第372条【留置権等の規定の準用】
第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。
【超訳】
不可分性、物上代位、物上保証人の求償権の規定は、抵当権に準用される。
【解釈・判例】
1.意義
物上代位とは、その目的物が売却されて代金になったり、賃貸されて賃料を生じたり、滅失損傷によって保険金に変じた場合、これらの代金、賃料、保険金などにもその効力を及ぼすことができる担保権の効力をいう(372条、304条)。
2.物上代位の対象
(1) 賃料債権(最判平元.10.27)
→ 転貸賃料債権に対しては、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、物上代位権を行使できない(最決平12.4.14)。
(2) 目的物の滅失・損傷により所有者の受ける損害賠償請求権(大判大6.1.22)
(3) 保険金請求権(大判大12.4.7)
(4) 買戻代金債権(最判平11.11.30)
3.物上代位の要件
抵当権者が物上代位権を行使するには、代位の対象物が抵当不動産の所有者に払い渡され、又は引き渡される前に差押えをしなければならない。
→ 民法372条が準用する304条1項の「払渡し又は引渡し」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる(最判平10.1.30)。
4.物上代位と他の権利者との優劣
(1) 物上代位の目的となる債権について、一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決する(最判平10.3.26)。
(2) 物上代位の目的となる債権に対する転付命令は、同命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が当該債権の差押えをしなかったときは、その効力を妨げられず、抵当権者は当該債権について抵当権の効力を主張することはできない(最判平14.3.12)。
5.物上代位と相殺
(1) 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は、抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗できない(最判平13.3.13)。
(2) 賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡された場合においては、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅するのであり、このことは、明渡し前に賃料債権に対する物上代位権行使としての差押えがあった場合も同様である(最判平14.3.28)。
【問題】
抵当権の設定の登記がされた後、抵当権設定者Aが抵当不動産の買収に伴う補償金債権を取得した場合において、当該補償金債権をAの一般債権者Bが差し押さえて転付命令を得て、その転付命令が第三債務者に送達された後であっても、当該抵当権の抵当権者Cは、当該補償金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる
【平25-12-5:×】
【問題】
AのBに対する貸金債権を担保するために、AがC所有の甲建物に抵当権の設定を受けたところ、当該抵当権の設定の登記がされた後に、CがDとの間で甲建物についての賃貸借契約を締結し、その賃料債権をCがEに対して譲渡した場合には、当該譲渡につき確定日付のある証書によってCがDに通知をしたときであっても、Aは、当該賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる
【平26-12-オ改:○】
【問題】
AのBに対する金銭債権を担保するために、Cの所有する甲建物を目的とする抵当権が設定された。この場合において、Cが甲建物をDに賃貸した後、Cの承諾を得てDがEに甲建物を転貸したときは、Aは、DのEに対する甲建物の賃料債権について物上代位権を行使することができる
【平28-12-ウ改:×】
【問題】
AのBに対する金銭債権を担保するために、Cの所有する甲建物を目的とする抵当権が設定されたところ、Cが甲建物をDに賃貸し、敷金が授受された後、Aが甲建物から生じる賃料債権について物上代位権を行使し、甲建物の未払の賃料債権を差し押さえた。この場合において、CD間の賃貸借契約が終了し、甲建物が明け渡されたときは、甲建物の未払の賃料債権は、敷金の充当によりその限度で当然に消滅する
【平28-12-オ改:○】