問題1 AがBに対して甲宅に侵入して金品を盗んでくるよう教唆したところ、Bは、甲宅に人がいたので、甲宅に侵入することをあきらめたが、その後、金品を盗もうと新たに思い付き、乙宅に侵入して金品を盗んだ。Aには、住居侵入・窃盗罪の教唆犯が成立する。○か×か?

誤り。AはBに対して甲宅に侵入して金品を盗んでくるよう教唆したのに、Bは、甲宅に侵入することをあきらめ、その後、Bは新たな故意で乙宅に侵入して金品を盗んだのだから、Aの教唆行為とBの実行行為との間に因果関係は認められないので、Aには、Bに対する住居侵入・窃盗罪の教唆犯は成立しない。【平16-26-ウ】
問題2 AがBに対して甲宅に侵入して金品を盗んでくるよう教唆したところ、Bは、甲宅に侵入して金品を物色したが、その最中に甲に発見されたので、甲に刃物を突き付けて甲から金品を強取した。Aには、住居侵入・強盗罪の教唆犯が成立する。○か×か?

誤り。AはBに対して窃盗の教唆を行ったのに、Bは強盗を実行したのだから、錯誤がある。Aには、構成要件の重なり合う範囲内で故意が認められ、住居侵入・窃盗の教唆犯が成立する。【平16-26-エ】
問題3 Aは、生活費欲しさから、中学1年生の息子Bに包丁を渡して強盗をしてくるよう指示したところ、Bは、嫌がることなくその指示に従って強盗することを決意し、コンビニエンスストアの店員にその包丁を突き付けた上、自己の判断でその場にあったハンマーで同人を殴打するなどして、その反抗を抑圧して現金を奪い、Aに全額を渡した。この場合、Aには、強盗罪の共同正犯が成立する。○か×か?

正しい。Aが生活費欲しさから強盗を計画し、中学1年生の息子Bに対し、犯行方法を教示するとともに、犯行道具を与えるなどして指示命令して強盗を実行させた場合、当時Bには是非弁別の能力があり、Aの指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく、Bは自らの意思により強盗の実行を決意した上、臨機応変に対処して強盗を完遂し、Bが奪ってきた金品をすべてAが領得したなどの事実関係の下では、Aにつき強盗罪(刑236条)の間接正犯又は教唆犯ではなく、共同正犯が成立する(最決平13.10.25)。【平22-24-ウ】
問題4 Aは、Bとの間で、Cを脅して現金を強奪する計画を立て、その計画どおりBと一緒にCをピストルで脅したところ、Cがおびえているのを哀れに思い、現金を奪うことを思いとどまり、その場にいたBに何も言わず立ち去ったが、Bは、引き続き現金を奪い取った。この場合、Aには、強盗(既遂)罪の共同正犯が成立する。○か×か?

正しい。実行に着手した後に共犯関係からの離脱が認められるためには、離脱の意思の表明とその了承だけでは足りず、他の共犯者が現に行っている実行行為を中止させた上、以後は自分も含め共犯者の誰もが当初の共謀に基づく実行行為を継続することのない状態を作り出すことが必要であると解されている(最決平元.6.26参照)。したがって、AとBが共同して強盗罪の実行に着手した後、Aが現場を立ち去るに当たって、なおBによる財物奪取のおそれが消滅していなかったのに、格別の防止措置を講ずることなく、何も言わず立ち去ったにすぎない場合、AB間の共犯関係は、その時点で解消したものとはいえず、財物奪取の結果がAの立ち去った後に行われたとしても、Aには、強盗(既遂)罪の共同正犯が成立する。【平22-24-エ】
問題5 Aは、強盗を企て、B及びCとともに、「ABCの3人で宝石店に赴き、AとBとがその店の前で見張りをしている間に、CがAの用意した拳銃で店員を脅して宝石を強取する。分け前は山分けする。」という計画を立てた。計画に従い、Aは、拳銃を用意してこれをCに手渡し、A、B及びCは、宝石店に向けて車で出発することとなった。この事例において、出発直前、Bは、急に怖くなって「おれはやめる」と言い出し、A及びCが仕方なくこれを了承したため、Bは、その場から立ち去ったが、A及びCは、そのまま強盗を実行した。この場合、Bは、強盗の共犯の罪責を負わない。○か×か?

