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「メタ認知」で資格取得の学びをさらに効果的に

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「資格取得を目指してがんばっているのに、どうも成果が上がらない…」。そんな方々に、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。それは、メタ認知を活用すれば、さらに効果的な学びを実現することができるということです。この記事では、その理由を解説し、メタ認知の活用法をお伝えしたいと思います。

● 解説をいただく先生

三宮 真智子

三宮 真智子名誉教授

大阪大学名誉教授、鳴門教育大学名誉教授。専門は、認知心理学、教育心理学。
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。1985年学術博士(大阪大学)。鳴門教育大学助手・講師・助教授・教授、大阪大学大学院人間科学研究科教授を経て現在に至る。

メタ認知とは何か

最近チラホラと目にする「メタ認知」という言葉。認知心理学などで用いられるメタ認知とは、いったいどういう意味なのでしょうか。そもそも、「認知」とは、頭を働かせることです。何かを見たり聞いたり話したり、読んだり書いたり、覚えたり思い出したり、意味を理解したり、考えたりすることです。

これらは、日常生活にはもちろんのこと、学びにおいても絶対に欠かせない活動です。ところが、この認知活動は、常に適切に行われるとは限りません。記憶違いや思い違いはよくあることですし、時には判断ミスも起こります。また、自分ではよいと信じて実行している学習法も、実はあまり効果のないものであったりするわけです。

こうした不適切な認知活動を、もう1段高い所から客観的にとらえ、見直したり改善を図ったりするものがメタ認知です。
図1をご覧ください。このように、「メタ認知は認知の見張り番」と考えることができます。自分の頭の中にいる、もう一人の「賢い自分」がアドバイスをくれる…そんなイメージを思い描くと、わかりやすいでしょう。

認知とメタ認知の関係

(出典)『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(三宮真智子著)中公新書ラクレ、2022年

図1
認知とメタ認知の関係

メタ認知を働かせることをメタ認知的活動と呼びます。

たとえば、「どうも理解があやふやだ」という気づきや「この問題は、とても解けそうにない」という予想、「この答でいいのか」という点検、「完璧に答えられた」という評価などは、メタ認知的モニタリングつまり自分の認知を監視することです。

これに対して、「まずは基本用語をしっかり覚えよう」と目標・計画を立てたり、「理解が不十分なので、もう一度おさらいしておこう」と修正に向かうのは、メタ認知的コントロールです。メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールは、図2のように循環的に働きます。

メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロール
図2
メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロール

では、実際にメタ認知を学習に活かすためには、どうすればよいのでしょう?次節では、これについて述べたいと思います。

メタ認知で効果的な学びを実現する

メタ認知的活動を適切に行うためには、その土台となるメタ認知的知識が必要です。メタ認知的知識とは、表1に示すような、人間の認知特性や認知課題に関連した知識です。

メタ認知的知識の分類と具体例

(出典)『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(三宮真智子著)中公新書ラクレ、2022年

表1
メタ認知的知識の分類と具体例

私たちは自分の経験を通して、こうした知識をある程度は獲得しているはずです。このメタ認知的知識を豊富に持っていれば、学習を有利に進めることができます。

たとえば、課題解決の方略について、さまざまな知識を持っていれば方略選択の幅が広がり、自分に合った方略を活用できます。とりわけ、試験勉強を効果的なものにするためには、学習方略についてのメタ認知的知識がものを言います。つまり、「○○を学ぶには、こうすればよい」といった単なるノウハウではなく、「なぜそうすればよいのか」といったメタレベルの知識も必要なのです。
学習のメカニズムや方略の根拠が理解できていれば、方略を自分流にアレンジして用いることが可能になるためです。

認知心理学は、さまざまな学習方略の基礎となる知見を提供していますが、ここで1つ例を挙げておきましょう。 たとえば何かを覚える際に、個々の情報を関連づけて自分なりに意味を理解しようとすることを「精緻化」と呼びますが、これは、機械的な反復による丸暗記に比べて、はるかに効果的な学習法であることがわかっています。

J.ブランスフォードらの研究グループは、小学校5年生の成績のよい子どもは自ら精緻化を行って学んでいるのに対し、成績のよくない子どもたちはそうではないことを見出しました。

そこで、彼らの研究グループは、成績のよくない子どもたちを対象に、精緻化のトレーニングを行ったのです。彼らは、子どもたちに自分で意味づけをするという精緻化の有効性を教えるとともに、精緻化の方法を練習させました。たとえば、「親切な人がミルクを買った」という文を覚える際に、「なぜ?」「何のために?」という理由がわかれば、何も考えずに丸暗記するよりも覚えやすく忘れにくいわけです。

そこで、「お腹をすかせた迷子の子ネコに与えるために」といった類の理由づけ(意味づけ)を行うことが、有効な手立てとなります。こうした意味づけの効果を実際に体験させ、練習によって子どもたち自身が意味づけを行えるようにすること、つまり精緻化のトレーニングをしてみると、文を覚える際の子どもたちの記憶成績は、ぐんと伸びたのです。

