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独立開業司法書士インタビュー 遠藤友香先生(1)「独立開業までの道のりと実務について」

合格してから開業までの道のり

遠藤友香先生

――本日は、女性で開業なさっている司法書士の実務家インタビューということで、横浜市で開業なさっているさかえ司法書士事務所代表の遠藤先生のところにお伺いしました。まず、独立開業の経緯について伺いたいと思います。

女性の受講生からは、受験勉強中だと、独立は考えていないという声を比較的多く聞きます。もっとも司法書士試験に合格して実務経験を積むと、受験勉強中に独立なんて考えていないとおっしゃっていた方のうち、それなりの人数の方が独立開業しているケースをよく見聞きするのですが...。そこで、まず遠藤先生が司法書士試験に合格してから独立開業に至った経緯からお聞かせ願いたいと思います。

遠藤:私は、もともと独立したいとの想いはあまり強くなかったのです。補助者経験もなかったので、まずは司法書士事務所に勤めて、3年、5年、10年と経験を積んで、自信がついたら、ゆくゆくは独立を考えようと言うくらいぼんやりとしたものでした。

ただ私の場合本当に運が良くて、「この先生にだったら付いていきたい」という先生と、いいタイミングで巡り合えて、短い時間でしたが、その先生の下でお仕事をさせていただきました。その中で、「こういうふうにお客さんと接していきたい」というイメージが、だんだんできるようになっていったのです。そんな矢先、その先生がたまたま引退するとおっしゃって...。

もともとはもう1人司法書士の先輩がいらっしゃったので、その方が事務所を引き継ぐから私にはサポートをしてほしいというお話だったのですけれども、その引き継ぎのお話をしていく中で、「今だったら、自分のお客さんをあなたにも付けてあげられるから、ちょっと頑張ってみたら」という有難いお声を掛けていただきました。お話をいただいたのはすごくうれしかったのですけれども、その時はまだ実務の経験が半年しかありませんでしたので、実は最初に一度、お断りしたのです。「本当に有難いお話ですけれども、自信がない」ということで...。ただ、先生も引退後サポートして下さるとおっしゃっていただきましたし、その時にお仕事を一緒にさせていただいた補助者の皆さんもすごくいい方で、「サポートするので、ちょっと頑張ってみたらどうですか」ということを言っていただきました。それまで、お仕事を一緒にさせていただいたご恩もありましたし、私が頑張ることで、恩返しになるのだったら独立してみようということで、お受けして、開業に至りました。

合格直後の研修と就職活動について

――司法書士試験に合格してからは、いろいろな研修がありますが、特別研修が終わるまでは、仕事はしないで、研修に専念されていたのですか?

遠藤:はい。そうです。合格発表が11月初旬で1月の中旬からブロック研修がスタートしたと記憶しています。それまでの間は、短期のアルバイトをして、研修費用を貯めていました。

――それは、司法書士とは全く関係のない仕事ですか?

遠藤:はい、全く関係のないお仕事です。研修中は、周りでは就活している方もいたので動くのが遅いのではないかと焦ることもありました。

ただ私の場合、当時住んでいた場所から研修が通いだったということ(静岡にいましたが、特別研修は神奈川でした)、就職希望先が住んでいる静岡ではなく、東京近郊だったこともあり、研修と並行した就職活動は難しい現状がありました。同期からも、研修全部が終わってから、集中して事務所を探した方がいいのではないかという話も聞いていましたので、その間は何も司法書士関係の仕事や就職活動はしませんでした。就活したのは研修が終わってから、2週間位だったと思います。

――それでは特別研修が終わってから、司法書士事務所を探して、2週間くらいで勤務先を決めて働き出したということですか?

