(刑204条)の成否は、承諾の存在だけでなく、承諾を得た動機・目的、侵害行為の手段・方法、結果発生の部位・程度などの諸般の事情を照らし合わせて検討しなければならない。自動車事故を装った保険金詐欺目的での傷害行為に対して被害者の承諾があったとしても、違法性は阻却されない(最決昭55.11.13)。したがって、Aには、傷害罪が成立する。【平22-26-イ】

問題2 Aは、Bの生理的機能に障害を引き起こさせようとして、Bに故意に風邪薬を大量に服用させ、肝機能障害に陥らせた。この場合、Aには、傷害罪が成立する。○か×か?

正しい。傷害罪における「傷害」とは、身体の生理的機能に障害を加えることをいい、風邪薬を大量に服用させ、肝機能障害に陥らせる行為も傷害に当たる。したがって、Aには、傷害罪が成立する。【平22-26-ウ】

問題3 業務妨害罪における業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいうから、嫌がらせのために夜中に人家の前で大声を上げるなどしてその家の家人の睡眠を妨害しただけでは、業務妨害罪は成立しない。○か×か?

正しい。業務妨害罪における業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいうから、睡眠、飲食、散歩などのように、まったく個人的に行われる行動は業務ではない。【平15-26-4】

問題4 長年恨んでいた知人を殺害するため、深夜、同人が一人暮らしをするアパートの一室に忍び込んで、寝ている同人の首を絞めて殺害し、死亡を確認した直後、枕元に同人の財布が置いてあるのが目に入り、急にこれを持ち去って逃走資金にしようと思い立ち、そのまま実行した場合、持ち主である知人は死亡していても、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。窃盗罪は他人の財物、つまり誰かの所有物又は占有物を奪った場合に成立する。本肢では、知人殺害後にその財布を奪う意思が生じそれを奪っていることから、死者による占有が観念できるかどうかが問題となる。判例は、被害者の生前の占有が死亡直後も保護されるとして窃盗罪を成立させている(最判昭41.4.8)。よって、本肢では、窃盗罪が成立する。【平20-26-ア】

問題5 恐喝の被害者からの振込送金により、第三者名義の銀行口座(口座売買によって取得されたもの)に入金された預金について、恐喝の実行犯からこれを引き出すように依頼を受け、恐喝によって入金されたものであることを知りながら、その口座のキャッシュカードを用いて、その口座内の現金をすべて引き出した場合、銀行との関係で、この引出しについて窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。銀行預金口座の金銭は、通常銀行に占有があるとされており、無権限者が預金口座から金銭を引き出す行為は、銀行との関係で窃盗罪又は詐欺罪が成立する。銀行窓口で引き出す場合は、銀行員に対する欺罔行為が認められるから詐欺罪となり、ATM等の自動支払機から引き出す場合は窃盗罪が成立する。本肢で問題となっているのは第三者名義の銀行口座であり、それも口座売買で取得したものであるから、当然金銭引き出し権限はなく、キャッシュカードを用いていることから欺罔行為もないため、銀行との関係で窃盗罪が成立する(東京高判平6.9.12)。【平20-26-オ】

問題6 一時使用の目的で他人の自転車を持ち去った場合、使用する時間が短くても、乗り捨てるつもりであったときは、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。無断使用の後、乗り捨て・破壊する意思の場合には、不法領得の意思が肯定されるため、窃盗罪が成立する(最判昭26.7.13)。本肢では、犯人は自転車を乗り捨てるつもりなので、不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。なお、一時使用後に返還する意思の場合には、不法領得の意思が認められないため、窃盗罪は成立しない(大判大9.2.4)。【平19-26-ア】

問題7 水増し投票をする目的で投票用紙を持ち出した場合、経済的利益を得る目的がなくても、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。「経済的用法に従い利用、処分する意思」とは、必ずしも経済的利益に還元されない本来的用法で利用、処分する場合も含むと解されている。そして、判例は、投票用紙を不正投票する意図で窃取する場合も不法領得の意思ありとしている(最判昭33.4.17)。【平19-26-エ】

問題8 Aは、自己所有の家屋の2階部分を隣家の庭の上に張り出して増築した。この場合、Aについて不動産侵奪罪が成立する。○か×か?

正しい。不動産侵奪罪における「不動産」とは、土地及びその定着物をいう。土地は、地面だけでなく、地上の空間及び地下をも含む。したがって、本問では、不動産侵奪罪(刑235条の2)が成立する(大阪地判昭43.11.15)。【平15-27-ア】

問題9 Aは、他人所有の畑に囲いを設置し、その畑の中で野菜を栽培した。この場合、Aについて不動産侵奪罪が成立する。○か×か?

