令和5年度から試験制度の変更が実施されました。
実際に受験者数や合格者がどのように変わったかを分析していきます。
試験制度変更の経緯
そもそも新試験制度導入の経緯は、どのような理由からだったのでしょうか。
①税理士試験の受験者数の減少

最近の受験者数は、ピーク時の半数ほど。税理士試験の受験者が減少している、ということは相対的に試験合格者の価値が高まっているといえます。
②受験者数減少の要因
それでは、なぜ受験者が減ったのでしょうか。それは、下記のようなことが原因と考えられます。
- AI等の発達により税理士業務自体が将来なくなる、という誤った情報
- 受験資格を得るためのハードル(大学3年次以上の学識や、簿記1級の資格など)が、他の資格と比べて高い
- 5科目合格までに、相当の時間を要する
- 税理士として就職した際の待遇面
③受験者数を増加させるための政策
受験者数を増加させるための政策として、令和5年試験から受験資格の撤廃と緩和が行われました。
【試験制度の変更(令和5年度試験から)】
- 受験資格の撤廃
会計科目(簿記論・財務諸表論)の受験資格が撤廃され、大学1・2年次や普通科の高校生でも受験が可能になりました。
- 受験資格の緩和
税法科目の受験資格のうち、学識要件の一部が「法律学または経済学に属する科目の履修」から「社会科学に属する科目の履修」に変更となりました。
税理士受験資格のハードルを緩和することで、大学生等の若い世代や理系出身者等の多様な人材の受験者増加を図る。
令和6年 税理士試験合格発表の概要(試験制度変更前後の比較)
令和6年の試験結果と令和4年の試験結果で、どのような変化があったのでしょうか。
- 受験者数 … 34,757名(延べ49,676名)
- 合格者数合計(実人数) … 5,762名(官報合格者数 … 578名、 一部科目合格者数 … 5,184名)
- 合格率 … 16.6%
①受験者数
令和4年/28,853名(延べ40,430名) → 令和5年/32,893名(延べ46,956名)
→ 令和6年/34,757名(延べ49,676名)
【科目別 受験者数】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 制度変更前後 | |
---|---|---|---|---|
簿記論 | 12,888名 | 16,093名 | 17,711名 | 137.4% |
財務諸表論 | 10,118名 | 13,260名 | 13,665名 | 135.1% |
法人税法 | 3,454名 | 3,550名 | 3,583名 | 103.7% |
所得税法 | 1,294名 | 1,202名 | 1,195名 | 92.3% |
相続税法 | 2,370名 | 2,428名 | 2,515名 | 106.1% |
消費税法 | 6,488名 | 6,756名 | 7,206名 | 111.1% |
主要税法科目の受験者数減の歯止めがかかり、制度変更の目論見通りの結果となりました。
【年齢別 受験者の変化】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
41歳以上 | 10,805名 | 11,362名 | 11,543名 | 106.8% |
36〜40歳 | 4,407名 | 4,619名 | 4,668名 | 105.9% |
31〜35歳 | 4,581名 | 4,973名 | 4,990名 | 108.9% |
26〜30歳 | 4,131名 | 4,916名 | 5,775名 | 139.8% |
25歳以下 | 4,929名 | 7,023名 | 7,781名 | 157.9% |
【学歴別 受験者の変化】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
大学卒 | 21,822名 | 23,765名 | 24,987名 | 114.5% |
大学在中 | 1,463名 | 2,188名 | 2,461名 | 168.2% |
短大・旧専卒 | 660名 | 700名 | 685名 | 103.8% |
専門学校卒 | 2,591名 | 2,786名 | 2,854名 | 110.2% |
高卒・旧中卒 | 1,962名 | 2,778名 | 3,015名 | 153.7% |
その他 | 355名 | 676名 | 755名 | 212.7% |
・大学在学中 … 昨年比998人増 高卒・旧中卒 … 昨年比1,053人増
5年ぶりに受験者が30,000人越え。特に、大学在学中の若年層の受験者増が顕著となりました。
②合格状況
【過去6年間の合格者数と合格率】
第69回 令和元年 | 第70回 令和2年 | 第71回 令和3年 | 第72回 令和4年 | 第73回 令和5年 | 第74回 令和6年 | |