正しい。Bに共犯からの離脱が認められるかどうかが問題となる。離脱が認められれば、Bはその後共犯者A、Cが引き起こした結果について責任を負わない。判例によれば、共犯の加功が共謀のみにとどまる場合(心理的因果性のみの場合)は、実行の着手前に、翻意して離脱の意思を表示し、それを他の共犯者も了承した場合には、共犯関係からの離脱が肯定されている(東京高判昭25.9.14)。本肢では、A、B、Cの3人は強盗を計画したが、出発直前にBは「おれはやめる」と言い出し、AとCはこれを了承しているため、Bは共犯関係から離脱しており、共犯の罪責を負わない。【平19-25-ア】
問題6 Aは、強盗を企て、B及びCとともに、「ABCの3人で宝石店に赴き、AとBとがその店の前で見張りをしている間に、CがAの用意した拳銃で店員を脅して宝石を強取する。分け前は山分けする。」という計画を立てた。計画に従い、Aは、拳銃を用意してこれをCに手渡し、A、B及びCは、宝石店に向けて車で出発することとなった。この事例において、Cは、宝石店で、拳銃で店員を脅して宝石を強取したが、拳銃を向けられた店員は、動転のあまり、あわてて後ずさりしたため仰向けに転倒し、全治1か月の頭部外傷を負った。この場合、A、B及びCには、強盗致傷の共同正犯が成立する。○か×か?

正しい。A、B、Cは強盗の共謀をしていたにもかかわらず、Cが強盗致傷の結果を生じさせている。この場合、AとBの罪責はどうなるか、結果的加重犯の共同正犯の可否が問題となる。判例は、結果的加重犯の共同正犯を肯定しており(最判昭26.3.27)、本肢のA、B、Cには強盗致傷の共同正犯が成立する(刑60条、240条)。【平19-25-オ】
問題7 Aは、知人Bとの間で、飲食店の店員に暴行を加えて現金を強奪することを計画し、Aが凶器を準備し、Bが実行役となって強盗をすることについて合意した。ところが、Bは、一人で実行するのが不安になり、Aに相談しないまま、Cに協力を持ち掛け、BとCとが一緒になって強盗をすることについて合意した。犯行当日、Bは、Cと二人で飲食店に押し入り、店員に暴行を加えて現金20万円を奪い取った。この場合、Aには、Cとの間でも強盗罪の共謀共同正犯が成立する。○か×か?

正しい。共同正犯の成立には、2人以上の行為者の間に共同実行の意思があることが必要であるが、共同実行の意思は数人間に直接的に発生した場合に限らず、共同者中のあるものを介して他の者に連絡されたことによって間接的に生じたものでもよい(大判昭7.10.11)。また、事前に共謀し、また、打合わせがなされたことは必要でない(最判昭23.12.14)。したがって、Bを中心にしてABCには共同実行意思があるといえるので、Aには、Cとの間でも強盗罪の共謀共同正犯が成立する。【平26-24-ア】
問題8 顧客から委託を受けて現金1,000万円を業務上占有していた銀行員Aは、業務とは無関係の知人Bと相談し、当該現金を横領しようと考え、Bに当該現金を手渡して横領し、その後、当該現金を二人で折半して費消した。この場合、Bには、業務上横領罪の共同正犯が成立し、刑法第65条第2項により単純横領罪の刑が科される。○か×か?

正しい。占有者の身分なき者が、業務上占有者たる身分ある者と共に後者の占有する金員を横領したときは刑法65条1項により業務上横領罪の共同正犯が成立し、非身分者には刑法65条2項により単純横領罪の刑を科する(最判昭32.11.19)。したがって、Bには、業務上横領罪の共同正犯が成立し、刑法65条2項により単純横領罪の刑が科される。【平26-24-エ】