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「公認会計士」への道 21世紀の会計システム

 

前公認会計士試験委員

甲南大学大学院教授 河崎 照行

profile

1950年山口県に生まれる。1979年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。経営学博士(神戸大学)。1992年-1993年米国テキサス大学客員研究員。 1978年甲南大学経営学部助手、その後、専任講師、助教授、教授となり、現在、甲南大学会計大学院教授。2004年-2006年甲南大学副学長。 公認会計士試験委員、税理士試験委員を歴任。日本会計研究学会理事、日本簿記学会理事、税務会計研究学会理事。経済産業省中小企業政策審議会臨時委員

主要著書

『情報会計システム論』(単著、中央経済社、1997年)
『リスクマネジメントと会計』(編著、同文舘、2003年)
『電子情報開示のフロンティア』(編著、中央経済社、2007年)
『企業パラダイムと情報システム』(共著、税務経理協会、1991年)
『中小会社の会計指針』(共著、中央経済社、2006年)
『21世紀の財務報告:XBRLの本質』(監訳、同文舘、2007年)
他多数

論文

日本会計研究学会賞(1989年)を受賞。

プロローグ

会計行為は、企業の経済活動を会計情報(会計報告書)として写像し(会計測定システム)、それを利害関係者に提供する(会計伝達システム)行為です。したがって、企業の経済活動の基盤となる企業環境が変化すれば、それを写像し提供する手段である会計測定システム(会計理論)や会計伝達システム(会計ディスクロージャー)も、変化を余儀なくされることになります。

このエッセイでは、公認会計士を目指す皆さんへのメッセージとして、今日の企業環境の変化を踏まえ、会計システム(会計測定システムと会計伝達システム)がどのような変貌を遂げようとしているかを浮き彫りにすることにあります。

企業環境の変化

今日の企業環境は、少なくとも次の3つの側面から、その変化を浮き彫りにすることができます。

  1. 第1は「経済基盤の変化」です。従来の企業活動は国内に限定され、資金調達も国内の資本市場を前提としていました。これに対し、今日の企業活動は国境を越えてグローバル化し、資金調達も世界的規模で拡大化しています。
  2. 第2は「産業構造の変化」です。従来の経済社会は、製造業(製品プロダクト)を主軸とした「プロダクト型市場経済」として特徴づけることができました。これに対し、今日の経済社会は、金融サービス業(金融商品)を主軸とした「ファイナンス型市場経済」へ、その重点が移動しています。そして、この動きは、無形財(知的資産)を主軸とした「ナレッジ(知識情報)型市場経済」へと移行しつつあります。
  3. 第3は「企業実体(エンティティ)の変化」です。従来の企業は「企業の継続性」が重視され、社会性をもったエンティティとして存在していました。これに対し、今日の企業は「最大収益の獲得」のみが重視され、多数の「サイボーグ」(最大収益獲得のプログラムがビルトインされた事業単位)の集団として特徴づけることができます。

会計理論の変貌過程

このような企業環境の変化は、必然的に、会計理論(会計測定システム)を変化させることになります。その変貌過程は、「プロダクト型会計理論→ファイナンス型会計理論→ナレッジ型会計理論」として特徴づけることができます。

1. プロダクト型会計理論

「プロダクト型市場経済」における会計理論(「プロダクト型会計理論」)は、「原価・実現アプローチ」を基軸とする理論体系として構成されてきました。周知のように、この会計理論では、生産財やリアル資産を主たる認識対象とし、収益認識は「販売=実現」が原則とされました。また、利益計算の中心は、分配可能利益または業績利益(つまり、過去指向的計算)であり、利益決定のアプローチは、収益・費用アプローチ(フローを重視した計算)に焦点があてられ、資産の評価基準は、「取得原価」が採用されてきました。

2. ファイナンス型会計理論

これに対し、「ファイナンス型市場経済」における会計理論(「ファイナンス型会計理論」)は、「時価・実現可能性アプローチ」を基軸とする理論体系として構成されています。この会計理論では、金融財やバーチャル資産を主たる認識対象とし、収益認識は「実現」にとらわれない「実現可能性」が採用されることとなります。また、利益計算の中心は、将来キャッシュフローの現在価値という経済的利益(つまり、将来指向的計算)であり、利益決定アプローチは、資産・負債アプローチ(ストックを重視した計算)に焦点があてられ、資産の評価基準は、「公正価値」(時価)が採用されることになります。

