第968条【自筆証書遺言】
① 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
② 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
③ 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
【解釈・判例】
1.自筆証書遺言の作成要件
①遺言書の全文を自書すること。②作成の日付を自書すること。③氏名を自書すること。④遺言書に自分で押印すること。
2.自書
(1) タイプライター、ワードプロセッサーや点字機等を用いたものは自書ではないため無効である。テープレコーダーで録音されたものも無効である。
(2) 自筆証書遺言につき他人の添え手による補助を受けた場合は、遺言者が自書能力を有し、遺言者が他人の支えを借りただけであり、かつ、他人の意思が介入した形跡がない場合に限り、自書の要件を充たすものとして有効である(最判昭62.10.8)。
(3) 遺言の全文、日付および氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載することも、自書の方法として許されないものではない(最判平5.10.19)。
3.日付
(1) 日付の表示は、暦日ではなくても特定できる記載であればよい。遺言者自身の「還暦の日」「第何回目の誕生日」等の記載は特定できるが、「昭和○年○月吉日」では特定できず無効である(最判昭54.5.31)。
(2) 自筆遺言証書に年月の記載はあるが日の記載がないときは、当該遺言書は968条1項にいう日付の記載を欠く無効なものである(最判昭52.11.29)。
(3) 自筆遺言証書に係る遺言者が、入院中の日に遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書したところ、退院して9日後(入院中に遺言書の全文等を自書した日から27日後)に押印した場合、当該遺言書には遺言が成立した日(押印がされた日)と異なる日付が記載されていることになるが、これをもって直ちに当該遺言が無効となるものではない(最判令3.1.18)
4.氏名
遺言者本人の同一性が確認できるものであれば、氏若しくは名のみでもよく、また、通称、芸名、雅号、屋号、ペンネームなどでもよい(大判大4.7.3)。
5.押印
(1) 自筆遺言証書における押印は、拇印・指印でもよい(最判平元.2.16)。
(2) 遺言書の本文の自署名下には押印がなかったが、これを入れた封筒の封じ目にされた押印があれば、押印の要件に欠けるところはない(最判平6.6.24)。
(3) 花押(かおう。署名の代わりに使用される記号・符号のこと。簡略な形に変化させた自署の一種。)を書くことは、印章による押印と同視することはできず、968条1項の押印の要件を満たさない(最判平28.6.3)。
6.契印
遺言書が数葉にわたる場合、その間に契印、編綴がなくても、それが全体として1通の遺言書であることを確認できる限り、その遺言書は有効である(最判昭36.6.22)。
7.財産目録の作成方法(本条2項)
(1) 自筆証書遺言に添付する財産目録については、自書でなくともよい。この場合、遺言者は財産目録の各頁に署名押印することを要する。
(2) パソコン等で作成した財産目録を添付することや、銀行通帳のコピー又は不動産の登記事項証明書等を財産目録として添付して、遺言書を作成することができる。
8.訂正方法
(1) 自筆証書中の加除・変更については、本条3項の要件を満たさないと訂正の効力が生じないのであって、遺言そのものが無効になるわけではない。
(2) 加除訂正に方式違反があっても、遺言書の記載自体から明らかな誤記と分かる場合には、遺言の効力に影響を及ぼさない(最判昭56.12.18)