遠藤:はい、そうです。

――今、当時住んでいらっしゃった場所から研修に通っていたというお話がありましたけれども、ご自身が育った場所と実際に司法書士として働く場所が違う。土地勘が全然ない場所での勤務についての不安はなかったですか。

遠藤:全くなかったです。多分、あまり深く考えていなかったのと(笑)、大学時代に4年間埼玉に住んでいたので、全く土地勘がないわけでもなかったからでしょうか。何より、最初は独立ではなく勤務だということもあって、とりあえずお給料はもらえるし、なんとかなるかなと思っていたのでしょうね。今言われて、初めて気付きました(笑)。

司法書士事務所の開業について

――では、実務を半年間、最初に勤務した事務所で教わって、すぐ独立と...。やはり、独立する時、不安は大きかったですか。

遠藤:独立を決める前は、不安も大きかったのですけれども、独立が決まってから業務スタートまでが1カ月もなかったので、決めてからは不安に思う時間的余裕はありませんでした。正直、物件探しや資金の準備にいっぱいいっぱいだったので...。むしろスタートしてからの方が、不安でしたね。

――今、資金の準備という話がありましたけれども、司法書士の事務所を開業するのに資金は、どれぐらいかかるのですか。

遠藤:多分、規模などによっても違いはあると思います。私が最初、スタートした時には、まず、自由が丘という場所だったこと。その時点で、私を含めて、5人いたので、その机が全部入るスペースが必要だったこともあって、それなりの費用が必要でした。お一人で独立開業される先生でしたら、プリンターは家庭用でいいということはあると思いますが、私の場合は複合機をリースしましたし、インターネット関連の整備や防火金庫も必要になり、さらに引っ越しにはその物件の保証金も必要ですし...。最初、500万用意しました。

――資金の準備は、借り入れしたのですか?

遠藤:多分、もうちょっと時間があれば、助成金や借入などもあったと思うのですけれども...。私の場合は準備期間が1カ月しかなかったのと、すぐに借り入れができるほど、当時は信用もなかったですから、借り入れはしていません。

実は司法書士試験に合格した年に祖父が亡くなって、その時に兄弟姉妹で分けたお金を、「何かあったら使いなさい」ということで母が預かっていたので、それを貸してもらったのと、あとは少しですが預金を合わせて準備しました。

現在携われているお仕事

――それで、思い切って独立したということですね。分かりました。ありがとうございます。では続いて、守秘義務に触れない程度でいいのですが、お仕事について伺います。司法書士の業務で、代表的なのは不動産登記、商業登記といった登記業務、あるいは企業法務関係などがあると思います。あとは、ここ数年、増えてきている訴訟関係の業務、高齢社会ということで成年後見の業務も司法書士に依頼が増えており、どんどん職域が広がっていると思います。事務所によって、いろいろな仕事をなさっていると思いますけれども、遠藤先生の事務所では、どのような割合で、お仕事をなさっていますか?

遠藤:私の事務所は、不動産登記、特に金融機関さんのお仕事が多いです。不動産登記と言っても、決済もあるので、どこまで不動産登記と考えればよいですか?

――いわゆる不動産を扱う全般と考えるとどの位の割合になりますか?

遠藤:そうすると、大体、8割が不動産登記です。この中には、一般の方の相続の登記などのご依頼も含みます。残りの2割のうち、おそらく1.5割ぐらいが遺言や相続です。今は、相続と言っても名義替えの登記だけでなく、例えば、金融機関や郵便局の解約など、保険などの手続きを含めた全部を包括で受けることもあります。そして0.5割ぐらいが少ないですが商業登記です。

――もともと事務所を引き継いだという経緯で、多少、不動産登記のお客さんは確保していたとしても、ご自身で事務所を経営するようになって、不動産登記の業務を拡大していくのは難しいと思います。不動産登記の業務を増やすために、このようなことをやったとか、何か工夫したことはありますか。

遠藤:初めは、引き継いだお客さんをきちんとフォローするというのが大前提でした。それにプラスして、一度お世話になった方、例えばフリーの業者さんで司法書士の指定がなく、金融機関の紹介で行く決済ならその業者さん、自分が売りの指定で行く決済なら買いの業者さんに、後日お礼のお手紙を出すとか、丁寧に対応をして会社に訪問するとか。特別なことは特になく、そういう小さな積み重ねはしています。後日、その業者さんからお仕事をいただいたりしたこともあります。

あとは、他の士業の関係からのご紹介です。不動産登記もそうですけれども、商業登記などは特に税理士さんや他の士業の方からのご紹介ということもあるので、合格後は士業関係の交流会などに行ったりしています。まだ途中なのですが、銀行さんで使ってもらいやすいような登記の知識をまとめた資料などを作ったりしています。

