問題1 Fが知人Gから借りている時計をHが奪い、Iに売却した。この場合、Fは、Iが、その時計はHがFから奪ったものであるという事実を知っていたときは、占有権に基づき、Iに対し、時計の返還を請求することができる。○か×か?

正しい。占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない(民200条)。よって、HがFから奪ったものであるという事実をIが知っていた場合には、Fは、占有権に基づき、Iに対し、時計の返還を請求することができる。【平22-8-ウ改】
問題2 Aは、Aが所有し占有する動産甲をBに売却し、同時に、動産甲について、Bとの間で、Bを貸主、Aを借主とする使用貸借契約を締結した。この場合において、Aが以後Bのために動産甲を占有する旨の意思表示をしたときは、Bは、動産甲の占有権を取得する。○か×か?

正しい。代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する(民183条、占有改定)。【平28-9-ア】
問題3 Aは、Bが所有しAに寄託している動産甲をBから買い受け、その代金を支払った。この場合には、Aの動産甲に対する占有の性質は、所有の意思をもってする占有に変更される。○か×か?

正しい。他主占有者が占有物を買い取った場合、売買契約を締結し代金を支払った時から自主占有者になる(最判昭52.3.3)。【平28-9-ウ】
問題4 Aは、Bに預けていた壺の返還を求めていたが、Bが言を左右にして返還に応じなかったので、Bの自宅に無断で入り、壺を取り戻したところ、Bから占有回収の訴えを提起された。Aは、この訴訟において、抗弁として、壺の所有権が自分にあると主張することはできない。○か×か?

正しい。民法202条2項の解釈をめぐって争いがある。判例は、「民法202条2項は、占有の訴えにおいて本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、したがって、占有の訴えに対し防御方法として本権の主張をすることは許されない」としている(最判昭40.3.4)。したがって、Aは、占有回収の訴えにおいて、抗弁として壺の所有者が自分にあると主張することはできない。【平15-9-エ】
問題5 Aの自宅の隣接地にあった大木が落雷を受け、Aの自宅の庭に倒れ込んだため、Aは、庭に駐車していた車を有料駐車場に停めざるを得なかった。この場合、Aは、当該隣接地の所有者であるBに対し、占有保持の訴えにより大木の撤去を請求することができるが、損害賠償を請求することはできない。○か×か?

正しい。占有保持の訴えの内容は、妨害の停止及び損害賠償請求である(民198条)。まず、妨害停止の請求は、妨害者の故意・過失を必要としないので、Aは、当該隣接地の所有者であるBに対し、大木の撤去を請求することができる。したがって本肢2文目の前段は、正しい。次に損害賠償請求は、不法行為に基づくものであるから、請求するには相手方の故意過失が必要である(民709条、大判昭9.10.19)。とすると、本肢の大木は落雷によって倒れており、Bに故意・過失がなく不法行為は成立しないので、Aは損害賠償を請求することはできない。したがって、本肢の2文目の後段も、正しい。【平15-9-オ】
問題6 法人の代表者が法人の業務として動産甲を所持する場合には、代表者個人のためにも甲を所持するものと認めるべき特別の事情がない限り、代表者個人が甲の占有者であるとして占有回収の訴えを提起することはできない。○か×か?

正しい。法人の代表者として業務上物品を占有している場合、物品の直接占有者は法人であって、特別の事情がない限り、代表者は法人の機関としてこれを所持するにとどまる(最判昭32.2.15)。したがって、代表者は独立の占有者とは認められない占有補助者(占有機関)であって、占有代理人ではないので、自己の名において占有回収の訴えを提起することができない。【平23-9-ア】
問題7 動産甲の占有者AがBの欺罔によってBに任意に甲の占有を移転した場合には、Aは、Bに対し、占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできない。○か×か?

正しい。占有回収の訴え(民200条1項)における「占有者がその占有を奪われたとき」とは、占有者がその意思によらずして物の所持を失った場合を指し、占有者が他人に任意に物を移転したときは、移転の意思が他人の欺罔によって生じた場合であってもこれに当たらない(大判大11.11.27)。【平23-9-イ】
問題8 動産甲の占有者Aは、Bの詐欺によって、Bに動産甲を現実に引き渡した。この場合において、Aは、Bに対し、占有回収の訴えにより動産甲の返還を求めることはできない。○か×か?

