実務家司法書士として活躍中の西川浩之先生と、クレアール司法書士講座講師で司法書士試験非常識合格法の考案者でもある戸谷満講師。この2人のプロフェッショナルに、「司法書士への道」というテーマで対談していただきました。
- 西川 浩之先生
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「ケアレスミスほど、重大なミスだと認識しなければいけない」(西川 浩之先生 )
[Profile]
平成17年~ 静岡県司法書士会 副会長
平成17年~ 静岡県司法書士政治連盟 副会長
平成19年~ (社)成年後見センター・リーガルサポート 理事
平成19年~ (社)成年後見センター・リーガルサポート静岡支部 幹事
平成19年~ 日本成年後見法学会 理事
平成19年~ 静岡県公共委託登記司法書士協会 副理事長
- 戸谷 満講師
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学習範囲を大幅に絞って、 反復学習することが合格への近道(戸谷 満講師)
[Profile]
昭和60年、司法書士試験に合格。現在、クレアール司法書士アカデミーにて司法書士受験指導にあたる。受験指導歴は26年におよび、多数の合格者を輩出。「司法書士版 非常識合格法」を考案。
司法書士の魅力・やりがいとは
——本日は「司法書士への道」というテーマで、静岡県司法書士会副会長である西川浩之先生とクレアール司法書士アカデミー受験対策室長の戸谷満先生に、対談形式でお話を伺います。まず西川先生、ずばり「司法書士の魅力・やりがい」についてお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか。
西川 これは、個人的な話になってしまうのかも知れませんが、独立して開業している司法書士として考えた場合、自分の判断で仕事ができるという責任感を感じられる部分ではないでしょうか。司法書士は、法律という道具を使って事件というかトラブルなり案件を解決していく仕事であり、「事務所の方針をどう定めていくのか」という根本的な所から始まり、自分で情報を集めて分析し、すべて自分の判断で方針を決めて業務を行う。ここが最大の魅力であると思っています。
——なるほど。先生ご自身の考え方が反映出来る、という職種でもあると言うことですね。先生の事務所では様々な案件を扱っていらっしゃると思いますが、先生の方針としてどう案件と向き合っているのかなど、具体的に教えていただけますか。
西川 「法律を道具として」と先ほど話しましたが、法律を使って何かを解決する、または紛争を未然に予防するわけですが、それだけで良いのか、これは事務所によっても違いはあると思いますが、当事務所では例えば多重債務者であれば、判決を取るとか和解を成立させるということの他に、依頼者の生活を安定させるというか改善していく。成年後見の場合でも、その方のこれからの生活や療養看護や財産管理をどうしていくのか、という筋道をつけるということなど、ある意味創造的な部分が「仕事」であり、簡裁代理にしても成年後見にしても近年増えてきている案件ですが、自分なりに事実を分析して法律的な判断をしていくことが、必要なことではないかと思っています。
——西川先生には、司法書士に求められているものなどについてのご意見をお聞かせ頂きたいのですが。
西川 司法書士は現在、全国に19,000人位います。昔は業務の範囲も限られていましたが、今は登記をやらない司法書士もいますし、ある分野に特化した事務所も出てきていますので、こうあるべきだと一括りでまとめて言うことはなかなか難しいのですが、最大公約数的に言うと、先ほども話しましたが社会なり市民なりに必要とされる存在でなければいけないということです。登記業務であっても感謝される仕事であることには違いはありませんし、まして紛争を解決するために簡裁代理権を使う場合も同じことで、やはり社会にとって必要とされるということが第一で、社会的責務をまずはしっかりと果たしていくこと。社会が司法書士に求めていることをきちんと行うこと、これを継続していくことが大切だと思います。
学習する上で気をつけるべき事
——今度は、学習への取り組み方、方法論について伺いたいと思います。学習方法という点で、何か気を付けなくてはいけない事などありますか。
戸谷 気を付ける点でいうと、司法書士の勉強を始めると何でも完璧に理解しなくてはいけない、1回講義を聞いてすべてを覚えなくてはいけないと考えてしまう方が意外に多い。
