特定行政書士の資格があれば、行政書士としての業務の幅をさらに広げられます。では、特定行政書士は具体的にどのような業務を行うのでしょうか。本記事では、特定行政書士の仕事内容や行政書士との違い、試験の難易度などについて解説します。
行政書士について知らない方は、まず以下の記事をご覧ください。
特定行政書士とは?

特定行政書士とは、行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る、許認可等に関する行政庁へ不服申立ての手続きの代理業務を行える行政書士です。
特定行政書士になるには、行政書士に登録後、日本行政書士会連合が実施する「特定行政書士法定研修」を受講し考査に合格する必要があります。
つまり、行政書士の資格を有しているのが、特定行政書士の資格を得るための前提条件です。
行政書士と特定行政書士の違い
行政書士と特定行政書士の違いは、「行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る、許認可等に関する行政不服申立ての手続きの代理業務が行えるかどうか」です。
特定行政書士の資格があると、申請から不服申立ての手続きまでを一貫して行えるため、業務の幅が広がります。
特定行政書士が代理できる「不服申立ての手続き」とは?
特定行政書士が代理として行える「不服申立ての手続き」とはどのような業務なのでしょうか。ここで詳しく解説します。
審査請求
審査請求とは、行政庁の処分に不服がある、あるいは行政庁の不作為に不服がある場合に、処分庁や不作為庁または最上級行政庁などに対して審査請求を行うことです。不作為とは、行政庁が申請に対して何らの処分をしないことを指します。
審査請求の期限は、処分があったと知った日の翌日から起算して3か月以内かつ、処分があった日の翌日から起算して1年以内です。期限が決められているため、迅速に手続きをする必要があります。ただし、正当な理由があるときはこの限りではありません。
再調査請求
再調査請求とは、処分庁以外の行政庁に審査請求ができるケースにおいて、法律で再調査請求ができると定められている場合に限り、処分庁に対して再調査の請求を行うことです。
再調査請求しなくても審査請求できますが、先に審査請求した場合、再調査請求はできません。また、不作為に対しても再調査請求できないと定められています。
再調査請求においても、処分があったと知った日の翌日から起算して3か月以内かつ、処分があった日の翌日から起算して1年以内に手続きを行う必要があります。ただし、正当な理由があるときはこの限りではありません。
再審査請求
再審査請求とは、行政庁の処分についての審査請求の結果である原裁決に不服があるとき、法律で再審査請求ができると定められている場合に限り、その法律に定められた処分庁に対して処分または原裁決の再審査を請求することです。再調査請求と同様に、不作為に対しては再審査請求を行えません。
請求期限は、原裁決があったと知った日の翌日から起算して1か月以内かつ、原裁決があった日の翌日から起算して1年以内に手続きを行う必要があります。ただし、正当な理由があるときはこの限りではありません。
例外はありますが、審査請求や再調査請求の手続き期限と比べて短いところが特徴です。
また、再審査請求が却下された場合は、訴訟によって処分の効力を争えます。その際、訴訟手続きに移行するため弁護士に交代します。
想定される行政不服申立ての例
不服申立てには、実際にどのような事例があるのでしょうか。日本行政書士会連合会では、以下の3つのケースを紹介しています。
難民不認定
母国で民主化運動指導者と社会活動を行い、日本でも母国の反政府団体に加入し活動を行っていた申請者が、帰国すれば母国の政府による迫害を受ける恐れがあるとして難民認定申請を行ったケースがありました。
この申請に対し行政は、申請者の活動内容はデモへの参加程度の活動に留まり、帰国後に迫害される恐れはないと判断しました。申請者は、行政の判断に対し、不服申し立てを行うと考えられます。
建設業許可申請の不許可処分
新規建造物の建築にあたり「建設業許可申請」を行ったところ、経営業務の管理責任者としての経験年数が要件を満たしていない、管理責任者の常勤性に疑義があることを理由に不許可となりました。
管理責任者としての経験年数や常勤性について問題はないと考えているため、申請者は行政へ判断の見直しを求める不服申し立てを行うと考えられます。
産業廃棄物処理施設の設置許可申請の不許可
ある自治体に産業廃棄物処理施設の設置許可申請を行ったところ、不許可処分となりました。申請先の自治体では、周辺住民の同意書の提出が許可要件となっており、その要件を満たしていない点が不認可の理由とされました。
産業廃棄物処理施設の設置にあたり、周辺住民の同意書の提出を許可要件としていることに疑義があるとして、申請者は行政へ不服申立てを行うと考えられます。
特定行政書士になるには?資格取得までの流れ
