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「モチベーション」を考える

クレアール経営学研究チーム

はじめに

度々登場するテーマ、モチベーションですが、やや心理学的な言い方をすれば、モチベーションには「動機」が必要であり、その「動機」がなければモチベーションを上げることもできません。

すなわち、モチベーションとは、私たちが行動をするときの心理的な理由を言います。「やる気」や「意欲」と同じような意味で使うことも多く見られ、日本語では、「動機」のこととなりますが、その動機を与えたり、引き出したりすることは「動機づけ」と呼ばれ、英語では、これを「motivation」と表記します。

これは受験をするにあたっては一番大切な問題であると思います。『勉強するモチベーションを安定して維持し、目標を達成する。』という命題に常に取り組んで、命題通りの成果をあげ続けていくことは、なかなか難しいことだと思います。

手を変え、環境を変え、プレッシャーをかけたりなどしてこの命題を追い続けていくわけですが、具体的な方法としてよく言われているのは、

  1. 小さな目標をたくさん作る
  2. ライバルを作る
  3. 気分転換に勉強場所をかえる
  4. どうしてもダメな時は休む

などでしょうか。

一流選手のモチベーションを読む

分野が異なりますが、モチベーションについてイチロー選手のこんな記者会見の記事をみつけました。

「うまくいかないことに挑戦する気持ちがモチベーションにつながる」とイチロー選手は言っていました。以下イチロー選手の談話です。

「達成感って感じてしまうと前に進めないんですか?そこがそもそも僕には疑問ですけど。達成感とか満足感っていうものは、僕は味わえば味わうほど前に進めると思っているので、小さなことでも満足感、満足することっていうのはすごく大事なことだと思うんですよね。だから、僕は今日のこの瞬間もとても満足ですし、それは味わうとまた次へのやる気、モチベーションが生まれてくる、と僕はこれまでの経験上信じているので、これからもそうでありたいと思っています」

イチロー選手は、何か遠くの目標を設定してそれに向けて頑張るというより、目の前の目標をクリアしていくことに重きを置いているようです。これはトップダウン型というよりボトムアップ型とも言えるもので、小さい成果が動機づけとなり、またこれをコツコツと積み上げていく過程が、また動機づけとなると語られていると思われます。そして、こうした一歩ずつ積み上げていくことが偉大な結果につながるということを、イチロー選手は、その偉大なる実績で示されておられます。

一流選手のモチベーションを分析する

翻って、このイチロー選手の談話を、経営学のいち分野である組織行動論の視点に照らして確認してみます。

組織行動論で扱う領域に於きましては、ストレートに、本稿テーマで挙げました「モチベーション理論」という論点を取り扱う分野があります。

組織行動論は、粗く言いますと、組織(いわゆる会社と思っていただいても結構です)が、その目標を達成するために、そこに所属するメンバー個々に焦点を当て、その個々のメンバーの「何に」、または「どのように」組織側からアプローチを掛けていくことが効果的かを探求している学問分野です。

大きく分類しますとそのアプローチ手法には、内容理論、過程理論、内的動機づけ理論も3種類の手法が現在までに提唱されており、その概要は以下の通りです。

内容理論では、人は「何」(=What)によって動機づけされるのかをアプローチの主眼として考えていきます。代表的な理論としては「マズローの欲求段階説」、「マグレガーのX理論・Y理論」、「ハーズバーグの動機づけ=衛生理論」などがあります。

それぞれの理論の説明につきましてはここでは言及はいたしませんが、例えば、それが報酬なのか、名声なのか、安定なのか、等を論理的な説明を試みているものです。前述のイチロー選手の談話で見ますと、小さな満足感とか小さい成果がそれに相当するものと思います。これは人によってまちまちだという印象もあろうかとは思いますが、その人の現在の環境や歴史など一定の条件下、汎用的に適合すると考えられる「何」を抽出しているもので、この「何」にアプローチすることで、人は動機づけられるものと考える理論です。言い方を変えますと、人の欲求に着目をした論理展開を行っている理論です。

過程理論では、人は「どのように」(=How or Why)して動機づけされるのかをアプローチの主眼として考えていきます。代表的な理論としましては、「強化説」、「公平説」、「期待理論」などがあります。

系譜的には内容理論から発展してきた理論ですので、内容理論で着目された「何」をの視点だけでは動機づけにはならず、それを「どのように」提示していくかで動機づけの結果の良し悪しが決まると考える理論です。これもイチロー選手の談話に当てはめてみますと、小さな成果のコツコツとした積み上げのプロセスが、動機づけになると、イチロー選手は主張されているものと思います。