西川 戸谷先生がおっしゃったように、完璧を目指したい、完全に分からないと次に進めないという感覚になってしまう人がいましたね。例えば、民法の難しい問題は学者の先生が一生をかけて議論している話で、そこを分からないと先に進めないなんていったら、やっぱり一生かかってしまう。何か分からないものがあったら、繰り返し勉強しているある時点でスッとつながって、クリアになるときが来るはずだから、あまり完璧を求めない方がいいと思います。
戸谷 1回で全部覚えることは困難というか、ほとんど不可能に近い内容なんです。ですから講義を聞いて、何度も繰り返し学習して理解していこうという姿勢ですね。繰り返しやっていくうちに知識はだんだんと定着していくはずです。
西川 とにかく回数をこなす。その内にきちんと理解出来てくる位の気持ちでやるという考え方です。また、完璧を目指さず8割目標で、試験問題を細かく見ていきますと、非常に難しい問題はあるのですが、そんな問題が3割も4割も出ることはない。そういう意味では司法書士試験において合格に必要な知識は限定されてきますから、その範囲をなるべくミスしないように確実に得点することが必要です。
——次にこんな点を意識していると良い、という様な注意点はありますか。
西川 先ほど、合格に必要な知識はある程度限定されてくるという話をしましたが、結局試験というのは、きちんと勉強した人のうちケアレスミスをしなかった人が受かる。合格点に達するだけの実力を持っている人のうち、結局ケアレスミスをした人が落ち、それをしなかった人が受かる。ケアレスミスをしないような工夫を最終的にはしてください。
戸谷 私は講座パンフレットにも、「難問以外はすべてミスなく正解できた」を目指しましょうと表現していますが、西川先生のおっしゃっている通りです。また、100あるいは200のあやふやな知識よりも、50や60の正確な知識、つまり自分自身で精度の高い知識を持っていた方が、この試験では圧倒的に有利です。細かいミスをなくすようにする、言い方を換えると基本的な事項をしっかりと解けるようになる、それを落とさずに取っていくというのが、司法書士試験に合格する最大の方法だろうと思っております。反復学習することによって、知識の精度を上げていく勉強をしていくことが大切です。
西川 記述式試験についても話がありますがよろしいですか。
——お願いします。
西川 受験勉強が実務家となってから役に立つという観点から、受験生へ良く話していた事なんですが、記述式試験でケアレスミスを防ぐにはどうしたら良いのか。分からなくて間違えたというのは、あまり心配することはない。それは覚えればいいわけですから。一方、分かっているが間違えるということが結構あります。それは世間ではケアレスミスというわけですが、ケアレスミスほど重大なミスだと認識しなければいけない。つまり、分からなくて間違えたのは、覚えれば次からできるようになりますが、分かっていて間違えたのは、また同じことが問われたときに同じ間違いをする可能性がある。例えば単純な文字の書き間違えであったならば、答案を一文字一文字指で追って書いた文字を確認するだとか、とにかく同じ間違いを二度としないようにする工夫が必要です。実は、そのケアレスミスをしない、書き間違いとか単純な勘違いを防ぐ工夫は、実務で登記業務をやるときに一番役立っているのです。試験では、一文字間違えても点数が減点されるだけで済みますが、人名を間違えて登記してしまって、登記官が気づかずに登記してしまったら、後で更正登記するということになると別途費用がかかってしまいます。商業登記ですと、登録免許税も更正登記は2万円かかって大変なわけです。ケアレスミスをしない工夫をすることは、試験に合格するために必要なだけではなく、実務家となってからもとても役立つ、受験勉強の工夫がこんなに役立つ資格は他にないと思います。
短期合格のための勉強法
——短期合格に必要な勉強への取り組み方とは、どんなものなのでしょうか。
西川 私は試験合格後に、講師をしながら多くの受験生を見てきましたが、私自身の経験と併せて、短期合格者を見てきた印象から話をするならば、少し抽象的なのですが、まずは合格するという可能性を信じてやる事。その時、単に勉強時間は多く取れれば良いというのではなく、集中して密度の濃い勉強をすることが大切であり、そのためにはどう学習すれば良いのかといった自分なりの方法論の確立、工夫をしながら学習に取り組むことができるということが必要ではないでしょうか。
