民法 第192条【即時取得】

第192条【即時取得】

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

目次

【超訳】

 ①動産を、②取引により、③無権利者・無権限者から、④平穏・公然・善意・無過失で取得した者が、⑤現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転により当該動産の占有を取得した場合、その者は動産についての所有権・質権を取得する。

【解釈・判例】

1.要件

(1) 動産であること

① 動産に含まれるもの→ 未登録自動車(最判昭45.12.4)

② 動産に含まれないもの→ 金銭(最判昭39.1.24)、有価証券(商519条)、指名債権(大判昭2.2.1)、登録済自動車(最判昭62.4.24)等

③ 立木の即時取得の可否
ア 伐採前
→ 不動産の一部なので、無権利者から買受け後、伐採したとしても即時取得不可
イ 伐採後
→ 伐木は動産であるからこれを譲り受けた場合、即時取得できる(大判昭7.5.18)。

④ 不動産は、即時取得の対象にならない。
→ 不動産の従物が不動産所有者に属していなかった場合は、即時取得は可能である。例えば、家屋の建具・畳などに抵当権が設定されていることにつき善意で取得すれば、抵当権の負担のない動産所有権を取得する。

【問題】

Aは、Bが所有者Cに無断で占有していた甲自動車を、Bの所有物であると過失なく信じて購入し、現実の引渡しを受けた。この場合において、甲自動車が道路運送車両法による登録を受けた自動車であるときは、Aは甲自動車を即時取得しない

【平31-9-オ:〇】

(2) 取引によって占有を取得すること

① 相続による取得には適用されない。

② 他人の山林を自分の土地と誤認して立木を伐採した場合、即時取得は適用されない(大判昭7.5.18)。

③ 贈与や強制競売による取得には本条の適用がある(最判昭42.5.30)。

【問題】

AからA所有のデジタルカメラ甲(以下「甲」という。)を賃借していたCが死亡し、その相続人Bは、その相続によって甲の占有を取得した。この場合において、Bは、Cが甲に関し無権利者であったことについて善意無過失であるときは、甲を即時取得する

【平25-8-1改:×】

(3) 無権利者又は無権限者からの取得であること

① 相手方が制限行為能力者・無権代理人である場合、即時取得の適用は認められない

→ これを認めると制限行為能力者保護制度・無権代理制度が無意味になってしまうため、否定するのが通説である。相手方が錯誤・強迫を主張する場合も同様である。

② 相手方である制限行為能力者・無権代理人からの転得者は即時取得が可能である

【問題】

Aが、未成年者であるBから、Bの所有する動産甲を買い受けて現実の引渡しを受けた場合において、Bが未成年者であることについて善意無過失であるときは、Bがその売買契約を取り消したときであっても、Aは動産甲を即時取得する

【平30-8-ウ:×】

(4) 平穏・公然・善意・無過失であること

① これらの要件は、占有の取得時にあれば足りる

→ その後、悪意になっても差し支えない。

② 平穏・公然・善意は186条によって推定され、無過失についても188条によって推定される(最判昭41.6.9)。

【問題】

Aが、Bの所有する動産甲を無権利のCから買い受けた場合において、契約締結時にCが無権利者であることにつき善意無過失であるときは、現実の引渡しを受けるまでにCが無権利者であることを知ったとしても、Aは動産甲を即時取得する

【平30-8-ア:×】

(5) 占有を取得したこと

① 占有には、占有者が現実に物を取得する現実の引渡し(182条1項)、簡易の引渡し(182条2項)、指図による占有移転(184条)が含まれる(最判昭57.9.7)。

② 占有改定(183条)によって占有を取得した場合、即時取得は認められない(最判昭32.12.27)。

【問題】

Aは、Bが所有者Cに無断でBの画廊に展示していた甲絵画を、Bの所有物であると過失なく信じて購入した。この場合において、Bが以後Aのために甲絵画を保管する意思を表示したときは、Aは甲絵画を即時取得する

【平31-9-エ:×】。

2.効果

(1) 取得できる権利は、所有権、質権である。

(2) 即時取得は原始取得であり、付着していた他物権などは消滅する。

(3) 即時取得者は、原権利者に対して不当利得返還義務を負わない(通説)。

【問題】

Aに対して金銭債務を負担するBが、当該金銭債務を担保するために、他人の所有する動産甲につき無権利で質権を設定してAに現実の引渡しをした場合において、Aが、Bが無権利者であることにつき善意無過失であるときは、Aは動産甲について質権を即時取得する

【平30-8-オ:〇】

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