第505条【相殺の要件等】
① 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
② 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
【解釈・判例】
1.相殺とは、債権者と債務者とが相互に同種の債権・債務を有する場合に、その債権と債務を対当額において消滅させる一方的意思表示(単独行為)をいう。相殺しようとする側の債権を自働債権、相殺される側の債権を受働債権という。
2.相殺の要件(相殺適状)
(1) 同一当事者間に債権の対立があること
(2) 対立する両債権が同種の目的を有すること
(3) 両債権の弁済期が到来していること
3.相殺の要件に関する判例等
(1) 抵当不動産の第三取得者は、自己の抵当権者に対する債権をもって、抵当権者が債務者に対して有している債権と相殺することはできない(大判昭8.12.5)。
(2) 受任者が委任事務の処理にあたって自分で債務を負担し、委任者に対して代わって弁済すべき旨を請求した場合、委任者は受任者に対する反対債権で相殺することはできない(最判昭47.12.22)。
(3) 期限の定めのない債権は、契約成立と同時に弁済期にあるため、自働債権であると受働債権であるとを問わず、いつでも相殺可能となる。
4.相殺が禁止される場合
(1) 性質上相殺できない場合(1項ただし書)
① 為す債務や不作為債務のように、相互に現実に履行をしなければ債権の目的を達することができない債務は、相殺できない。
② 相手方の抗弁権の付着した債権を自働債権として相殺することはできない。これを認めると、一方的意思表示によって、相手方は理由なく抗弁権を失うことになるからである。
→ 受働債権に抗弁権が付着している場合は相殺が許される。この場合は、相殺者が自己の抗弁権を放棄するだけだからである。
(2) 当事者が相殺しない旨の意思表示をした場合(2項)
当事者は、契約によって発生する債権については合意により、単独行為によって発生する債権については一方的意思表示により、相殺を禁止することができる。ただし善意・無重過失の第三者には対抗できない。