正しい。占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる(民200条1項)。占有侵奪とは、占有者がその意思に反して所持を失ったことをいい、詐欺は「奪われたとき」に当たらないので、占有回収の訴えによることはできない(大判大11.11.27)。【平29-9-ア】
問題9 Aがその所有する動産甲をBに賃貸したが、Bは貸借期間が終了しても動産甲をAに返還しなかったことから、Aは実力でBから動産甲を奪った。この場合において、Bは、Aに対し、占有回収の訴えにより動産甲の返還を求めることができる。○か×か?

正しい。侵奪者が本権に基づいて返還を請求できる者であっても、その者が占有を奪ったときは、被侵奪者は、占有回収の訴えを起こすことができる(大判大4.9.20)。占有訴権は、物の事実的支配それ自体を保護するための制度であるからである。したがって、Bは、Aに対し、占有回収の訴えにより動産甲の返還を求めることができる。【平29-9-ウ】
問題10 AがBから預かっていたビデオカメラをBに無断でCに譲渡した。この場合、Cは無権利者からの譲受人であるから、原則として所有権を取得することができないが、即時取得が成立するときは所有権を取得することができる。即時取得が成立するためには、Cは前主が処分権限を有しないことについて善意無過失である必要がある。善意については推定されるが、無過失については、判例上、推定されない。○か×か?

誤り。即時取得(民192条)が成立するための要件の1つとして、平穏・公然・善意・無過失に占有を取得したことが必要である。善意・平穏・公然については条文上推定される(民186条1項)が、無過失について、判例は、民法188条により譲受人が前主の占有を信頼することについては無過失と推定されるとしている(最判昭41.6.9)。【平20-11-ア】
問題11 即時取得は、無権利者から動産を買い受けた譲受人を保護するための制度であるから、即時取得によって取得することができる権利の対象は所有権のみである。無権利者が動産を質入れした場合には、その相手方が質権を取得することはなく、当然ながら所有権を取得することもない。○か×か?

誤り。即時取得の効果として、「即時にその動産について行使する権利を取得する」と規定されているが、即時取得によって取得し得る権利は、実際上、所有権と質権に限られる。【平20-11-エ】
問題12 AからA所有のデジタルカメラ甲の寄託を受けていたEは、甲をBに売却したが、その際、Bは、Eが甲に関し無権利者であることについて善意無過失であった。この場合において、Bは、その後にEから甲の現実の引渡しを受けた際、Eが甲に関し無権利者であることについて悪意となっていたときは、甲を即時取得しない。○か×か?

正しい。即時取得は、動産を売買しただけでは発生せず、民法182条1項の現実の引渡しなどで占有が移転した際に初めて生じ、また占有移転の時点が善意無過失の判断基準時とされている(最判昭35.2.11参照)。したがって、Bは、甲の現実の引渡しを受けた時に悪意であるから、甲を即時取得することはできない。【平25-8-3】
問題13 Aが動産甲をBに貸していたところ、Bの家から動産甲を盗んだCが、自己の所有物であると偽って、Cが無権利者であることについて善意無過失のDに動産甲を売り渡した場合には、Bは、盗難の時から2年以内であれば、Dに対して動産甲の返還を請求することができる。○か×か?

正しい。即時取得された目的物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる(民193条)。回復請求権を行使できるのは、被害者又は遺失者であれば足り、所有権者に限らない。賃借人や受寄者も回復請求できる(最判昭59.4.20)。【平28-8-ア】
問題14 Aの家から動産甲を盗んだBが、自己の所有物であると偽って、公の市場において、Bが無権利者であることについて善意無過失のCに動産甲を売り渡した場合には、AがCに対して盗難の時から2年以内に動産甲の返還を請求し、Cが動産甲をAに返還した後であっても、Cは、Aに対して、CがBに支払った代価の弁償を請求することができる。○か×か?

正しい。盗品の被害者が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が民法194条に基づき、支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有する。また、被害者が代価を弁償して盗品を回復することを選択してその物の引渡しを受けたときは、占有者は、その物の返還後においても、民法194条に基づき代価の弁償を請求することができる(最判平12.6.27)。【平28-8-オ】