正しい。不動産侵奪罪における「侵奪」とは、不動産上の他人の占有を排除して行為者又は第三者の占有を設定することをいうが、この占有とは、不動産に対する事実的支配を意味する。したがって、Aの行為は、侵奪にあたる(大阪高判昭41.8.19)。【平15-27-ウ】

問題10 Aは、窃盗の目的でB方に侵入し、タンスの引き出しを開けるなどして金品を物色したが、めぼしい金品を発見することができないでいるうちに、帰宅したBに発見されたため、逃走しようと考え、その場でBを殴打してその反抗を抑圧した上、逃走した。この場合、Aには、事後強盗罪の未遂罪が成立する。○か×か?

正しい。窃盗犯人が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、事後強盗罪が成立する(刑238条)。事後強盗罪の既遂・未遂は、先行する窃盗罪の既遂・未遂によって決する(最判昭24.7.9)。Aは、財物を物色する行為を開始しているが、いまだ財物の占有を取得するに至っておらず、先行する窃盗罪は未遂にとどまっている。したがって、Aには、事後強盗罪の未遂罪が成立する。【平22-25-ア】

問題11 Aは、かねてからうらみを抱いていたBを殺害し、その後、その場所でBの財物を奪取する犯意を抱き、Bの財物を奪取した。この場合、Aには、強盗殺人罪は成立しない。○か×か?

正しい。強盗以外の目的で人を殺害した後に、財物奪取の意思を生じて財物を奪取した場合、被害者が生前有していた占有は、財物の奪取が被害者の死亡と時間的・場所的に近接した範囲内にある限り、なお刑法上の保護に値し、一連の行為を全体的に評価して窃盗罪(刑235条)が成立する(最判昭41.4.8)。したがって、Aには、殺人罪及び窃盗罪が成立し、強盗殺人罪は成立しない。【平22-25-オ】

問題12 Aは、人気のない夜道でBにナイフを示して脅迫し、現金を要求したが、畏怖したBがナイフの刃を手でつかんだので、Bの手を離すためにナイフを動かしたところ、Bが手に切り傷を負った。この場合、Aには、強盗致傷罪が成立する。○か×か?

正しい。強盗犯人が金員要求のため被害者に日本刀を突き付ける行為は暴行といえるから、被害者が救いを求めて日本刀にしがみつき、犯人が刀を引いたため切り傷を負ったときは、暴行により傷害を加えた強盗致傷罪に当たる(最判昭28.2.19)。本肢のAには、強盗致傷罪が成立する。【平27-26-ア】

問題13 Aは、B宅に侵入し、Bに拳銃を突き付けて脅迫し、金品を要求したが、Bが畏怖して身動きできなくなったので、自らB宅内を物色し、Bが気付かないうちにB所有の腕時計をポケットに入れて逃走した。この場合、Aには、強盗罪が成立する。○か×か?

正しい。強盗犯人が被害者を脅迫し、その反抗抑圧中に財物を奪取すれば、奪取行為について被害者が気付かない場合であっても強盗罪が成立する(最判昭23.12.24)。本肢のAには、強盗罪が成立する。【平27-26-エ】

問題14 Aは、Bを脅迫し、AのC銀行に対する債務についてBが免責的債務引受けをする旨の意思表示をAに対してさせた。この場合には、そのBの意思表示をC銀行が承諾していないときであっても、恐喝罪が成立し、かつ既遂に達する。○か×か?

誤り。恐喝罪が既遂となるためには、行為者の恐喝行為によって相手方が畏怖し、それにもとづいて財産的処分行為がなされ、その結果、財物又は財産上の利益が移転することが必要である。したがって、Aが、Bを脅迫し、AのC銀行に対する債務についてBが免責的債務引受けをする旨の意思表示をさせた段階では、いまだ恐喝罪は既遂に達していない。【平17-27-イ】

問題15 Aが、タクシー運転手Bの態度に立腹し、後部座席からBの頭部を殴ったところ、畏怖したBがタクシーから降りて逃げ出したため、Aは、この機会にタクシー内の金員を奪おうと思い立ち、これを奪い取った。この場合には、恐喝罪が成立し、かつ既遂に達する。○か×か?