戸谷 方法論をどうするかというのは、この試験にとっては非常に大きな意味があります。まず予備校を選択している段階で、皆さんはある方法論を選んでいるはずなのです。予備校はそれなりの方法論をもってカリキュラム・教材を作り、講師が講義をしていくという形になります。そういう意味では、選んだ予備校を信頼してしっかりと学習すること、あっちもこっちもと色々手を出してしまうと、結局は虻蜂取らずになってしまうのです。
西川 受験生時代は、この勉強方法なら受かるという確たる方法が分かっていたわけではありませんでしたので、色々と試行錯誤をしながら勉強していました。とにかく工夫をしてみる。試験当日に知識が定着している状態にするにはどうすれば良いのか、結局は試験当日に合格に必要な知識が8割くらいあればいいわけです。そのために今何をしたらいいのか。これは逆算していくしかないわけですが、毎年7月に試験はある。そのために、今何をやっていけばいいのかを常に考える。例えば、1回では知識が定着しないかもしれないけれども、何回か繰り返せば定着する。科目によって繰り返す回数は違うのかもしれませんが、少ない科目で2回か3回、多い科目だともっと沢山になると思います。これはもちろん、出題数に比例する事かも知れません。その回数を何度か繰り返して、最後の1ヶ月間で全科目必要な範囲を全般的に繰り返せる状態を作っておけば、試験当日に大体8割ぐらいの知識が定着できている。こういった復習の方法論を確立できることが大切です。そのためには、日々の学習の積み重ねが重要なことは言うまでもありません。ですから、予備校を選択してその方針に乗っかるというやり方は、非常に効率の良いやり方ですから一番お勧めするのですが、その中で、自分なりの工夫をする。自分で選んで受験勉強をしているわけですから、この自分なりの工夫を怠らないようにすること。この点はぜひ認識を持っていてもらいたいと思います。
これから受験を始める方へのメッセージ
——次にこれから司法書士試験の勉強を始めようと思っている方へメッセージをお願いします。
西川 では2つに分けて。1つは、「なぜ司法書士を目指すのか」と言うことを明確にすること。勉強を進めていくと、何のために司法書士を目指したのかと言うことが不明確になってしまうというか、忘れてしまう。そのため、とにかく細かい知識を追求することに一生懸命になってしまうのですが、試験は受かれば良いわけです。満点を取る必要はなく、合格点を取れば司法書士になれる。合格点を取るためには何をしたらいいのかという発想を持ち、受験勉強自体を目的としない。そして、何のために目指すのかという点。他の事はちょっと我慢して受験生活を始めるのですからモチベーションの維持も含めて、なぜ自分は司法書士になりたいのかを考える。できれば、司法書士になりたい気持ちを明確に書き、自分の中ではっきりとさせておく。そうすれば、少し苦しい時期でも自分自身に「本当に司法書士になりたいのか」を自問自答して、なりたいと結論がでれば、継続して勉強するしかないわけです。
次に、合格するためには正しい方法論で勉強し、合格を勝ち取ることを意識することです。きちんとした方法論で勉強しても、やはりそれなりの時間を割かないと知識は定着しません。細切れの時間であっても1日に4時間とか5時間コンスタントに学習時間が確保できないと短期での合格は難しい。働きながらの方ですと、特に時間の確保が難しいと思いますが、あれこれ考えていても何の得にもなりません。与えられた条件の中でできるだけ効率のいい勉強をして、合格を勝ち取ることに集中し、工夫をしながら学習していくことですね。
戸谷 司法書士の仕事はやりがいのある仕事であり、また貴重な青春、あるいは働きながら忙しい中での時間を費やしても合格する価値があるものだと思っています。皆さんには、ぜひ司法書士の仕事内容を実際に確認、熟知、あるいはいろいろとお話しを聞いたりして納得いただきたい。そして、最後に合格するか否かを本当に決めるのは意欲と言いますか、諦めない気持ちです。その諦めない気持ち、絶対司法書士になりたいという熱い思いが結局は合否を決めることになりますので、そういう熱い思いを持って司法書士試験を受験してほしいと思います。
——本日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。これで対談を終わりにしたいと思います。