3. ナレッジ型会計理論

さらに、最近では、企業価値創出のドライバーが無形財(ブランドやノウハウ等の知的資産)にあるとする認識が高まってきました。このような「ナレッジ型市場経済」における会計理論(「ナレッジ型会計理論」)では、ブランドやノウハウといった無形財がもたらす超過収益力(「のれん価値」)をいかに評価するかが中心課題とされます。今後の会計理論は、「将来キャッシュ・フローの現在価値」を評価基準の基軸とし、「将来キャッシュ・フローの最大化」を計算課題とする会計理論の展開に、その重点が移動するものと思われます。

会計ディスクロージャーの変貌過程

他方、今日の企業環境の変化は、情報要求の拡大化と開示手段の電子化が相まって、会計ディスクロージャー(会計伝達システム)も大きく変化させようとしています。その変貌過程は、「紙ベースの財務報告→電子ベースのビジネスレポーティング」として特徴づけることができます。

1. 開示対象の拡大化

このような変化のこう嚆し矢となったのが、米国公認会計士協会が公表したジェンキンス報告書です。この報告書では、次の3つの視点から、従来の「財務報告」を拡大化させた「ビジネスレポーティング」の提供が提案されました。

  1. 第1の視点は「未来化」です。これは、経営計画やリスク情報といった将来指向的な情報の提供をいいます。
  2. 第2の視点は「非財務情報の重視」です。これは、重要な事業の遂行プロセスなど、長期的な価値形成に焦点をあてた情報の提供をいいます。
  3. 第3の視点は「内部管理情報の外部化」です。これは、事業管理目的の情報を外部報告目的の情報として積極的に提供することをいいます。

2. 開示手段としての電子メディア

このような開示内容の拡大化は、開示手段としての電子メディアを前提としています。現在、Webサイト(ホームページ)に各種の会社情報を掲載する企業が急速な勢いで増加しています。このような会計ディスクロージャーの電子化(電子情報開示)は、従来の開示形式を(a)「定期報告」から「即時的・継続的報告」へ、また、(b)「静的・一方的報告」から「動的・双方向的報告」へ、変化させることが期待されている。

このような変化を可能にするのが、インターネット言語としてのXBRL(eXtensible Business Reporting Language)です。XBRLとは、インターネット言語のXMLを基礎とした標準化された財務報告用の言語であり、その目的は財務情報を効率的に作成・伝達・分析することにあります。この言語によって、各企業のWebサイトが表現されれば、財務情報が入力ポイント(会計帳簿)から最終利用ポイント(財務諸表)まで一気通貫した形で、デジタルな情報として処理できることになります。その結果、情報利用者(投資者等)は、各企業のWebサイトをまるで自分自身のデータベースであるかのように、自在に利用(加工・処理)することが可能となります。現在、XBRLの開発は、世界的組織であるXBRL Internationalによって精力的に行われており、そのような「夢の世界」が、いままさに実現しようとしています。

3. 電子開示システムの特質

では、電子開示システム(電子ベースのビジネスレポーティング)は、従来の財務報告(紙ベースの財務報告)を、具体的にどのように変化させるのでしょうか。それについては、次の点を指摘することができます。

  1. 事象の発生と同時に即時的かつ連続的に行われる「継続報告」であること。
  2. 将来指向的であり、予測情報を含む「現在情報」および「将来情報」の提供が重視されること。
  3. 財務情報のみならず「非財務情報」(例えば、環境情報や社会責任情報)を含む包括的な情報を提供すること。
  4. 情報利用者のニーズに合わせて任意の形式(カスタムレポート)で情報を提供できること。
  5. 電子メディア(Webサイト)を前提とし、その技術手段をインターネット言語としてのXBRLが提供すること。

エピローグ

このエッセイで浮き彫りにしたように、いま、会計システム(会計理論や会計ディスクロージャー)は大きな変貌を遂げようとしています。公認会計士を目指す皆さんの当面の目標は、公認会計士の資格取得です。そのためには、現行の会計制度(会計原則や会計基準)を正しく理解することに、全エネルギーを注ぐ必要があることはいうまでもありません。しかし、会計制度は、その時々の時代状況を反映したものであり、常に、変化して止まないものです。このエッセイが、次代の会計制度を考えるうえで、少しでもお役に立てれば幸いです。

皆さんの「夢の実現」を心より祈念しております。

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