誤り。恐喝罪は、暴行・脅迫によって人を畏怖させて、財物を交付させ、財産上の処分行為をさせることが必要である(最判昭43.12.11)。Aが、運転手Bの態度に立腹しBの頭部を殴ったところ、畏怖したBがタクシーから降りて逃げ出したため、Aがタクシー内の金員を奪い取ったという行為には、財物交付はなく、財産上の処分行為もないから、恐喝罪が成立し、かつ既遂に達するとするのは、誤りである。【平17-27-オ】

問題16 Aは、所持金がなく代金を支払う意思もないのにタクシーに乗り、目的地に到着すると、運転手Bのすきを見て何も言わずに逃げた。この場合、Aには、Bに対する詐欺罪が成立する。○か×か?

正しい。タクシーに乗車して目的地まで運んでもらうというサービスも、詐欺罪の財産上の利益に該当する。そして、本問のように、代金を支払う意思がないのにタクシーに乗車した場合には、運行が開始された時点で詐欺利得罪(刑246条2項)が成立する。【平21-26-ウ】

問題17 Aは、知慮浅薄な未成年者Bに対して、返すつもりがないのに「すぐに返す。」と欺いて現金の交付を求めたところ、それを信用したBがAに1万円を差し出そうとしたが、Bの親Cが現れたため、Aは1万円を受け取れなかった。この場合、Aには、Bに対する準詐欺未遂罪ではなく、詐欺未遂罪が成立する。○か×か?

正しい。準詐欺罪(刑248条)は、その手段が詐欺罪における欺罔行為には当たらなくても、相手方の知慮浅薄又は心神耗弱を利用して財物交付などをさせた場合には、詐欺罪と同様に処罰するというものである。したがって、手段が欺罔行為に該当する場合には、通常の詐欺罪が成立する(大判大4.6.15)。本問では、Aは返すつもりがないのに「すぐに返す。」と欺いており、これは欺罔行為に該当する。よって、本問では詐欺罪(未遂)(刑44条、246条1項、250条)が成立し、準詐欺罪(未遂)は成立しない。【平21-26-オ】

問題18 従業員Aは、店内のレジにある現金を自分で使い込むために店外に持ち出そうと考え、それを手に取って店の出入り口まで移動したが、そこで翻意して、現金をレジに戻した。この場合、Aには、横領未遂罪が成立する。○か×か?

誤り。横領罪では未遂を処罰する規定はない。よって、本肢は誤り。横領罪では、不法領得の意思の発現があった時点で実行の着手が認められ、処分行為が完了しなくてもその時点で既遂となる。【平20-27-イ】

問題19 Aは、帰宅途中、公園で乗り捨てられた自転車を見つけると、それが自分のものではないことを知りながら、それに乗って帰った。この場合、Aには、横領罪が成立する。○か×か?

誤り。横領罪(刑252条)の客体は、自己の占有する他人の物である。本肢の自転車はAの占有下にあるわけではないため、横領罪(刑252条)は成立せず、遺失物横領罪(刑254条)が成立する。【平20-27-ウ】

問題20 Aは、友人Bの部屋に遊びに行った際、B所有のカメラが高価なものだと聞き、Bが席を外した隙に、自分のかばんに入れて持ち帰った。Aは、このカメラを自分で使うか、売ることを考えていたが、どちらにするか確たる考えはなかった。この場合、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。窃盗罪の主観的要件として、故意のほかに不法領得の意思が必要とされる。窃盗罪における不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法又は本来の用法に従い利用又は処分する意思をいう(大判大4.5.21、最判昭33.4.17)。したがって、Aには、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。【平23-26-ア】

問題21 Aは、パチンコ台に誤作動を生じさせる装置を携帯してパチンコ店に行き、この装置を用いてパチンコ台を誤作動させて大当たりを出し、パチンコ玉を排出させた。Aは、排出させたパチンコ玉については、当初からパチンコ店内ですぐに景品交換するつもりであった。この場合、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。○か×か?

正しい。パチンコ台に誤作動を生じさせる装置を用いてパチンコ台を誤作動させてパチンコ玉を排出させる行為は、たとえ、その目的がパチンコ玉を景品交換の手段とするものであったとしても、経営者の意思に基づかないで、パチンコ玉の所持を自己に移すものであり、しかもこれを再び使用し、あるいは景品と交換すると否とは自由であるから、パチンコ玉につき自ら所有者としてふるまう意思を表現したものといえ、いわゆる使用窃盗とみるべきではなく、パチンコ玉に対する不法領得の意思が認められる(最決昭31.8.22)。したがって、Aには、不法領得の意思が認められるので、窃盗罪が成立する。【平23-26-エ】

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