司法書士試験<過去問題肢別チェック ■刑法「社会的法益、国家的法益に対する罪」>
問題1 Aは、B宅に侵入し、B及び同居の家族全員を殺害した上、B宅に火をつけて燃やした。この場合、Aについて非現住建造物等放火罪の既遂が成立する。○か×か?
正しい。判例(大判大6.4.13)は、家人全員を殺害した後、家屋に火をつけて燃やした場合、非現住建造物等放火罪(刑109条1項)の既遂が成立するとしている。【平9-26-1改】
問題2 頒布した文書が外国語で書かれている場合には、わいせつ文書等頒布罪が成立する余地はない。○か×か?
誤り。英文の書籍のわいせつ性は、その読者となり得る英語の読める日本人及び在日外国人の普通人、平均人を規準として判断されるべきである(最判昭45.4.7)。したがって、頒布した文書が外国語で書かれている場合には、わいせつ文書等頒布罪が成立する余地がある。【平4-24-3】
問題3 警察官が現行犯人から適法に押収した証拠品を逮捕現場で整理している最中、犯人の友人Aは、その証拠品を足でふみつけて損壊した。この場合、Aの行為について公務執行妨害罪は成立しない。○か×か?
誤り。公務執行妨害罪(刑95条1項)における「暴行」は、広義の暴行であって、公務員に向けられた不法な有形力の行使を意味するが、必ずしも直接に公務員の身体に対して加えられることは必要でなく、物に対して加えられた有形力でも、それが公務員の身体に物理的に強い影響を与え得るものであれば足りる(いわゆる間接暴行、最決昭34.8.27)。Aの行為は、間接暴行にあたり、公務執行妨害罪が成立する。【平6-26-ア】
問題4 Aは、職務執行中の警察官に向かって投石した。その石は警察官の顔面の直近をかすめたのみで命中しなかった。この場合、Aの行為について公務執行妨害罪は成立しない。○か×か?
誤り。公務執行妨害罪(刑95条1項)における「暴行」は、公務員の職務の執行を妨害し得る程度のものでなければならないが、一回的・瞬間的に加えられるものでも、継続的・反復的に行われるものでもよく、職務執行中の巡査に、ただ1回投石しただけで、それが命中しなくても、本罪の暴行となり得る(最判昭33.9.30)。したがって、Aには公務執行妨害罪が成立する。【平6-26-ウ】
問題5 執行官が、その職務の執行として、差押物を家屋から運び出すにつき、補助者として公務員でない者を指揮して運搬にあたらせていた際、差押物の所有者Aは、その補助者の顔面を殴打した。この場合、Aの行為について公務執行妨害罪は成立しない。○か×か?
誤り。公務執行妨害罪(刑95条1項)における「暴行」は、公務員に向けられた不法な有形力の行使であればよいので、公務員の指揮の下に、その手足となって、職務の執行に密接不可分の関係にある補助者に加えられた場合にも、本罪は成立する(最判昭41.3.24)。したがって、Aには公務執行妨害罪が成立する。【平6-26-エ】
問題6 公正証書原本不実記載罪の客体は、私法上の権利義務に関するある事実を証明するものでなければならない。○か×か?
誤り。公正証書原本不実記載罪(刑157条1項)における「権利若しくは義務に関する公正証書」とは、公務員が、その職務上作成する文書であって、利害関係人のために、権利・義務に関する一定の事実を公的に証明する効力を有するものをいい、「権利若しくは義務」は、公法上のものであると、私法上のものであるとを問わない(最判昭36.3.30)。【平11-26-4】
問題7 市長の記名押印がある売買契約書の原本の売買代金欄の「7,000,000」の記載の左横に鉛筆で「1」と書き加え、代金が1,700万円であるかのように改ざんし、これを複写機でコピーして、あたかも真正な売買契約書の原本を原形どおりに正確にコピーしたかのような売買契約書の写しを作成した場合には、公文書変造罪(刑法第155条第2項)ではなく、公文書偽造罪(刑法第155条第1項)が成立する。○か×か?