――地道ですが、女性ならではという感じの工夫ですね。

遠藤:うちみたいな小規模な事務所だと、いきなり建て売りの大きいマンション1棟を扱うような業者さんにお仕事を、簡単にもらえるようになるということは考えにくいですよね。やはり地道に、小さいところからというか、一つずつのお仕事をコツコツつないでいく。それが多分、重なっていくのだと思います、前の先生もご紹介や口コミなどで、また新たなお客様を獲得されていたので、そういう小さいことをコツコツ積み重ねていくことが大切だと思っています。

――分かりました。日々丁寧かつ神経細やかに仕事をしていくことが、お客さんがお客さんを紹介してくれる、という感じでしょうか。

遠藤:はい、そうだと思います。

顧客獲得のための工夫

――さきほど個人のお客さんから遺言や相続の仕事のお話がありましたけれども、個人のお客さんの相続などを獲得するために、遠藤先生の事務所では、こんな工夫をしているとか、こんな広告をしているということはありますか。

遠藤:今、相続などに特化したホームページを作っているのですけれども、実は、それが、まだ途中なんです。今、来ているお仕事はほとんど金融機関さんのご紹介とか、知り合いの知り合いとか、口コミが多いです。あとは、弁護士の先生のところで、もめた相続の案件が終わって、残りをお願いしますという依頼もあります。

あとは、どこの事務所もやっていると思いますが、無料相談会への参加です。神奈川や東京などで無料相談会の役員の当番が回って来るのですが、その時対応したお客さんからの依頼もありますね。もちろん、直接、そこで受任はできないということは伝えてあるのですが、その方が終わった後、神奈川の司法書士会に問い合わせて、「やはりあの先生に正式に依頼したいので、ご連絡先を教えてください」ということで、お話をいただいて、無事受任した件もありました。

業務を行う上で心掛けていること

――本当に日々の地道な積み重ねが、お客さんの獲得につながっている。そのような感じですね。よく分かりました。ありがとうございます。

続いて、実務を行っていく上で、心掛けていることが専門家としてあると思うのですけれども、どんなことを心掛けていますか。

遠藤:何よりも間違いがあってはいけないということです。当然のことではありますが、それでも1人だと抜けてしまうこともあるので、必ず複数の目でチェックしています。特に注意して見る項目というのも、揃えています。そして何かトラブルが起きたときなどは、必ず、それを全員で共有する。自分だけではなくて、他の人にもその情報をきちんと渡して、同じミスが他で絶対に起きないようにする、というように、常に神経を使っています。

――お客さんと接する時に心掛けていることはありますか。

遠藤:金融機関の方には、金融機関の方が分かる用語がありますし、不動産屋さんであれば、不動産屋さんでしか分からない用語があります。金融機関の方や不動産屋の方しか使わない用語を一般の方に使ってしまうと、分かるような言葉も分からなかったりするので、そこは自分の常識とか自分の知っている言葉で話さないということには気を付けます。特に個人の方の場合、相続だとご高齢の方が本当に多いので、言葉遣いはもちろんですけれども、できるだけ難しくならないようにお話しするようにしています。受験生であれば、抵当権や設定、保存などという言葉が普通に分かると思うのですけれども、一般の方には分からないですよね。

ですから、例えば所有権移転をする決済の時のご説明だと、「今売主の○○様が持ち主だという風に記載されているので、これをあなたに替えるためのお手続きです」というように、わかりやすくご説明するようにしています。言葉を訳すというと語弊があるかもしれませんが、分かる言葉に変換してお話することで、敷居の高い先生だと思われないように、気を付けてお話しするようにしています。

――なるほど。言われてみると確かにそうですね。私は今までいろいろな司法書士さんのお話を聞きましたけれども、こういう話は初めてお聞きしました。確かに専門家だと日常的に使う用語が専門家ではない人だと、分からないことは多々あります。このようにお客さん目線に立って、気を付けて、接しているというのは、まさに本当に女性のきめ細やかな心遣いという感じですね。

遠藤:私もこの仕事をしていなかったら分からないことだと思うので、自分の身に置き換えて考えています。それに、相手が"先生"と付くので自然と身構えていらっしゃるお客様の多いように感じます。だから私が実際会ってみると、拍子抜けされることも多いですよ。もっと難しそうなおじさんが来ると思って、緊張してたんだけどね...なんて(笑)。私はそんな敷居要らないと思っているので、嬉しいですが。

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