ここでは、特定行政書士を目指す方に向け、資格取得までの流れについて解説します。前提として行政書士の資格を保有していることが必要なため、まだ資格を持っていない方はまず行政書士試験に挑戦しましょう。
行政書士とは?仕事内容や資格取得について詳しくはこちら
特定行政書士法定研修を受講する
特定行政書士になるための最初のステップとして、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」を受講します。研修内容は以下の通り、合計9科目・18時間です。
研修は、中央研修所研修サイトを通してインターネットで行います。受講料はテキスト代を含めて8万円で、申し込みの期間は例年4月上旬から6月中旬頃までです。
【特定行政書士法定研修の内容】
行政法総論 | 1時間 |
行政手続制度概説 | 1時間 |
行政手続法の論点 | 2時間 |
行政不服審査制度概説 | 2時間 |
行政不服審査法の論点 | 2時間 |
行政事件訴訟法の論点 | 2時間 |
要件事実・事実認定論 | 4時間 |
特定行政書士の倫理 | 2時間 |
総まとめ | 2時間 |
考査を受ける
特定行政書士法定研修を受講した後、考査へと進みます。考査は毎年10月に全国で一斉に開催され、試験会場は行政書士として所属する単位会ごとに異なります。
考査の解答方式はマークシートによる択一式で、試験時間は2時間、問題数は30問です。考査料は前述した受講料の8万円の中に含まれ、万が一不合格となった場合、翌年も無料で考査を受験できます。
特定行政書士登録の手続きをする
考査の合格発表は、11月の中旬頃に日本行政書士連合会の会員サイト「連con」内に考査受験番号を掲載する形で行われます。また、12月上旬頃に受験者の事務所所在地宛てに郵送で通知されます。
合格した場合、郵送物の中に同封された特定行政書士登録手続きに関する書類の案内に従い、登録手続きを行いましょう。
特定行政書士登録を確認する
特定行政書士への登録手続きを行った後、2つの方法で手続きが完了しているかを確認できます。
1つ目はインターネットを使う方法です。日本行政書士会連合会の会員名簿にアクセスし、「特定行政書士 修了者」のチェックボックスにチェックを入れ検索すると、特定行政書士に登録されている者が表示されます。名簿では、登録日も確認できます。
2つ目は、行政書士の身分を証明する行政書士証票で確認する方法です。特定行政書士は金色、通常の行政書士は銀色のカードが発行されます。
特定行政書士試験(考査)の合格率・難易度
考査の合格率:約7割
特定行政書士法定研修考査の合格率は、例年7割程度で推移しています。令和4年度の試験では、514名が受験し36名が合格しました。
合格基準は、正答率が6割程度といわれ、問題数で計算すると18問以上は正解する必要があります。難関資格の行政書士試験を突破した者のうち約3割が受からないことから、特定行政書士は難易度が高い資格といえるでしょう。
特定行政書士の資格取得がおすすめの理由
・不服申し立てに関する知識を得られる
・行政書士としての業務の幅が広がる
特定行政書士の資格取得をおすすめする理由は上記の通りです。
特定行政書士試験の勉強をする過程で、不服申し立てに関する知識を得られるのは大きなメリットといえます。特定行政書士になれば、行政書士として働いていたとき以上のイレギュラーに対する専門知識が身につくということです。
また、特定行政書士の資格があれば、行政不服申立ての手続きの代理業務ができるため、申請から不服申立ての手続きまで一貫して顧客をフォローできます。業務の幅を広げ、最後まで責任をもって対応できる点は、顧客からの信頼を得るうえで強みとなるでしょう。
特定行政書士に関してよくある質問
最後に、特定行政書士に関するよくある質問をQ&Aの形式でご紹介します。
特定行政書士試験に合格すれば、業務の幅が広がります
特定行政書士とは、行政不服申し立ての代理手続きまで行える行政書士です。特定行政書士の資格を取得すれば、業務の幅が広がるため顧客からの信頼獲得につながります。特定行政書士試験の難易度は高いものの、しっかりと対策すれば十分に合格を勝ち取れます。
また、特定行政書士になるには行政書士の資格取得が必須のため、まだ資格を持っていない方はまず行政書士試験の合格を目指しましょう。
クレアールでは、行政書士試験に合格するための通信講座を提供しております。「非常識合格法」と呼ばれる独自の学習メソッドを開発しているため、忙しい社会人でも短期間で知識の習得・試験の合格を目指せます。

監修:行政書士・社労士 田中 伴典さん
2016年に社会保険労務士試験に合格後、社会保険労務士法人のスタッフとしてお客様を外部からサポート。その後、民間企業の人事として内部からサポートしつつ、2021年に行政書士試験に一発合格を果たす。現在は、現役行政書士・社会保険労務士として自身の事務所を運営している。
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