正しい。写真コピーは、公文書偽造等罪(刑155条)の客体となる(最判昭51.4.30)。原本と同一の意識内容を保有し、証明文書として原本と同様の社会的機能と信用性を有するものである限り、原本の写しであっても差し支えないからである。また、公文書の改ざんコピーを作成することは、たとえ、その改ざんが公文書の原本自体になされたのであればいまだ文書の変造の程度にとどまっているとしても、原本とは別個の文書を作り出すのであるから、文書の変造(刑155条2項)ではなく、文書の偽造(刑155条1項)にあたる(最決昭61.6.27)。【平8-26-ア】
問題8 市議会の議長が議会の会議録の調製にあたって、議事の運営に対する異議が出された事実の記録をことさらに記載しなかった場合には、記載されている事項の中には事実と異なる部分がないときであっても、虚偽公文書作成罪(刑法第156条)が成立する。○か×か?
正しい。虚偽公文書作成等罪(刑156条)において、虚偽文書作成の方法には制限がなく、不作為でもなされ得る(最決昭33.9.5)。【平8-26-ウ】
問題9 被疑者として取調べを受けた者が、司法警察員に提出する供述書を他人名義で作成した場合には、あらかじめその他人の承諾を得ていたときであっても、私文書偽造罪(刑法第159条第1項)が成立する。○か×か?
正しい。名義人の承諾があるときは、原則として、文書偽造罪の構成要件該当性が阻却される。しかし、性質上、本来、その名義人自身による作成だけが予定されている文書については、事前に名義人の承諾があっても、偽造罪の成立を免れない(最決昭56.4.8)。本供述書は、性質上、その名義人自身による作成だけが予定されている文書であるから、私文書偽造罪(刑159条1項)が成立する。【平8-26-エ】
問題10 刑法は、権利・義務又は事実証明に関する私文書が、社会生活上重要性を有することにかんがみ、その偽造を重く処罰し、それ以外の私文書の偽造を軽く処罰することとしている。○か×か?
誤り。刑法は、私文書偽造罪の客体を権利、義務又は事実証明に関する私文書に限っている(刑159条1項、3項)。それ以外の私文書は、刑法的保護の必要がないので、偽造しても処罰されない。【平2-26-3】
問題11 偽造有価証券の保管を依頼して情を知らない他人に交付した行為は、偽造有価証券行使罪における行使にあたる。○か×か?
誤り。偽造有価証券行使罪(刑163条1項)における「行使」とは、偽造有価証券を真正な有価証券として使用することをいう。偽造有価証券行使罪は、有価証券に対する公共の信用を保護法益とするが、本肢では、単に、偽造有価証券の保管を依頼して情を知らない他人に交付しているにすぎず、未だ有価証券に対する公共の信用を害されたとはいえないので、「行使」にあたらない。【平3-26-3】
問題12 わいせつ文書を有償で貸与した場合には、わいせつ文書等頒布罪が成立する余地はない。○か×か?
誤り。わいせつ文書等頒布罪(刑175条)における「頒布」するとは、不特定多数の人に対して配布することをいい(大判大15.3.5)、無償交付が通常であるが、有償貸与も含まれると解釈する余地もある。したがって、わいせつ文書を有償で貸与した場合に、わいせつ文書等頒布罪が成立する余地がある。【平4-24-1】
問題13 不特定多数の者からの通話に応じ、録音したわいせつな音声を提供した場合には、わいせつ物陳列罪が成立する余地はない。○か×か?
誤り。わいせつ物陳列罪(刑175条)における「公然と陳列」するとは、不特定又は多数人の観覧し得る状態におくことをいう。録音テープの再生も「陳列」となる(東京地判昭30.10.31)ので、不特定多数の者からの通話に応じ、録音したわいせつな音声を提供した場合には、わいせつ物陳列罪が成立する余地がある。【平4-24-2】
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