記事キャッチ画像

認知心理学に基づいた
効果的な学習法

\ SHARE /

認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック」という本が2022年9月に発売された。本書には、認知心理学者の研究・実験を用いて導き出した〈実際に効果がある学習法〉が詰まっている。
今回は、本書を翻訳された 岡山大学の岡崎善弘准教授に『エビデンス(根拠・裏付け)のある学習法』についてお話を伺った。

● 解説をいただく先生

岡崎 善弘

岡崎 善弘准教授

岡山大学・学術研究院教育学域准教授。
2012年、広島大学大学院教育学研究科博士課程修了、博士(心理学)。
日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2022年より現職。教育心理学、認知心理学、発達心理学、エビデンスに基づいた教育等の研究を行う。2022年度岡山大学ティーチング・アワード受賞。

はじめに

—この本を翻訳しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

「子どもたちに〈教科書の内容〉を教えることはできるけど、〈勉強方法〉は教える自信がない。」という話を学生さんたちから聞いたことがきっかけです。受験勉強で利用していた方法を子ども達に紹介しても効果がなく、自信をなくしているケースもありました。

どのようなアドバイスが良いのか調べていたところ、海外の先生たちは〈エビデンスに基づいた学習法〉を勧めていることを知ったのです。その内容を調べていく過程で、この本「認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック」の原書にたどり着きました。

研究論文よりも本の方が読みやすい

学習方法に関する認知心理学や教育心理学の研究は国内外で毎年報告され続けているのですが、研究知見が教育現場に浸透する速度はとても遅いです。研究知見が教育現場に浸透しない理由は色々あるのですが、最も大きな理由は「研究論文は(慣れるまで)理解が難しい」ことです。

最新の知識を入手しようと思っても専門用語や分析結果が難解なので、すぐに理解することは容易ではありません。学校の先生たちはとても忙しいので、研究論文を探す時間やゆっくり読む時間もありません。

しかし、研究の要点をわかりやすく整理した本であれば、学校の先生たちに届く可能性があります。教育熱心な先生たちは時間があれば本を読んでいることを知っていたので、読みやすく書かれている本書を翻訳すれば、学校の先生方に最新の知見を届けることができるのではないかと考えました。

学校の先生方を支援したいという思いは以前から持ち続けていたので、翻訳に挑戦してみることにしました。「認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック」のPART4に教師・学生・保護者に向けたアドバイスが書かれているので、時間がない方はPART4から読み始めても良いかもしれません。

学習ノウハウ本に書いてあることは本当に正しい?

世の中に出ている学習方法の本は著者の経験に基づいて書かれていることが多いです。

例えば、難関大学や資格試験に合格した人たちの学習方法はよく紹介されていますよね。とても魅力的です。しかし、彼らと同じ方法で学習しても同じような結果が得られるとは限りません。

また、「超〇〇術」や「スーパー〇〇法」など、効果を誇張し過ぎている学習方法は疑って良いと思います。中学生の頃、高価な教材(記憶法)を親に買ってもらったのに成績があがらなくて悲しんでいた友達を今でも思い出します。

成績をなんとかして上げて親に喜んでもらおうとしていたので、思っていた結果が得られず、がっかりしていました。変な学習方法に騙されないように、努力が報われる方法を広く知ってもらいたいと願ったことも本書を和訳しようと思うに至った動機の1つです。

—合う学習方法や合わない学習方法があると感じています。一般化された学習方法より、私に合った学習法を見つけた方が効率は良いのではないでしょうか?

「自分に合った学習法を見つける」という考え方は正しいと思います。学習方法をカスタマイズして、自分に最適な方法を見つけることはとても良いと思います。しかし、「カスタマイズしようとしている学習方法に効果はあるのか」という視点はとても大切です。

先ほど紹介した「効果がない(極めて小さい)学習方法」をどれほど工夫・調整しても効果が向上する可能性は高くありません。一方で、効果がある学習方法を自分の特性に合わせてカスタマイズするのであれば、効果が向上する可能性はあると思います。

例えば、記憶の定着に効果がある「分散学習」という方法があります。分散学習とは、学習や練習する時間を複数回に分散させて繰り返すことです。分散学習の方法に基づいて、学習間隔を空ける時間(復習するタイミング)をどれくらいまで延ばすかは個人に合ったスケジュールで良いと思います。

