司法書士試験<過去問題肢別チェック ■刑法「刑法総論 違法性」>

問題1 現に他人が居住する家屋の前を通り掛かったところ、その窓越しに当該家屋内で炎が上がっているのを発見し、その火を消そうと考え、当該家屋の住人の承諾を得ることなく、家屋内に立ち入った場合には、住居侵入罪は成立しない。○か×か?

正しい。家屋内の火を消すために、当該家屋内に立ち入る行為は、現在の危難を避けるための緊急避難行為(刑37条1項)と解されるので、当該家屋の住人の承諾を得ることがなくても、住居侵入罪は成立しない。【平24-25-ア】

問題2 正当防衛の成立要件の一つとして、急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であったことが必要とされるが、突然に殴りかかられたのに対し、殴られるのを避けて逃げるために、そばにいた侵害者以外の第三者を突き飛ばして怪我をさせた行為は、正当防衛となり得る。○か×か?

誤り。刑法36条1項の文言によると、正当防衛の成立要件の一つとして、急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であったことが必要とされる。したがって、前段は、正しい。しかし、防衛行為は、侵害者に向けられた反撃でなければならない。反撃が第三者に向けられたときは、緊急避難(刑37条1項本文)の成立の問題となり得るが、正当防衛の成立の問題とはなり得ないのである。したがって、後段は、誤っている。【平18-27-ウ】

問題3 吸正当防衛の成立要件の一つとして、「防衛の意思」による行為であったことが必要とされるが、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為であっても、「防衛の意思」を欠くものではなく、正当防衛となり得る。○か×か?

正しい。判例は、正当防衛の成立要件の一つとして、「防衛の意思」に基づく行為であったことを必要としている(大判昭11.12.7)。したがって、前段は、正しい。また、判例によると、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為であっても、「防衛の意思」を欠くものではない、としている(最判昭50.11.28)。したがって、後段も、正しい。【平18-27-エ】

問題4 Aは、Bの同意を得て、Bが所有し、かつBが一人で居住する、住宅密集地にあるB宅に放火し全焼させた。この場合、Aには、放火罪は成立しない。○か×か?

誤り。放火罪は、公共危険罪であるので、被害者の承諾(同意)があっても、違法性は阻却されないが、承諾(同意)に基づいて処罰規定は変わる。唯一の居住者であり、かつ、所有者である者の承諾(同意)を得て現住建造物に放火した場合、自己所有の非現住建造物(刑109条2項)に放火する場合と同視されるべきである。本肢では、B宅は住宅密集地にあり、公共の危険は生じているので、Aには、自己所有の非現住建造物等放火罪(刑109条2項)が成立する。【平18-25-ア】

問題5 Aは、Bとともに保険金詐欺を企て、Bの同意を得て、Bに対し、故意にAの運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた。この場合、Aには、傷害罪は成立しない。○か×か?

誤り。被害者が身体傷害を承諾した場合、傷害罪(刑204条)の違法性が阻却されると解される。しかし、その成否は、承諾の存在だけでなく、その承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度などの諸般の事情を照らし合わせて決すべきで、保険金詐取の目的で身体傷害の承諾を得た場合には、傷害罪の違法性は阻却されない(最決昭55.11.13)。したがって、Aには、傷害罪が成立する。【平18-25-ウ】

問題6 女性であるAは、人通りの少ない夜道を帰宅中、見知らぬ男性Bに絡まれ、腕を強い力でつかまれて暗い脇道に連れ込まれそうになったため、Bの手を振りほどきながら、両手でBの胸部を強く突いたところ、Bは、よろけて転倒し、縁石に頭を打って、全治1週間程度のけがを負った。この場合において、AがBを突いた行為について、正当防衛が成立する。○か×か?

正しい。正当防衛は、「やむを得ずにした行為」であることを要する(刑36条)。「やむを得ずにした行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、権利防衛の手段として必要最小限度のものであること、すなわち防衛手段として相当性を有するものであることを意味するのであって、反撃行為が右の限度を超えず、したがって相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない(最判昭44.12.4)。本肢では、女性であるAが見知らぬ男性Bに絡まれ、腕を強い力でつかまれて暗い脇道に連れ込まれそうになったため、Bの手を振りほどきながら、両手でBの胸部を強く突く行為は、防衛手段として相当性があり、その結果、転倒し、縁石に頭を打って、全治1週間程度のけがを負ったとしても、正当防衛が成立する。【平25-25-ウ】

問題7 Aは、歩行中にすれ違ったBと軽く肩がぶつかったものの、謝ることなく、立ち去ろうとしたところ、激高したBがいきなりサバイバル・ナイフを取り出して切り掛かろうとしてきたため、手近にあった立て看板を振り回して対抗し、立て看板が当たったBに全治1週間程度のけがを負わせた。この場合において、AがBに立て看板を当てた行為について、正当防衛が成立する。○か×か?

正しい。反撃行為が防衛手段として相当性を有するものであれば、生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛でなくなるものではない。本肢では、サバイバル・ナイフでの切り掛かりに対して、立て看板で反撃することは相当性を有するので、AがBに立て看板を当てた行為について、正当防衛が成立する。【平25-25-オ】

問題8 Aは、普段から仲の悪いBと殴り合いのけんかになったが、Bは、「金属バットを取ってくるから、そこで待っていろ。」と言って、いったんその場を立ち去った。Aは、BがAを攻撃するため、金属バットを持って再びその場にやって来ることを予期し、この際、Bを痛めつけてやろうと考え、鉄パイプを準備して待っていた。すると、案の定、Bが金属バットを持って戻ってきて、Aに殴りかかってきたので、Aは、Bを鉄パイプで殴りつけた。この場合、侵害の急迫性が認められないので、AがBを鉄パイプで殴りつけた行為には、正当防衛は成立しない。○か×か?

正しい。正当防衛が成立するためには、侵害の急迫性が必要である(刑36条1項)。侵害が予見できる場合にこの急迫性の要件が満たされるかどうかが問題となるが、判例は、侵害の予期・予見があっても直ちに急迫性を失わせるものではないが(最判昭46.11.16)、それに加えて積極的加害意思がある場合には急迫性が否定されるとしている(最決昭52.7.21)。本問では、AはBが金属バットを持って再び戻ってくることを予期し、その際痛めつけようと鉄パイプを準備して待っていたのだから、Aには積極的加害意思が認められ、急迫性の要件は否定され、正当防衛は成立しない。【平21-25-ウ】

問題9 Aは、知人のBと口げんかになった。Aは、Bが普段からズボンのポケットの中にナイフを隠し持っていることを知っており、きっとBはナイフを取り出して切りつけてくるだろうと考えた。そこで、Aは、自分の身を守るため、先制してBの顔面をこぶしで殴りつけた。この場合、侵害の急迫性が認められないので、AがBの顔面をこぶしで殴りつけた行為には、正当防衛は成立しない。○か×か?

正しい。正当防衛が成立するためには、侵害の急迫性が必要である(刑36条1項)。侵害の急迫性とは、侵害が現に存在するか又は切迫していることをさし(最判昭46.11.16)、必ずしも現に侵害されていることを要しないが、過去や将来の侵害は含まれない。本問では、Bがナイフで切りつけているわけではなく、Aが勝手にBがそのようにするだろうと考えただけであるから、侵害の急迫性があるとはいえない。したがって、Aの行為には正当防衛は成立しない。【平21-25-エ】

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