---|---|---|---|---|---|---|
受験者数 | 29,779名 | 26,673名 | 27,299名 | 28,853名 | 32,893名 | 34,757名 |
一部科目合格者数 | 4,639名 | 4,754名 | 4,554名 | 5,006名 | 6,525名 | 5,184名 |
官報合格者数 | 749名 | 648名 | 585名 | 620名 | 600名 | 578名 |
合格者数合計 | 5,366名 | 5,402名 | 5,139名 | 5,626名 | 7,125名 | 5,762名 |
合格率 | 18.1% | 20.3% | 18.8% | 19.5% | 21.7% | 16.6% |
一部科目合格者数は1,341人減少しましたが、直近5年で2番目に多い年度となりました。
【科目別 合格者数と合格率の変化】
合格者数 | 合格率 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 制度変更前後 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | |
簿記論 | 2,965名 | 2,794名 | 3,076名 | 103.7% | 23.0% | 17.4% | 17.4% |
財務諸表論 | 1,502名 | 3,726名 | 1,099名 | 73.2% | 14.8% | 28.1% | 8.0% |
法人税法 | 425名 | 497名 | 588名 | 138.4% | 12.3% | 14.0% | 16.4% |
所得税法 | 182名 | 166名 | 150名 | 82.4% | 14.1% | 13.8% | 12.6% |
相続税法 | 336名 | 282名 | 471名 | 140.2% | 14.2% | 11.6% | 18.7% |
消費税法 | 740名 | 802名 | 740名 | 100.0% | 11.4% | 11.9% | 10.3% |
財務諸表論の合格率は8%と、昨年度の28.1%から20.1%も合格率が減少しております。
「簿記論」「財務諸表論」いずれかの全国平均の合格率は、5年連続で高い水準で推移しています。
令和2年度
簿記論
合格率22.6%
令和3年度
財務諸表論
合格率23.9%
令和4年度
簿記論
合格率23.0%
令和5年度
財務諸表論
合格率28.1%
令和6年度
簿記論
合格率
17.4%
【年齢別 合格者数と合格率の変化】
【合格者数】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 制度変更前後 | |
---|---|---|---|---|
41歳以上 | 1,239名 | 1,488名 | 972名 | 78.5% |
36〜40歳 | 855名 | 962名 | 669名 | 78.2% |
31〜35歳 | 1,015名 | 1,168名 | 887名 | 87.4% |
26〜30歳 | 993名 | 1,332名 | 1,131名 | 113.9% |
25歳以下 | 1,524名 | 2,175名 | 2,103名 | 138.0% |
【合格率】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | |
---|---|---|---|
41歳以上 | 11.5% | 13.1% | 8.4% |
36〜40歳 | 19.4% | 20.8% | 14.3% |
31〜35歳 | 22.2% | 23.5% | 17.8% |
26〜30歳 | 24.0% | 27.1% | 19.6% |
25歳以下 | 30.9% | 30.2% | 36.5% |
【学歴別 合格者数と合格率の変化】
【合格者数】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 制度変更前後 | |
---|---|---|---|---|
大学卒 | 4,054名 | 5,024名 | 3,767名 | 92.9% |
大学在中 | 436名 | 667名 | 646名 | 148.2% |
短大・旧専卒 | 91名 | 95名 | 66名 | 72.5% |
専門学校卒 | 463名 | 456名 | 360名 | 77.8% |
高卒・旧中卒 | 433名 | 662名 | 651名 | 150.3% |
その他 | 149名 | 221名 | 272名 | 182.6% |
【合格率】
令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | |
---|---|---|---|
大学卒 | 18.6% | 21.1% | 15.1% |