一方、同じ動画や教科書を繰り返し見続ける学習を続けても記憶の定着度はほとんど上がらないことがわかっています。ただ見返すという学習をカスタマイズしても、効果が大きく向上することはありません。効果的な方法を取り入れた上でカスタマイズすることが大切です。

「合う・合わない」という感覚的な判断だけで学習方法を選択すると間違うことがあるので、科学的な視点も含めた上で「合う・合わない」を判断すると良いと思います。

効果的な学習方法は以下の6つです。詳細は「認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック」のPART3に記載されています。

効果的な学習方法は6種類

効果的な学習方法
表1
効果的な学習方法

学習方法のエビデンスを重視する動向

—研究で得られた知見が本当に効果的なのか精査する動向は広まっているのですか。

国内はまだこれからですが、イギリスやアメリカでは研究論文を評価する機関が設立されており、学習方法や教育方法の効果検証が進んでいます。紹介している内容はとてもわかりやすいです。

例えば、イギリスのThe Education Endowment Foundation(EEF)はメタ分析の研究結果を視覚的にわかりやすい形式に変換して紹介しています(※「Teaching and Learning Toolkit」で検索してみてください)。

「教育の効果:メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化(図書文化社)」という本も参考になると思います。研究が増えるにつれて効果の程度も更新され続けるので、効果の値は変動する可能性があります。

—これまで学習効果があると思われていたのに、実は効果がなかった実例はありますか。

スケアード・ストレートというアメリカの矯正プログラムです。犯罪に関わった少年少女を刑務所に連れて行き、収監されている囚人たちが犯罪者の厳しい現実について教えるという内容です。犯罪を重ねることで将来を自覚させて、再犯率を抑えようとすることが主な目的です。

このプログラムは効果があると信じられていたのですが、効果を検証したところ、再犯率が下がるどころか高くなっていました。「すごく怖い思いをしたのだから悪いことはもうやめようと子どもたちは考えるはずだ」と私たちは推測しますよね。

しかし、結果は逆でした。人間の学習に対する直感が外れることを示した良い1例だと思います。関心がある方は「教育の経済学(出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン)」を読んでみてください。

「ラーニングスタイル」も効果がない方法として広く知られています。体を動かした方が記憶しやすい子ども(感覚的学習スタイル)やイラストを使う方が覚えやすい子ども(視覚的学習スタイル)など、子どもの学習効果を最大限に引き出すと思われる学習スタイルを特定する方法です。

多くの科学者たちが「効果はない(あったとしても極めて小さい)」と判断・主張しているにも関わらず、なぜか教育現場では効果があると信じられています。日本ではあまり見かけないのですが、海外では採用している教育現場がとても多いようです。

効果はあるけれど、効率的ではない方法もあります。

例えば、「発見学習」です。問題解決につながる方法や知識を授業で教えるのではなく、自分で仮説検証させながら法則性や概念を自ら発見してもらうという学習方法です。科学者と同じように法則性を「発見」することができれば、知的好奇心は高まり、記憶に残りやすくなるかもしれません。

つまり、子どもを小さな科学者とみなしているのですが、そもそも子どもは科学者のように知識を豊富に持っていないので、科学者の試行錯誤と同等の試行錯誤は不可能です。あまりにも時間がかかり過ぎて効率的ではないため、すべての授業の中で取り入れることは現実的ではありません。発見学習は多くの教師が知っている方法なのですが、上記の理由から積極的に利用されていません。

—学習のゴールに適している学習法を知っておくことも重要なポイントのように感じました。例えば、暗記系なのか計算系なのかという学習の種類によっても、最適な学習法が変わってくる気がしました。

とても大切なことですね。記憶したいのか、理解を深めたいのか、目的によって選択するべき学習方法は異なります。例えば、専門用語を覚えているかどうかを確認されるテストの場合(記憶したい場合)は「検索練習」を使うと良いと思います。

また、理解を深めたい場合は「精緻化」や「具体化」を利用すると良いと思います(「認知心理学者が教える最適の学習法 ビジュアルガイドブック」のPART3参照)。

「精緻化」とは、理由を考え続ける方法です。例えば、「鎌倉幕府が成立した年は1192年」として覚えるだけでなく、なぜ鎌倉幕府ができたのか、鎌倉幕府を作るメリットは何だったのか、天皇は鎌倉幕府をどのように思っていたのか等、疑問を作って情報を付け足す学習です。