最後に内的動機づけ理論です。これは、実社会を観察してまいりますと、「何の得にもならないのに何でそんな事までするの」などと他人から思われるようなことも進んで行う人をいることは事実で、その人をその行動に駆り立てる理由な何なのかの究明を試みている理論です。この理論に共通した粗い結論としましては、その人が取り組んでいるそもそものことに対する面白さや、その事に従事することから得られる優越感、有能感、満足感などがそれに相当するものとしています。イチロー選手の談話に照らしますと、上述の談話では直接触れられておられませんでしたが、同選手は幾多の場面で、自分は野球が好きであるという事を再三述べられておられ、この野球が好きということがこれに呼応するものと思います。

このように見てまいりますと、超一流のイチロー選手は、「モチベーション理論」の知見を借りて観察した場合、まさに「モチベーションの達人」でもあり、受験勉強に取り組む場合でも、仕事に取り組む場合でも、「モチベーション理論」も参照しながら考えますと、参考になるところ多きことと思い、上述のちょっとしたイチロー選手談話は、常に手許に置いて参照する価値のある金言と思います

モチベーションに関する心理学の知見

さて、ここで話が変わり、難しい話になりますが、モチベーションの定義についてもう少し説明したいと思います。
モチベーションは目的に向かう行動を立ち上げる力でありますが、では、どうして行動が立ち上がるのか、その仕組みについて考えてみたいと思います。

心理学では、2つの要因の組み合わせが必要であると考えられています。そして、そのどちらか一方でも欠けると意欲は湧いてきませんし、行動が立ち上がることもありません。

その1つとは、その人の内にあるもの、いわば欲しいという気持ちです。これは、欲求とか、願望とか、難しく言うと『動因』ということになります。

そして、もう1つは、その人の外にあるもの、欲しいという気持ちを高め、駆り立てるものです。心理学用語では『誘因』といいますが、要するに目標のことです。

この2つの、欲しいという気持ちと、欲しいという気持ちを高めるものがないと、その人の行動は立ち上がらないのです。
単純な例でいえば、食べたいという食欲、つまり『動因』があって、さらに、食事という『誘因』が出されて初めて食べるという行動に向けたモチベーションがスタートするのです。受験勉強をするという行動も、同じように考えることができると思います。

その学校に行って、就職活動を有利に展開したいとか、公認会計士や弁護士になって、生涯仕事に困らないようにしたいとかという『動因』と、それに合わせることのできる『誘因』、つまり勉強することで少しづつでもが分からなかったことが分かるようになり、成績もアップし始めたということで、モチベーションは高まり、結果試験に合格でき、結果、志望校入学や公認会計士、弁護士になれるといったソトに表れることになるというわけです。
こちらの視点で見ましても、イチロー選手の談話との相関性が感じられます。

終わりに

モチベーションは細い糸のようなものです。無理して伸ばそうとするといつかは切れてしまいます。どこまでも際限なく伸ばせるものではないのです。無理をすれば燃え尽きてしまいます。燃え尽きないためには、逆説的ではありますが、まず休むことを大切にすべきことです。

だだし、休み方のテクニックを覚えられるようになるのは、ある程度勉強に慣れてかからのことで、はじめから休むことだけしか考えないのは問題外である点、注意が必要です。最初は当然のことながらまず勉強の仕方を覚え、身につけることが先決です。

それから、何でもそうですが、繰り返し同じことをしていると飽きてきます。心的飽和というのは大たり小なり誰にでもあることです。その解決法というには少々大袈裟かもしれませんが、同じことでも違った角度からみればそれなりに新しく見えたり感じたりするものです。日々のアクセクから少し身を離してみるのも、もしかすると、モチベーションの向上に役立つかもしれません。こだわりを捨て大所高所に立つというのは誰にでもできることではありませんが、そのように努力を続けることそのものが、やる気をいつまでも失わせない、新鮮さの維持につながるようです。そういう意味では、趣味などを持つことも大切なことなのかもしれません。

長丁場の受験勉強ではありますが、疲れたら、是非イチロー選手の談話をモチベーション理論と照らし合わせ吟味いただくことを気分転換の一つの材料としていただければ、心理飽和をも超え、皆さんが目標を突破なされるのではないかと思います
これからも精一杯の応援をさせていただきます。

(参考文献)
「モチベーション入門」   日本経済新聞出版社
「モチベーションの新法則」 日経新聞出版社

 

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