大学在中 | 29.8% | 30.5% | 26.2% |
短大・旧専卒 | 13.8% | 13.6% | 9.6% |
専門学校卒 | 17.9% | 16.4% | 12.6% |
高卒・旧中卒 | 22.1% | 23.8% | 21.6% |
その他 | 42.0% | 32.7% | 36.0% |
今後の予想
- 科目別
会計科目の受験資格撤廃に伴い、引き続き受験者数の増加が見込まれる。
それに伴い、合格者数は増加するが合格率は低くなる。
【合格率】 令和3年…18.8%、 令和4年…19.5%、 令和5年…21.7%、 令和6年…16.6%
会計科目の合格者数が増加することで、税法科目の受験者数も増え、競争率が高くなる。- 年齢別
高卒・大学在学中の受験者増加が予想される。
- 学歴別
若年層が高い水準が維持され、合格者の数も増加することが予想される。
それに伴い、今後、大学在学中の5科目合格者の増加が予想される。
就職状況について
何かと不安の多い就職状況。現在はどのような状況になっているのでしょうか。
①税理士業界の展望
前述の税理士の受験者数の減少の要因として、AI等の発達により税理士の仕事がなくなるという情報の広がりや、会計事務所は個人事務所が多く、待遇面での不安を感じる点などをあげました。しかしながら、税理士の仕事は複雑なため、AI等の普及によって税理士事務所の仕事がなくなるということはありません。待遇面に関しても、近年、税理士法人が増加しており、それに伴って求人も多く出回り、改善が進んでいます。
②税理士業界は売り手市場
それでは、現在の就職に関しての状況はどうなっているのでしょうか。厚生労働省の「税理士 職業情報提供サイト」によると税理士の有効求人倍率は2.36倍となっています。一般職業紹介状況は、令和6年5月の有効求人倍率が1.24倍あることを踏まえると、税理士業界が売り手市場であることが分かります。
税理士の仕事の将来性
①高付加価値な業務への投入が重要
税理士のニーズは変化しており、会計・税務手続きの代行が税理士の主な業務でしたが、今後は専門家としての知識や経験を活かした業務へのニーズが高まっています。今後の税理士業界においては、単純業務をAIに任せることで入力や仕訳作業を自動化し、それによって捻出したマンパワーをより高付加価値な業務へ投入することが重要となります。
具体的には「事業承継・M&A」や「国際税務」などの高度な判断が必要となる税務や、経営に関連して専門的なアドバイスを行う「コンサルティング業務」へのニーズが高まると予想されます。ニーズの変化に対応するためには、AIやITツール、SNSの活用が不可欠です。
それらに抵抗感が小さい若年層の方が、ベテラン税理士に比べてニーズの変化に対する反応が早いと想定されます。そのため、30代以下の割合は約10%、平均年齢は60歳以上(税理士会公表)の税理士業界において、若手税理士にとっては大きなビジネスチャンスと捉えることができます。過渡期の今が受験のチャンスといえます。
- 事業承継・M&A
中小企業の経営者の高齢化に伴い、事業承継やM&Aの数は増加傾向です。そして事業承継およびM&Aでは贈与税または相続税が発生します。したがって適切な事業承継のためには税理士の力が必要不可欠です。事業承継・M&Aに対応できる税理士は需要があり、経営者の高齢化が進む中で今後さらにニーズが強まると考えられるのです。
- 国際税務
日本で税理士資格を取得するにあたって、外国の税務知識はほとんど必要ありませんが、グローバル化が加速する現代では、日本企業が海外で事業を展開したり、海外企業が日本で事業を開始したりする事例が増えています。多くの税理士が対応できない分野の知識があれば、それだけ仕事を得るチャンスが増加します。
- コンサルティング業務
税金及び会計だけでなく、税金及び会計に関連する領域である起業、経営計画、財務、株式公開、M&A、事業承継、組織再編、事業再生などの分野についての助言・提言など。
②結論
業界の活性化のため若年層の合格者増への取組がなされ、合格率が高くなっています。就職・転職が売り手市場の今こそ、税理士の受験はチャンスといえます。令和6年の受験申込者数は、合計で43,919名、令和5年の41,256名より106.5%と増加。また、簿記論は21,335名→23,914名(112.1%)財務諸表論18,363名→19,792名(107.8%)と会計科目は高い増加傾向で今後数年は、税理士試験が難化していくことが見込まれます。
短期合格戦略
- 出題可能性の高い論点を中心に学習する
- 学習範囲を絞って反復回数を増やす
- 隙間時間を利用してでも学習する習慣をつける
- 習熟度に応じて、講義の視聴をスキップしたり、理解できるまで繰り返す
- 総合問題を解くためのテクニックの習得
- 複数科目の同時学習による理解力の向上