「精緻化」によって個々の情報がつながるので、記憶に残りやすくなります。また、「具体化」は言葉の通り、具体例や具体物を使って学習する方法です。例えば、数字は子どもにとって抽象的な概念です。

しかし、目の前にブロックを置くと、数字の概念とブロックがつながるため、子どもたちは理解しやすくなります。

論述式のテスト対策をするのであれば、例えば、スノーボーリング(雪だるま法)という学習方法が良いかもしれません。

スノーボーリング(雪だるま法)は、それぞれが書いた論述を複数人で見せ合ってお互いに評価し合う方法です(事前に評価基準を作っておく必要があります)。2人組で話し合った後、別の2人組と一緒になって4人組になって、お互いの記述の正確さや論理性を検証していきます。どのようなテストなのか把握した上でテストに合わせた学習方法を選択することも大切だと思います。

さらに効果的な学習にするために

特に知ってもらいたいことは、「これまで学習した情報」と「今、勉強している情報」がつながるように学習することです。新しい知識を単独の知識として存在させると、なかなか思い出せません。このような状態では、知識を使いたい時に思い出して活用することが難しいのです。

勉強する時は、下図のように、「すでに学習して持っている知識」と「新しく学んだ知識」がどのように関わりを持っているのかを意識しながら学習する方が良いです。個々の情報を関連させると、記憶に残りやすくなるだけでなく、理解が深くなります。

「学んだこと」と「学んでいること」をつなげる
図1
「学んだこと」と「学んでいること」をつなげる

何から始めたら良いか分からない場合は、勉強に使っているテキストの「目次」を見てみましょう。

目次に書かれている各内容は頭の中でつながっているでしょうか?学習を終えた章や各トピックのつながりを見つけることができないのであれば、深い学習(下記参照)に届いていないのかもしれません。授業後の復習も良いタイミングです。

例えば、先週、新しい判例を学習したとしましょう。復習として、教わったことを思い出せるようにするだけでなく、新しく学んだ判例は「これまでに学んだ判例と関連することは何だろうか」等、相違点を考える習慣を持つことも良いと思います。

—指導側が気をつけるポイントはありますか。

大切なことを各回に分けて授業を構成していると思うのですが、1回目の内容が2回目とどのように繋がっているのかを説明していないケースをよく見かけます。それぞれを個別に紹介すると、聞き手は前回と今回の内容がどのように繋がっているのか分からないため、理解を深めることができません。

学習者が各情報を関連づけやすいように関連性を説明すると、学習者たちの理解度や記憶の定着率は高まるでしょう。しかし、学習者個人の中にある知識は人それぞれなので、何と何を関連づけるのか、知識の構成は学習者自身に委ねるしかありません。

そのため、学校の先生は、具体例等を1つだけでなく、できるだけ多く例示してあげると良いと思います。

学習者に課す課題の難易度も要注意です。例えば、学んだ知識を使ってレポートを書かせる課題は初学者にとってハードルが高すぎます。基礎知識を覚えることができる課題から始めて、少しずつ、知識を応用させる課題にシフトさせる方が良いです。

多くの教師たちは「学習した知識を他の場面でも利用できるようになってほしい」と願っています。しかし、授業を終えた後に知識の応用を求めることは難易度が高過ぎるのです。

「美味しいうどんを食べたあと、さきほど食べたうどんを参考にして美味しいうどんを作ってください」と言われても困りますよね。どのような道具を使うと良いのか、どのような工程が良いのか、説明や理由を織り交ぜながら、少しずつ上達できるような道筋を作ることも指導側の大切な仕事になると思います。(下図参照)

「課題の階段」浅い学習から深い学習へ
図2
「課題の階段」浅い学習から深い学習へ

最後に

—お話を伺う前は「まず初めに学習方法を学習する」ことは遠回りのような気もしましたが、記憶というメカニズムに対して正しくアプローチすることによって、最短ルートになりますね。本日はありがとうございました。

TOPへ戻る

Palette資格取得を目指す方へお届けする情報マガジンクレアールのオリジナル記事サイト「Palette」では、 資格勉強に役立つ記事を続々配信中!

資格取得を目指す方へお届けする情報マガジン