このことから、精緻化が効果的な記憶方略であるというメタ認知的知識の重要性がよくわかります。

精緻化には、他にもいろいろな方法があります。

たとえば、おなじみの語呂合わせです。「鳴くよウグイス平安京」(平安遷都の年)や、化学で習うイオン化列(イオン化傾向の大きさの順に元素を並べた際の序列)の覚え方「貸そうかな、まああてにすんな、ひどすぎる借金」がこれに当たります。後者の例は特に、「友人が借金を申し込んできた。貸そうかどうしようか。まあ、あてにしないでほしい。なにしろひどすぎる金額の借金だから」といった形で見事にストーリー化されています。

このようなストーリー記憶術も、精緻化をベースにしています。さらには、覚えるべきことをイラストや図表で表してみる、自分の経験に結び付けて考えるといった方法も精緻化の例と言えるでしょう。

メタ認知で効果的な学びを実現する

膨大な情報を頭に入れようとするならば、がむしゃらな丸暗記では限界があります。

意味も考えずに丸暗記でさまざまなことを吸収できるのは、生まれてからせいぜい数年の間に限られます。その後の学習では、意味を理解したり、自分の経験に結び付けたり、情報どうしの関連性を考えたりといった精緻化の工夫が必要になります。

大人の学習者の場合、子ども時代よりもはるかに豊富な経験を活かした精緻化が可能になりますから、精緻化の効果はさらに高まります。

ここまでは、学習の認知的側面を中心に述べてきました。しかしながら、学習を支える要因として無視できないものが、気持ちや意欲といった非認知的側面です。

次節では、これについて見ていきましょう。

メタ認知で気持ちを整え意欲を高める

私たちは誰しも、気持ちがざわついて学習に集中できないことがあります。合格率の低い試験の勉強中には、「準備が間に合いそうにない」「やはり自分には無理ではないか」「失敗したらどうしよう」といった焦りや不安が付きまとうこともあります。

それが高じると、落ち着いて学習できなくなり、ますます焦りや不安が高まるという悪循環に陥ります。

この悪循環を断ち切るためには、メタ認知が必要です。

まず、自分の心を見つめて、焦りや不安の原因を探り当てましょう。このままでは準備が間に合いそうにない(と考えている)ことが原因だとわかれば、「間に合わせるにはどうすればよいか」という方向に、思考の舵を切り替えます。

すると、「必要な学習時間の確保のためには、生活の中のどの時間を削ればよいか」「短時間でも密度の濃い学習にするにはどんな方略が使えるか」といった方向に思考が向かいます。

つまり、より生産的な思考へと切り替えるわけです。

また、「たとえ今回は準備が間に合わなくても(失敗しても)、自分の人生が終わるわけではない」「次のチャンスに向けてがんばろう」と、自分を落ち着かせ励ますことも役に立つでしょう。

ただし、焦りや不安などのネガティブな感情も適度であれば、ほどよい緊張感を生み、学習の推進力となります。
要は、焦りや不安が過度にならないように、メタ認知を働かせてうまく調整することが大切です。

学習の進捗状況から来る焦りや不安以外にも、職場や学校で嫌なことがあり気持ちが沈む、あるいは腹立ちが収まらないといった場合もあります。
そんな時にもメタ認知を働かせて、「あのことが気になって学習に身が入らないのだ」と、まず状況を分析します。

そして、「ただでさえ、気分を害するという一次被害を受けているのに、この上さらに、学習に身が入らないという二次被害を受けるのは馬鹿らしくないか?」と考えてみてはいかがでしょう。怒りの感情は、封じ込めようとすると、いっそう肥大して始末が悪くますから、誰かに聞いてもらうか、気持ちを書きなぐるかなどで発散することがお勧めです。

「そんな時間がもったいない」という場合には、大事な試験が終わるまで、その感情をいったん脇に置いておき、「後からゆっくり怒るなり凹むなりしよう」と決めればよいでしょう。

学習意欲が高まらない場合にも、メタ認知を働かせて自己動機づけを行いましょう。

まず、自分自身がやる気を出すのはどういう時かを自己分析します。周囲につられやすいタイプであれば、懸命に勉強している人たちの輪に入ることが効果的です。周りにそういう人がいなければ、ネットで探して勝手に「同士」と認定してしまいましょう。

負けず嫌いのタイプであれば、ライバルを設定するのが何よりも有効です。周りにいなければ、やはりネットで探して勝手に「ライバル認定」をしてしまいましょう。

また、自分はどうも物で釣られやすいタイプだと思うならば、話はより簡単です。「この試験に受かれば、○○(←自分のほしかった物を入れてください)を買ってよし!」と自分に許可を与えるとよいでしょう。

メタ認知で気持ちを整え意欲を高める

人にはみな、それぞれの事情があり、考え方や感じ方も様々です。

個々の事情に応じた形でメタ認知を働かせ、ご自身の認知特性や気持ち・意欲といった非認知特性を的確に見極め対策を講じることで、目指す資格試験に向けて楽しく効果的に学んでいただければと思います。

● 参考文献

三宮真智子『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』中央公論新社(中公新書ラクレ)2022年
三宮真智子『メタ認知で<学ぶ力>を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法』北大路書房 2018年

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